毎日経済人賞は、優れた経営手腕で経済界に新風を吹き込み、社会的、文化的な活動を通じて国民生活の発展に貢献した経営者をたたえるもの。2020年の第40回に、女性として初めてこの賞を受賞したのが東横インの代表執行役社長を務める黒田麻衣子氏です。講義とプロフィールから、その活躍ぶりをのぞいてみましょう。

●創業時からの伝統で女性支配人率97%

 周囲を見ると、いきいきと活躍している女性は多いのに、国としての「女性活躍」は遅々として進みません。2019年末にも世界経済フォーラム(WEF)の発表したジェンダー・ギャップ指数で、日本は世界153カ国中、過去最低の121位に落ち込みました。

 となると、これは女性の活躍ぶりが問われているのではなく、社会からの評価ぶりに問題がありそうです。たとえば東横インでは、創業以来の伝統から「支配人の97%が女性」という積極登用を行っています。

 創業者は黒田氏の父親である西田憲正氏。ひょんなことからホテル経営に携わることになった西田氏は、1号店となったホテルの支配人にたまたま女性を起用します。それは西田氏行きつけの飲み屋のママさんだったのですが、次にオープンした2号店との間に稼働率で大きな差が出ました。

 調べてみると、女性が支配人をやっているホテルはとてもきれいで居心地がよく、一方の2号店はなんとなくタバコ臭く、暗くて汚いことが分かりました。「女性に向いた仕事なのかもしれない」という直感は、そのとき以来大切にされています。

 「女性のリーダーを出したいと思えば、やはり女性だけの組織にすべきだ」と思う、と黒田氏。その理由は、女性が男性に対して遠慮をしてしまうから。男性のいる組織では、「自分がリーダーをやります」と手を挙げる女性はまずいないとのこと。女性は調整役やガス抜き役にまわり、数字や評価につながる活動から外れがちになるとのことです。

 でも、まわりが女性ばかりであれば自ずとそこから女性のリーダーが出てくる。それは黒田氏自身が強く実感していることです。

●女性の特性を生かした「現地採用」で地元色も

 「女子校育ちで、他の会社に就職したこともないため、女性だけの職場にあまり違和感がない」と述べる黒田氏は、2002年に東横インに入社しますが、出産のため2005年には一旦退社して家庭に入ります。2008年に副社長として復帰するのは、いわゆる専業主婦として3年ほど過ごした後のことです。

 地域に密着して生活する女性の特性を知っているため、東横インでは全国津々浦々に存在するホテルの支配人を「現地採用」に限っています。ユーザーにとっては、そこに泊まればその地域のグルメ情報や観光情報も得られるため、一石二鳥。地元愛のある人がホテル・スタッフをしていると、安心感が違います。

 さらに東横インでは、ホテル支配人募集について「未経験で構いません」と呼びかけています。これも創業時、人を育てていく時間がなかったことと関連しているのですが、結果的にはそれが良かった、と黒田氏。

 また、優秀な女性でも、「支配人をやりませんか」と声をかけると「自分はリーダーには向いていない」と固辞する傾向が見られます。一方、最初から「リーダーになりたい」という意識のある人は、心構えも仕事ぶりも違うと言います。

●「上から言われたのでなく」動くのが女性の特徴

 さて、女性ばかりの社会は、どういうところが男性社会とは違うのでしょうか。黒田氏によると、「俺の背中を見て仕事をしてほしい」というのが男性社会の特徴だとすると、女性の特徴としていえるのは、遊んだりおしゃべりしたりしているように見えて、部下への目配りや声がけが行き届いているところ。また、上司に対しても積極的に「モノを言う」人が多いとのこと。

 これらは、出世や評価という先の計算よりも、今現在の職場環境をよくすることに重点を置いているからできることなのかもしれません。社外の取締役からは「横からの情報伝達が速く、上下の情報伝達が下手」と指摘を受けたこともありますが、上より横を重視するのが、女性の特徴なのでしょう。

 「周りの居心地がよくなければ、自分も居心地が悪い」と感じる点が強みとなり、一つの店舗内だけでなく、災害時などの拠点同士の助け合いも自主的に行われているようです。

 2020年4月6日には「東横INN東京駅新大橋前」店舗が、東京都の新型ウイルスコロナ軽症・無症状患者を受け入れたことでも話題になりました。同日には国内外17ホテルを休館し、4月9日には国内4ホテルを厚生労働省や自治体の要請を受けて一棟貸し出しすることも決めています。

 このような素早い判断も女性経営者ならではといえるのかもしれません。そこには、助け合いの精神が込められていることは間違いないでしょう。