新型コロナウイルスが猛威を振るい、患者を受け入れる全国の医療機関では院内感染を防ごうと努力が続けられる中、段ボール製の簡易型診療室がにわかに脚光を浴びている。組み立てが簡単ですぐに病院内に設置でき、感染の疑いがある患者と他の患者とを分けて診察できる。開発したのは東日本大震災、東京電力福島第1原発事故の被災地、福島県の老舗段ボール製造企業だ。当時の教訓をきっかけに生まれた商品が、コロナ医療の最前線で役立っている。(共同通信=高田知佳)

 福島県中通り地方の中央部にある須賀川市。簡易型診療室を開発した神田産業は、同市の工業地帯の一角にある工場で、大小さまざまな段ボールを1万種類以上製造している。1897年に木材商として開業したのが始まりで、地元でも歴史のある企業の一つだ。

 簡易型診療室は、段ボールの表面に強化処理を施したパネルを組み合わせる構造で、大人3人が15分ほどで組み立てられる。幅3メートル、奥行き2メートル、高さ2・2メートルで、天井も備え、ウイルスの拡散を防ぐことができる。これまで年間3台ほどしか製造していなかったが、今年は既に15台。福島県内だけでなく埼玉県の病院からも注文があった。

 開発のきっかけとなったのは、2011年3月の東日本大震災と福島第1原発事故だった。社長の神田雅彦(かんだ・まさひこ)さん(59)らは、住民が身を寄せる避難所に自社の段ボールを寄付したが、寒さ対策で床に敷いたり、仕切りとして利用したりするしか用途がなかった。「段ボール素材を生かして、もっと役立つ商品ができるはずだ」との思いを強くし、開発に着手した。地元の医大などから実用的なアドバイスを受けながら、約2年かけて簡易型診療室を完成させた。

 医師の助言を基に、診療室として清潔な環境を保つために、内装の表面を加工し、血液などが飛び散ってもすぐ拭き取れるようにするなど清掃しやすくする工夫を凝らした。病原菌やウイルスで汚れた場合、比較的簡単に廃棄できるのも利点だ。

 開発者の一人、石沢秀忠(いしざわ・ひでただ)さん(46)は「恒久的に使うものではないからこそ、購入を渋るような高価なものであってはならない。段ボールは防災商品としてあらゆる用途に転換できる可能性を秘めている」と話す。販売価格は35万円程度で、一般的なプレハブ小屋より値段は比較的安く抑えられている。

 2016年の熊本地震では、熊本県宇城市の避難所に授乳室などとして設置されたほか、18年の西日本豪雨では岡山県倉敷市で仮設トイレ設置用の空間として活用。昨年10月の台風19号では、浸水被害を受けた福島県本宮市の病院で使われた実績がある。もともと診療に使っていた部屋が浸水したため、病院内の食堂に段ボール診療室を設置。今年2月まで利用されたという。

 今年に入って海外進出も果たした。内戦が続くシリアからギリシャに逃れた難民の避難所としても使用された。より大きいサイズとして作った12平方メートルの空間に3段ベッドを4台設置し、女性12人が生活している。石沢さんは「女性たちに『暖かい』と喜ばれ、海外まで持って行ったかいがあった」と振り返る。

 簡易型診療室のほかにも段ボール製ベッド「簡段(かんだん)」も売り出した。12個の段ボール箱を組み合わせて一つのベッドになる。災害の避難所となる体育館などで避難者用のベッドとして活用され、床のほこりに悩まされることなく、寒さもしのげるという。

 今年4月には、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、新たに、スタンド付き飛沫(ひまつ)防止パネルを新たに開発した。段ボール製の枠にペットボトルにも使われる「PETフィルム」をはめた。既に福島県庁や須賀川市役所などの行政機関や、銀行など企業の窓口でも使われ、約7千枚を出荷した。アクリル板に比べて軽く、価格も約3千円と安く抑えられている。リサイクルできる素材で環境にも配慮しているため、需要が高まっているという。

 パネルが設置されている福島県政相談センターの担当者は「軽くて安くて便利。県民からの評判も上々だ」と語った。神田さんは「現場の苦労を軽減する一助となる製品をこれからも開発していきたい」と話している。