今年のアカデミー賞でドキュメンタリー映画賞と国際映画賞(旧・外国語映画賞)にWノミネートされた。これは史上初の快挙。すごいのはやはり、ドキュメンタリー映画でありながら国際映画賞にも選ばれたことだろう。『パラサイト 半地下の家族』のライバルだったわけだ。北マケドニアの電気も水道もない山岳地帯で寝たきりの老母と暮らす自然養蜂家の女性をカメラが追う。

 まず驚かされるのが、素手で蜜蜂の巣からハチミツを採取すること。養蜂を扱った映画は少なくないけれど、それだけでも俳優が演じるのとは違う“本物”感が伝わってくる。彼女は“自然”養蜂家なので蜜蜂を飼っているのではない。蜜蜂が作った巣から「半分だけ」を信条に自然の恵みを受け取って生計を立ててきた。ところが突然、トレーラーでやって来た大家族が隣人になったことで…。

 国際映画賞へのノミネートも納得のドラマ性。まるで事前に脚本があったかのよう。これは3年の歳月をかけ、400時間にわたって彼女に密着したものを88分にまで絞り込んだ成果だろう。つまり豊富な素材が可能にしたドラマ性なのだ。しかも、その時間が彼女の視界からカメラの存在を消し去り、選び抜かれた素材ゆえ画面に圧倒的な強度までもたらしている。ラストの彼女のアップも素晴らしく、ペドロ・コスタの大傑作『ヴァンダの部屋』を思い出させる、と書いたら褒めすぎだろうか。★★★★★(外山真也)

監督:リューボ・ステファノフ、タマラ・コテフスカ

出演:ハティツェ・ムラトヴァ

6月26日(金)から全国順次公開