新型コロナウイルス対策が求められる中、インターネットを活用した「バーチャル株主総会」を開く上場企業が増えている。6月だけで120社以上が実施。「昨年の10倍以上」(関係者)との見方も出ている。もともとバーチャル総会は会社と株主の対話を「密」にする手法として議論されてきた経緯があるが、コロナ対策で物理的な「3密」を避ける必要から機運が盛り上がった。日本は欧米に比べて後れていたが「今年は様子見をした企業も来年は取り入れる」という観測もあり、普及に弾みが付く可能性がある。(共同通信=長谷川観自)

 ▽孫氏ら幹部、全員オンラインで登場

 「本日は新型コロナウイルス感染のリスクを最小限に抑えるため会場へのご来場は原則ご遠慮いただきました。一方で議決権行使や質問が可能になる『インターネット出席』の方法を新たに採用しております」

 6月25日にあったソフトバンクグループ(SBG)の株主総会。議長を務める孫正義社長が冒頭、モニター画面の中で深々と頭を下げた後に語りだした。

 これまでの総会へのインターネット活用といえば、映像を配信して外から会場の様子を見るだけのものだったが、今年に入ってから、その場で議決権行使までができる「出席型」と呼ばれる本格的な方式が登場した。

 ただ日本ではオンラインだけの総会は認められていない。会社法の規定で「会場」を設ける必要があり、小規模な会場を確保しながら、オンラインでも質問や議決権行使をできるようにする「ハイブリッド出席型」と呼ばれる方式が行われている。SBGが採用したのもこの手法だ。

 SBGは、東京都港区にある本社の一室に「会場」を設けたが、そこにあるのはモニターのみ。孫社長をはじめ、経営陣はそれぞれビル内の別室や自宅などからオンラインで登場。実際に来た株主はわずかに23人だった。会場の株主は、モニター越しに経営陣の話に静かに耳を傾けた一方、オンラインでは122人が参加した。昨年は大会場で1993人が集まっており、まさにコロナ下で様変わりした。

 このハイブリッド出席型は、3月に富士ソフトが初めて行い、ヤフーの親会社ZホールディングスやIT企業のアステリアなどこれまでに計13社が実施した。

 ▽地方株主にメリット

 オンライン方式は地方など遠隔地に住む株主に特にメリットがある。SBGとZホールディングスの2社のバーチャル総会に出席した福井市の会社社長、安井英典さん(61)は「東京で開催される株主総会にはなかなか行けないので、この取り組みは歓迎だ。来年も是非続けてほしい」と話した。

 SBGの総会では、質問はオンラインで受け付けた文面を孫社長が読み上げ、続けて回答した。出席者からは「都合の良い質問を取り上げる可能性がある」という懸念も出たが孫社長はそれを否定しながら、「オンラインではより多くの方が質問をできる。さらに進化させていきたい」と語った。

 ▽映像配信は「参加型」

 この流れには下地があった。経済産業省が2月にバーチャル総会に関する「実施ガイド」を作成して公表したのだ。ガイドでは、従来型の総会を「リアル株主総会」、ネットを活用したものを「バーチャル株主総会」と分類。バーチャル株主総会のうち、同時映像配信だけを行うものを「参加型(ハイブリッド参加型)」、議決権行使などもできる進化形を「出席型(ハイブリッド出席型)」とし、経産省として普及を後押しする姿勢を示した。

 株主総会の開催を支援する三菱UFJ信託銀行によると、コロナ対策として映像配信を行う参加型が急増している。6月総会では113社が実施したという。みずほフィナンシャルグループ、日本郵政、日産自動車、NTTといった巨大企業に加えて、東北電力、山陽特殊製鋼、広島銀行など地方勢も名を連ねた。

 「参加型」の場合、原則として傍聴だけという参加形態となり、議決権行使は事前に済ませておく必要がある。しかも会社法上「出席」扱いにはならないという課題があった。「出席型」はその点、会場に来ているのと近く、バーチャルの名にふさわしくなっている。

 ▽米国では完全オンラインも

 一方、米国でバーチャル総会といえば株主全員がオンラインで出席する形式が普通だ。日本のように「会場」は必要ない。米IT企業ブロードリッジの集計では2019年に約300社が開催した。経産省の実施ガイドではこの形式を「バーチャルオンリー型」と呼んでいる。

 新型コロナ感染が拡大する中、経産省と法務省は4月、「来場自粛を促した結果、会場出席者がゼロになっても構わない」との見解を新たに示した。これを受け、日本でもバーチャルオンリー型に近いことができるのではないかと取り組んだのがアステリアだ。

 同社は「結果としての会場出席ゼロ」を目指し、約1万人の株主に送った招集通知の表紙に赤字で「来場を控えて」と書き、オンライン出席を呼び掛けた。

 結果的に6月25日の総会には7人が来場。「ゼロ」は果たせなかったが、昨年の出席者184人からは大幅に減り、オンライン中心の総会を実現できた。

 ▽バーチャル総会で株主平等実現を

 バーチャル株主総会を推進する平野洋一郎社長は、多くの企業で総会のコロナ対策として実行された時間短縮といった動きを「株主の権利を制限するもので、会社のガバナンス強化をする流れに逆行している」と問題視する。コロナとの長い戦いも予想される今後を見据えた場合、緊急避難的な扱いではなく、きちんとした法改正をして、米国のような完全オンライン総会をできる環境を整えていくべきだと訴える。「法務省には会社法の『場所』が必要という点の改正を強く求めたい」

 メリットに関しては「もともとバーチャル株主総会はコロナ対応ではない。総会に参加できる人を広げようとするものだ。株主平等の原則があるが現状では開催場所の近くに住む人だけが参加できる。バーチャルなら地球上どこにいても参加できるようになる」と強調した。

 ▽参加人数減少、高齢株主にハードルか

 だが今回の新しい試みでは課題も浮かび上がった。各企業で参加人数の大幅減が見られたこともその一つだ。

 SBGの場合、オンライン出席は122人(会場出席を加えると145人)、Zホールディングスは92人(同110人)。昨年のリアル会場で行われた総会は、それぞれ1993人、1751人で、それに比べると極端に減ってしまった。ITに詳しくない高齢株主には参加のハードルが上がったことも一因とみられている。

 一方、旗振り役の経産省の担当者は「出席型の実施数が思ったよりも増えた」と評価する。

 三菱UFJ信託銀行の佐久間大輔・法人コンサルティング部調査役は「今年は検討時間が少なくバーチャル総会の導入を断念した会社もあったと聞く。今後は、遠方の株主に参加機会を提供し、リアル株主総会の規模を縮小する代替策としてもっと広がるだろう」と話した。

 新型コロナを契機に、ともすれば「儀式」となっていた総会は、会社と株主が活発に議論できる場に変わるのか。実現すれば日本企業にはよい方向となりそうだ。