核家族が当たりまえになり、子どもが生まれたら世話をするのは基本的に夫婦だけという家庭が多いのではないでしょうか。両親の助けを借りられず、ともに共働きの場合、またはどちらかが専業主婦(夫)であっても、ワンオペはつらいもの。夫婦だけで子どもを見守り育てるよりも、昔のような大家族で暮らしたほうが、子育てはもっとラクなのではないか、という考えが頭をよぎります。

そんななか、「昔のような大家族」とはひと味違う、新しい子育ての形、多世代、多家族での「子育てシェア」を提案するシェアハウスがあるとの情報を聞きつけ、子育て&国際交流シェアハウス「HASH196」を運営する株式会社絆家の代表、平岡雅史さんに、実際のシェアハウスでの暮らしについてお聞きしました。
(取材・文/みらいハウス 渡部郁子)

<平岡雅史さんプロフィール>
株式会社絆家 代表取締役。インテリア雑貨メーカー勤務後、2011年シェアハウス事業で独立。首都圏を中心に11のシェアハウスを手掛ける。2019年6月にオープンした「HASH196」は10拠点目。

結婚しても子どもが産まれても住めるシェアハウス「HASH196」

平岡さんが暮らしているのは、千葉県柏市にある「HASH196」。家族向けシェアハウスをめざして2019年6月にオープンしました。

「もともと家族が大好きで、実家を出て一人暮らしを始めたときに、だれもいない暗い家に帰るのが嫌だったんです。だから自然と、仲間といっしょにシェアする暮らしにシフトしました。その後、仲間たちと吉祥寺にイベントカフェをオープン。5年間で500以上のイベントを企画して、その経験から、コミュニティづくりに興味を持ち、そのときのつながりが、シェアハウス事業の独立につながりました。

最近シェアハウスが増えてきていますが、まだまだ単身者向けが多いのが現状です。そういうところは、結婚したら出なければならない、子どもがいたら住めないということになります。シェアハウスのような暮らしをいつまでもしたい、と考える人たちを受け入れるファミリー向けのシェアハウスをつくりたい、増やしていきたいと考えて、HASH196を立ち上げました」

100人が住む、4階建てアパートまるごとシェアハウス

HASH196は、4階建てのアパート1棟すべてをシェアハウスとして活用しています。全60室のうち、複数人で利用するドミトリータイプのシェアルームと、家族や個人で使える個室があり、そのほかに、キッチンやダイニング、キッズスペースなどの共用スペースが用意されています。

HASH196の中に入ると 、共用スペースの多様性、洗練された雰囲気、広さなどに驚きました。ワークスペースや映画部屋などもあり、快適な空間が広がっていました。


「もともとインテリア雑貨メーカーに勤めていました。それもあって、インテリアにはこだわっています。壁紙も部屋ごとにさまざまなものを取り入れています。部屋ごとに雰囲気が少しずつ違います。白一色の壁紙ではなく、トイレの壁にもワンポイントの工夫があることで、わくわくする場所、非日常感のある場を演出しています。

キッチンには、家庭用の大きなキッチンセットが6台並んでいます。調理器具はすべてそろっていて、調味料などは共用できます。だれかが自分の料理をつくりたいときに、キッチンが混雑して使えないということは今のところありません。また、みんなで食のイベントを開催するときなどは、キッチンを広く使えるので大人数で料理を楽しむことも可能です」

HASH196には「世界の食卓」というテーマもあるそうで、このキッチンを会場にイベントも実施しているそうです。

「ここには100人の住人がいます。多種多様な100人が暮らす家なので、その100人が交流する場として、定期的に食のイベントを開催しています。世界196か国の料理を制覇するため、毎回、○○国の料理というテーマで、だれかがイベントを立ち上げ、新しい料理に挑戦しています」

コミュニティの中で生まれる仕事

子育てシェアハウス、最大の特徴ともいえるのがキッズスペースの存在。そのスペースをのぞくと、平岡さんのお子さんが、シェアハウスの住人といっしょに遊んでいました。

「仕事のときは、子どもを住人のだれかに見ていてもらうようにしています。ふだんの生活で、よく面倒を見てくれる人もわかっているから、子どもを安心して預けることができます。ほかにも、キッチンの横の壁には大きなコンセプトイラストが描かれているのですが、これもここに住んでいる絵本作家のかたに、仕事としてお願いして描いてもらいました。

いっしょに住むことで、信頼関係が深まります。ほかの親子や学生さんたちがいるので、子どもにとってはたくさん兄弟がいるように感じていると思います。そして、住人が多国籍なので、日ごろのコミュニケーションのなかで必然的に英語を学ぶ機会が生まれます。ちなみに、日本語を話せない人も受け入れているため、バイリンガルのサポートチームがあり、シェアハウスのルールなどをきちんと伝える体制を整えています」


小さな子どもから見ると、大学生は大きなお兄さんお姉さんに見えるのでしょう。平岡さんの息子さんは、とても楽しそうにキッズルームでお兄さんといっしょに遊んでいました。

ちなみに、現在HASH196に住んでいる子どもは、平岡さんのお子さんのほかに、生後6か月の赤ちゃんと、小学生が2名で、親子世帯数としては3世帯。割合としてはまだ少ないですが、子育て世帯向けに2泊3日の体験会を実施するなど、積極的に受け入れのための取り組みを行っています。


「家族でシェアハウスに、しかも100人規模のところに住むというのはほぼ前例がありませんから、いざ始めるにもまだ勇気が必要なことだと思います。とくに、『同居者について、どのように選んでいるのか?きちんと選んでいるのか?』といった質問は、入居を検討する人から多く寄せられました。その点については、一人ひとりきちんと面談して、シェアハウスでお互いを思いやってすごせる人かどうか、コミュニティの文化に合うかどうか、を確認しています」

将来的には団地のようなシェアハウスに!?

100人の住人、ファミリー向け、国際交流と独自の方向性で運営されているHASH196。今後はどのような展開を考えているのか?平岡さんが語ってくれた展望は、とてもスケールの大きいものでした。

「シェアハウスは今、さまざまな会社が参入し、数としては増えています。とくに、独身向けのシェアハウスはたくさんあります。だから、僕らがめざすところは、ファミリー向けのシェアハウスを増やしていくこと。僕らだからこそできる家族向けシェアハウスを増やしていきたいと考えています。ここでは100人の住人が暮らしていますが、もっと大きな規模で、団地のようなシェアハウスをつくってみたい。それが今の目標です」

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HASH196を内覧して、100人の住人たちのコミュニケーションを円滑にするさまざまな工夫を発見しました。

たとえば、住人たちの自己紹介ツール。どんなことに興味があり、どんな目的でここに住んでいるのかを明確にし、そこから自然とコミュニケーションが生まれるようになっています。

マンションやアパートに住んでいると、お隣がどんな人かわからない、ということも珍しくないご時世。またシェアハウスによっては、住人どうしの交流がほとんどないところもあるなか、HASH196では個々が密につながっていくところを重視してコミュニティづくりを行っているところが印象的です。

また「子育て」というテーマにおいても、"子育てをシェアし助け合う"というよりは、多様な人が集まって、それぞれの特性を生かしてお互いに共存しようとするところにHASH196らしさ、そして新しいコミュニティのあり方を感じました。


◆取材・文/みらいハウス 渡部郁子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバーです。子連れで取材活動に取り組む一児の母。育児と仕事にまつわる社会課題への支援事業や、子育てしやすい地域環境を構築する仕組みづくりを行っています。

構成:サンキュ!編集部