新型コロナウイルス感染が広がり続ける中、自身の性別に違和感を持つ性的マイノリティーは、おびえながら日々を過ごしている。感染すると、自治体の発表によっては職場などで性自認や性的指向が暴露(アウティング)される可能性があるためだ。感染の恐れに加え、二重の不安を抱えており、恐怖から受診を控える動きも指摘されている。支援団体は自治体に対し、情報開示する際もアウティングにつながらないよう極めて慎重な対応を求めている。(共同通信=鶴原なつみ)

 ▽「枠にはまらなくていい」

 「感染確認のニュースを見るたびに恐怖が走る」。性的少数者の当事者らの交流会「lag」代表丸山真由さん(36)が打ち明ける。戸籍上は女性で、自分のことを「ほぼ男性」と感じている「Xジェンダー」。普段は男性として生活している。

 子どもの頃から、「女性が好き」という気持ちを押しとどめてきた。結婚し、2013年には出産した。周囲から「お母さん」や「ママ」と呼ばれるたびに、「自分の存在がなくなっていくような恐怖」を感じて苦しくなった。やがて、女性として扱われる違和感が決定的となった。

 ホルモン治療を受け、時間をかけて少しずつ「世の中の枠にはまらなくてもいい。自分として生きていいんだ」と息をつけるようになった。氏名も変更し、現在は女性のパートナーと暮らしている。身体と性自認の不一致は受け入れており、性別適合手術を受けるつもりはない。

 ▽募るアウティングの不安

 丸山さんは男女平等参画などを推進する施設で働いている。ただ、一部の職場関係者や来所者には自身の性について打ち明けてはいない。カミングアウトをするなら、自らのタイミングで話したいと考えている。

 ただ、もし新型コロナに感染すると、自治体は戸籍に従って「女性」と唐突に発表してしまう可能性がある。住所や職業をどこまで公表するかにもよるが、自分の性について、望まない形で周囲に知れ渡り、仕事や人間関係に支障を来すのではという不安が拭えない。当日の詳細な行動や職場まで発表する自治体もある。感染者が容易に特定されうる実態に、恐怖を感じている。

 丸山さんが毎月開催していた性的マイノリティー同士の交流会も、新型コロナの影響で約4カ月間、休止が続いた。理由は感染のリスクだけではない。誰かが感染すれば行政の感染経路調査によって、接触した他の参加者が暴露される恐れがあるためだ。

 ただ、参加者からは、自分を隠さず、安心して過ごせる貴重な場所を失い、孤立感を訴える声も届いた。このため、現在は試験的にオンラインでの交流会を始めている。

 性的マイノリティーは、コロナ禍の前から疎外感を抱えることが多かった。公的書類の提出時や銀行口座の開設時など、交渉しても戸籍上の性別を重視される機会が多い。性別欄を見るたびに強烈な違和感を拭えずにつらい。丸山さんは「日頃から『いないもの』にされている感覚はあったが、コロナでそれをより強く感じるようになった」と訴えている。

 ▽性自認と異なる病室に 

 病院の対応に戸惑う当事者もいる。性的少数者を支援する「草加市LGBT+カフェ」代表の岩井紀穂さん(49)は「医療の世界は保守的で、性的少数者への配慮はなかなか進んでいない」と説明する。

 岩井さんは女性の身体で生まれたが、性自認は男性のトランスジェンダー。昨年、胸の切除手術を受けたが、子宮や卵巣の摘出はしておらず、戸籍の性別変更は認められていない。

 6月ごろ、腹痛や大量の発汗で病院を受診した。入院が必要と告げられ、救命病棟の部屋に運ばれた。切除手術以外では岩井さんにとって初めての入院。必要と分かってはいるが、自分の身体を医師に診せ、処置を受けることには強い抵抗を感じた。

 さらに、症状が回復すると移ることになる一般病棟は、男女別。「男性用の病室にしてもらえないか」と要望したが、病院側からは「性自認ではなく、戸籍上の性別が適用される」として断られた。

 女性用の病室に行く日が近づくと思うだけで大きなストレスになり、終始気が休まらなかった。医師と話し合い、通院することを条件に、予定より早めて退院した。

 「命の危険と比べれば大したことではないと捉えられるかもしれない。でも、こんな思いをするくらいならと病院に行かなかったり、行けなかったりする当事者は多いだろう」

 退院後は、性自認に配慮したLGBTフレンドリーな病院を広める活動を手がけている。

 ▽受診ためらう声

 性的少数者を支援する「LGBT法連合会」は5〜6月、全国の自治体や超党派議員連盟に対し、同意のない個人情報の暴露を防ぐよう要望した。連合会には、性的指向や性自認が暴露される不安から、体調が悪くても受診をためらう声が多く寄せられているという。

 全国の支援者団体を通じて行ったアンケートでは「相談窓口で差別的な対応を受けるのではないか」「コミュニティー内で感染が起きても、当事者が履歴を明かさず、必要な支援が受けられないのでは」と不安の声もあった。

 連合会の神谷悠一事務局長は「コロナの影響で支援事業が縮小するなど、相談先が不足しており、当事者も閉塞感(へいそくかん)がある。これ以上深刻化する前に、当事者に配慮した対応を徹底してほしい」と指摘している。