世界に1台の自分だけの自転車を作りませんか―。大阪の繁華街・ミナミにあ る若者文化の発信地「アメリカ村」に、自分の好みで部品や色を選んで自転車を 注文できる店がある。店長は、元客室乗務員(CA)という異色の経歴を持つ笑 中(しょうなか)ふみさん(43)。自転車に関しては全くの素人だったが、約 30年続いた父親の店を復活させた。今では、自転車を通じてつながった客との 交流を楽しんでいる。(共同通信=小林直秋)

 ▽子どもの頃からの夢を実現

 飲食店などが並ぶ通りに面した入り口から地下へ続く階段を下りると、自転車 店「PALM GARAGE(パームガレージ)」はある。独特な色の組み合わ せの自転車が並ぶ店内には、軽快な洋楽が流れ、壁には色とりどりのサドルや部 品が掛けられている。「他の店とは違う雰囲気にしたかったんです」。笑中さん が声を弾ませて出迎えてくれた。

 父公三(こうぞう)さん(69)がこの場所で輸入バイクの販売を始めたのは 1976年。自転車も扱うようになると、こだわりのある自転車作りにファンに なる客が何人もできた。「街中で『かっこいいな』って思う自転車は、うちのも のでした」

 笑中さんは短大卒業後、フィットネスジムのインストラクターに就いたが、小 学生の頃からなりたかった職業は客室乗務員。夢を諦め切れず、98年に全日空 に入社、国内外を飛び回った。「お客さんと話すのが何より楽しかった」と振り 返る。

 ▽猛反対の父を説得

 充実した日々だったが、14年に3人目の子どもを出産した際、産休中に「新 しいことに挑戦したい」という思いが強くなった。そのとき頭に浮かんだのが、 公三さんが客と楽しそうに話をしていた姿。店は2004年に閉店していたもの の、在庫は残っていた。

 店の手伝いさえしたことがなかった笑中さんだったが、「自分で店をやってみ たい」という気持ちが芽生えた。店の復活を相談すると、公三さんは「なんでし んどい道を進むんや」と猛反対。それでも思いを断ち切ることはできず、15年 秋に全日空を退社。大阪市の自転車店で約8カ月間、基本を一から学んだ。

 説得を重ねるうちに公三さんも応援してくれるようになった。「自転車だけ売 るんじゃない。自転車のある生活を売るんや」「客室乗務員の経験を無駄にする な」。助言を受け、16年に開業にこぎ着けた。

 ▽写真とお礼の手紙を添えて

 オーダーメードの自転車店は他にもあるが、笑中さんの店は日本製のフレーム や部品を多く扱っているのが特徴だ。客は街乗り向けなど四つのタイプから一つ を選び、好みの色の部品を組み合わせて注文する。

 1台約5万円からと安くはないが「10〜20年、長く乗れます」と耐久性に は自信がある。お気に入りの1台を選ぶために、1時間以上悩む客もいるという。

 購入した客には、自転車と一緒に撮影した写真を渡している。お礼の手紙も添 えるのは、客室乗務員の頃から実践している心遣いだ。

 「開業直後は全く客が来なかった」と自営業の厳しさも痛感した。でも、今で はなじみの客も増えた。「自転車を通じてお客さんとつながれる今が一番楽しい」。 そう言って、満面の笑顔を見せた。

 ▽取材を終えて

 白色のタイヤや水色のフレームもあれば、落ち着いた茶色の革のサドルもある。 店内に並ぶ個性的な自転車に魅了された。「この自転車に乗って街を駆け巡った ら、どんなに気持ちいいだろう」。想像が膨らんだ。

 笑中さんは「自転車は単なる移動手段ではない」と何度も口にした。「自転車 に乗らないと気が付かない街の景色がある」。話を聞いていると、自分も新しい 景色を求めて自転車に乗ってみたいと思った。