近所にロシアのミサイルが落ちた。地震のように家が揺れる。ウクライナ東部ザポロジエに住んでいたオレーシャ・ボイツォワさん(43)は、夫と娘と共に隣国ポーランドに脱出した。
 「でも、欧州は避難民が多すぎた。日本も受け入れていると知人に聞いて」。2022年7月に来日し、東京都営住宅で暮らす。家賃や光熱費は都が賄い、月約17万円の生活費が政府から支給される。
 「支援にはとても感謝している。ただ、夫は障害があり、私が仕事をしないと生活は厳しい」。子ども向けの英語講師を務めた後、都の職業訓練プログラムに半年間参加し、職を探している。(共同通信編集委員=原真)

 母国では麻酔医として活躍していた。しかし、日本の医師免許がないため、同じ仕事には就けない。せめて医療に関係する職場で働きたいと考えているものの、見通しは立たない。
 「医師や弁護士、教師など、ウクライナ避難民には専門性を持つ人が多いが、国家資格や言語が壁になって、能力を生かせない」。オレーシャさんらを支援する日本YMCA同盟の横山由利亜・主任主事は指摘。政府や自治体の支援が終了した場合、自立できる避難民は1、2割ではないかと懸念する。

 ▽子どもは三つの学校へ
 娘のアナスタシアさん(15)は都立中と日本語学校に通い、ウクライナの中学校の通信教育も受けている。「すごく大変だけど、頑張る。今ウクライナに帰ったら、もっと大変な生活になるから」。大好きなアニメや漫画のフィギュアを並べた部屋で、つぶやいた。
 ロシアとの戦いは終わりが見えない。「終わったとしても、自宅が残っているかも分からない。将来の計画を立てられないのが、一番のストレスだ」とオレーシャさん。
 22年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻すると、日本政府はウクライナ避難民の受け入れを表明した。これまでに2500人以上が来日し、400人余りが帰国するか第三国へ移り、今も約2100人が日本で暮らす。
 政府は、来日する飛行機を手配し、一時滞在施設を提供するなど、自治体や企業とも連携して、他国出身の難民や避難民に比べ格段に手厚い支援を行ってきた。首相の岸田文雄は「国際秩序の根幹を揺るがすロシアの侵略を踏まえた緊急措置で、それ以外の方々への対応とは一概に比較できない」と弁明する。
 23年6月の入管難民法改正で、条約上の難民に該当しない戦争避難民らを、難民に準じて保護する「補完的保護」制度が新設されている。政府はウクライナ避難民を念頭に、同年12月、補完的保護の申請を受け付け始め、オレーシャさんらも申請、24年2月に認定された。難民と同様に、より安定的な「定住者」の在留資格(在留期間5年)が付与され、生活保護の受給も可能になる。
 横山主任理事は「日本でゼロから生活を始めるのだから、どれだけ支援しても、やり過ぎることはない」と言い切る。「ウクライナを前例として、外国から来た人への支援を広げていきたい」