体操選手からくノ一へ、戸惑いながら進む道  忍者の奥深さ、伝えたい

体操選手からくノ一へ、戸惑いながら進む道  忍者の奥深さ、伝えたい

 力強い助走から床を蹴り、高く舞った体は、まばたきの速さで2回宙返り―。浮田半蔵(うきた・はんぞう)さん(59)は、息子にバック転を教える講師を探そうと訪れた体操道場で見た一人の女性の動きから目が離せなくなった。「身のこなしも技もずばぬけていた」。それが渡辺未央(わたなべ・みお)さん(31)との出会いだった。浮田さんは三重県伊賀市を拠点にショーを行う「伊賀忍者特殊軍団阿修羅(あしゅら)」の創設者。渡辺さんにほれ込み「忍者やらんか」と声を掛けた。そして今、渡辺さんは花形のくノ一として活躍している。

 ▽体操経験生かした「夢のある仕事」、待ちうけていたのは…

 渡辺さんはもともと器械体操の選手。高校生の時に浮田さんと出会い、誘いを受けた。が、体操を続けるため一度は入団を断った。その後、東京の体育大に進み、器械体操の国体出場を果たす。すると「納得いくまで続けた」と肩の力が抜け、あらためて将来を考えるように。「体操を生かせる夢のある仕事」と思い、大学卒業後に忍者軍団に入団した。

 だが、入団した先で待っていたのは浮田さんの怒号だった。「芝居心がない。1人で技をやっているだけ」。慣れ親しんだ体操との違いに戸惑った。

 「体操は1人でもできる。ショーでは必ず呼吸を合わせる相手がいて、その掛け合いを楽しむお客さんがいる」。自分に欠けている部分に気づくと、『スパイダーマン』などのアクション映画を片っ端から見あさり、間合いや体の見せ方、立ち回りを研究した。

 ▽くノ一といえば私、と認められたい!

 さらに本格的に演技を学ぶため、京都市の太秦映画村にある芝居小屋で1年半修業した。芝居を重視した忍者ショーで時代劇に出る役者の演じ方を目の当たりにした。そこで、プロの芝居にがむしゃらに食らいつき、「(演技のレベルを)引っ張り上げられた」という。「相手に合わせて立ち回りを変える」ことも学んだ。

 渡辺さんが最初に割り当てられたのは有象無象の切られ役。だが修業を終えるころには名前のあるくノ一の役をもらうまでになった。

 今では、7人が交互に出演するショーで、渡辺さんが見せ場を飾る。格闘シーンではバック宙などを交えてしなやかに攻撃をかわし、2丁の鎌を巧みに操る。これまでワシントンやパリ、北京など海外でも披露した。忍者研究の専門家のアドバイスも得ながら、当時の忍具を使って「職人技」を見せることにこだわっている。出身の岐阜県恵那市や伊賀市などの観光大使にも就任。11人の見習いを指導し、後進も育てている。「くノ一といえば私だと認められるよう、誰もやっていない技を身に付けて忍者の魅力を広めたい」。忍者文化の奥深さを知ってもらうきっかけになるのが目標だ。

 ▽取材を終えて

 ショーのクライマックスで紅一点、アクロバティックに体を躍動させながらステージを動き回る姿に会場はくぎ付けだった。敵役の男性の白刃をかわすと「ヤー!」という声とともに、鎌でとどめを刺し宙をにらむ。6月の土砂降りの中、はじめて見た渡辺さんは堂々たるエンターテイナーだった。

 だが、ショーが終わり取材で向かい合うと「しゃべるの、苦手で…」。緊張した面持ちで、言葉は途切れ途切れ。ステージ上とのギャップに驚いた。途中、遠くから大声でちゃちゃを入れる浮田さんに、渡辺さんは次第に笑顔に。「最近、(浮田さんと)親子かってよく聞かれるんですよ」。10年来の師弟関係に、親子のような絆が見えた。

 山を切り開きテントを置いただけの簡素なステージ。毎日のショーとミーティングは「合宿みたいな雰囲気」という。厳しくも温かい環境で、渡辺さんはどんな後進を育てていくのだろうか。(共同通信=高木亜紗恵23歳)


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