自民党の杉田水脈衆院議員が、性暴力被害に関して9月に「女性はいくらでもうそをつけますから」と発言した問題がうやむやのまま忘れられていくのではないか。被害経験者や支援団体は危機感を抱いている。

 この種の発言が、性暴力被害を潜在化させ、世界的に問題視されている「レイプ神話」につながることを(上)で説明した。

 (下)では、杉田氏を抱える自民党の問題を詳述したい。(共同通信=小田智博、三浦ともみ)

 ▽沈静化を待つ

 杉田氏の問題発言は今回だけではない。2018年には、性的少数者のカップルについて「子どもをつくらない、つまり『生産性』がない」と月刊誌に寄稿し、この時も批判が相次いだ。

 「メディアと自民党」などの著書がある東京工業大の西田亮介准教授(社会学)は「同じような発言を繰り返すのは、選挙に影響がないと思っているからではないか」とみている。

 杉田氏は旧日本維新の会などを経て、17年の前回衆院選で自民党の比例中国ブロックから出馬し、当選した。衆院選の比例代表は候補者名ではなく、政党名のみを記載して投票する。西田准教授は「有権者は、数々の政策や他党との比較など、多様な要素を総合して政党を選ぶ。結果的に、1議員の問題発言は見逃されがちだ」と指摘する。

 ただ、杉田氏の発言は、性暴力対策の強化を掲げている政府の意向とも大きく異なっている。自民党は政権与党として、所属議員によるこの問題に正面から向き合ってもよさそうなものだが、今回はひたすら沈静化を待つような動きが目立った。

 自民党の対応にも不信感を感じたフラワーデモの主催者らは10月13日、その日までに集まっていた杉田氏の謝罪や辞職を求めるインターネット署名を提出するため、東京・永田町の自民党本部を訪れた。その時点で署名は13万6千筆を超えていた。

 ▽突然のメール

 党本部前で対応したのは自民党ではなく、本部ビルの管理担当者。「党として受け取れない」と述べ、「前例がない」「アポ(約束)がない」との理由を挙げて門前払いにした。

 しかし、主催者の1人で、作家の北原みのりさんによると実情は異なる。「実際は、日程調整をほぼ毎日のようにお願いしてきた」とこの間の経緯を明かす。

 署名は9月25日の杉田氏の発言翌日からインターネットのサイト「Change.org」でスタート。同月28日には野田聖子・党幹事長代行に面談と署名の提出を要望したが、断られたため、橋本聖子男女共同参画担当相にも打診した。

 すると30日、野田氏の事務所から一転して「面談を受ける方向で調整する」との連絡があった。

 その後は「日程調整中」の状態が続き、10月8日になって突然、「杉田氏は既に謝罪し、進退は本人が判断すべきこと。署名は受け取れない」とメールで回答があった。

 北原さんらがやむを得ず、直接党本部に署名を持参したのは、こうした経緯があったからだった。

 しかも、本部ビル管理者は、署名の受け取りについて「前例がない」とも述べたが、この点も事実と異なる。杉田氏が性的少数者について「生産性がない」と寄稿した際は、当事者らが杉田議員に謝罪会見を開かせるよう求める署名約2万6千筆を提出できたからだ。

 ▽「逆牛歩戦術」

 評論家の荻上チキさんは「現在の与党は、何か問題が起きたときに、できるだけ対応を遅らせ、多くの人が関心を持たなくなるまで待つ『逆牛歩戦術』を常とう手段にしている。今回の署名受け取り拒否も、その典型だ」と指摘している。

 国会などでの記名投票時、投票箱まで牛のようにゆっくり歩いて議事を遅らせることを「牛歩戦術」というが、これは法案成立などを阻止しようとする野党が主に行ってきたものだ。今回のケースでは、荻上さんは与党の自民党による問題の先送りであることを踏まえて「逆」と表現した。森友・加計学園問題や、日本学術会議を巡る問題でも、同様の戦術がしばしば使われているようにみえる。

 荻上さんは、杉田氏を比例代表名簿の上位に置いて当選させた自民党の責任に言及した上で「政党として応答してほしいと求める署名を、受け取りさえしないのは適切な態度かどうか、考えるべきだ」とも話した。

 保守派の評論家古谷経衡さんは、今回の発言で杉田氏の「地金」が出たとみている。

 古谷氏によると、杉田氏は自民党で出馬する前から「男尊女卑の傾向が強く、封建的な価値観の中高年男性らに寄り添う発言を繰り返して『女性なのにいいことを言ってくれる』と支持を集めていた。自民党は、擁立時からこの問題点を把握していたはずだ」。

 そう述べた上で、自民党の一連の対応については「似たような発想の国会議員が何人もいて、党は厳しい処分ができないのでは」と推測している。

 ▽無理解ほかにも

 確かに、自民党議員による性的少数者やジェンダーへの無理解に基づく発言は目立つ。

 例えば18年の財務省事務次官による女性記者へのセクハラ問題では、麻生太郎財務相が「(事務次官が)はめられて訴えられているんじゃないかとか、いろいろなご意見は世の中いっぱいある」と述べた。(記者会見で本人が「そういう話もあるという話をしただけだ」と釈明)

 今年9月に発足した菅義偉内閣で復興相に初入閣した平沢勝栄衆院議員は19年、山梨県内の集会で「性的少数者ばかりになったら国はつぶれる」との趣旨の発言をしていた。(取材に本人が「LGBTの方の権利を守るのは当然だと思っている。存在を否定する意図は全くない」と説明)

 加藤寛治衆院議員は18年、結婚披露宴で若い女性に「あなたが結婚しなければ子どもが生まれないわけですから、人さまの子どもの税金で老人ホームに行くことになります」と呼び掛けたことを、派閥の会合で自ら紹介した。(事務所が「発言を撤回します」とコメントを発表したが、その後の自民党長崎県連定期大会で本人が「批判もあったが、全国から賛同、激励が多数寄せられた」とあらためて発言)

 こうした発言があっても多くの場合、自民党は事実上不問にしている。杉田氏が月刊誌に寄稿した「生産性発言」の際も、二階俊博幹事長は「政治的立場はもとより、人生観もいろいろある」と言い、問題を放置した。

 その結果、性的少数者に加え、障害者や難病患者らからの批判も高まってくると、ようやく党として「配慮を欠いた表現」と指導した。

 今回の発言については、世耕弘成参院幹事長が記者会見で「次はない。同じような発言を繰り返せば、党として真剣にけじめをつけなければいけない」と述べた。一見、厳しい非難のようだが、裏を返せば「今回は見逃す」ということだ。

 実際、世耕氏は自民党が署名を受け取らなかったことについて「抗議活動については杉田氏がしっかり対応することに尽きる」と語り、党としてこれ以上取り組む考えがないことを明確にしている。

 ▽菅首相の見解

 10月28日、政治の場で、杉田氏の発言が久しぶりに取り上げられた。衆院本会議で代表質問に立った立憲民主党の泉健太政調会長が、杉田氏の発言や、杉田氏の謝罪や辞職を求める署名を自民党が受け取っていないことに触れ、菅義偉首相に見解を正した。

 自民党総裁でもある菅首相がこの問題に言及するのは初めてで、発言が注目された。菅首相の答弁はこうだった。

 

 「DVや性犯罪、性暴力の被害者が声を上げることを躊躇するようなことがないよう、政府を挙げて引き続きしっかり取り組んでいきます」。総論としては、性暴力対策を進める意向を示した。

 しかし、自民党による署名の受け取り拒否を巡っては「国会議員は出処進退を自ら判断するものであると考えており、その(署名の)取り扱いについて党の判断を尊重します」と述べた。受け取らなかった党の対応を追認する発言だ。

 杉田氏の発言そのものについても、こう話した。「今回、(下村博文)政調会長からの注意を受け、謝罪をしているものと承知しています」。

 首相として、杉田議員の「逃げ切り」を事実上認める発言だった。

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