世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスはプロスポーツ界にも大きな影響を及ぼしている。サッカー・Jリーグは開幕直後の第2節から中断し、プロ野球(NPB)も今月下旬以降の開幕を目指している。米大リーグも同様だ。感染拡大を防ぐため、3月12日にオープン戦を中断。同16日には開幕戦の延期を決めた。

 米国のプロ野球界は大リーグを頂点とするピラミッド状になっている。チケット売り上げ以外にも収入がある大リーグと違い、試合開催時の入場料が頼りのマイナーリーグでは今後の存続が不安視されるチームが現れても不思議ではない。(米ミシガン州在住ジャーナリスト、共同通信特約=谷口輝世子)

 ▽中小零細企業

 開幕延期に伴い、今シーズンの試合数は減少することが予想される。大リーグ機構と選手会は試合数に比例して年俸を変動させることで合意した。とはいえ、平均年俸が約405万ドル(約4億4千万円)と高額な大リーグ所属選手はまだいい。試合減少によって大打撃を受けるのは、球場内の時間給で働く人たちだ。大リーグ機構は30球団が各100万ドル(1億800万円)ずつ拠出した総額3千万ドル(約32億円)で従業員を支援することを決めた。

 大リーグ機構はマイナーリーガーにも救済措置を取った。マイナーリーグはルーキーリーグから3Aまで7つの組織に分かれており、約160の球団がある。AP通信によると、選手1人当たり週400ドル(約4万3千円)を補償。当初はマイナーリーグ開幕前日の4月8日までとしていたが、5月末まで補償期間を延長した。メジャー契約を結んでいる選手や所属球団から住居や食料の提供を受けている選手は対象外だが、サポートの姿勢を示したと言えるだろう。

 マイナーリーグは大リーグ球団の戦力となる選手の育成や供給源としての役割を持つ。それゆえ、選手の給与は大リーグ球団が支払う。一方、球団運営は原則として独立採算制。試合開催などに伴う経費をどう賄うかは、それぞれのチームの経営陣が担っている。大リーグにとってマイナー選手の支援は責任の範囲内だが、マイナー球団の経営は範囲外ということになる。

 世界中にファンを持つ大リーグを大企業とするなら、マイナーリーグの球団はさしずめ「中小零細企業」といえる。小さな都市にあって、数千人から1万人程度を収容する球場は地域ファンの憩いの場となっている。ニューヨークやシカゴ、ロサンゼルスなど大都市にあるメジャー球場と比べると、選手との距離が近くふれあう機会も多い。米国の野球文化を下支えする、なくてはならない存在なのだ。

 ▽観客がいてこそ

 大リーグ球団はテレビ放映権料を収入の柱としている。2019年の大リーグ総収入は107億ドル(約1兆1600億円)。18年と比べて4億ドル増えて17年連続で過去最高を更新した。

 NPBの総収入で判明しているのは17年の約1800億円。同年の大リーグは約100億ドル(約1兆840億円)なので6倍になる。1試合当たりの平均観客動員数を比較すると、大リーグは約3万人でNPBはおよそ2・9万人とほぼ変わらない。ちなみに、18年以降の1試合当たりの平均観客数ではNPBが大リーグを上回っている。

 試合数は大リーグ162でNPB143と大きな差はない。チーム数は大リーグがプロ野球(12球団)の2・5倍となる30球団。6倍もの差が付く理由が放映権料だ。

 マイナーリーグ機構のジェフ・ランツ上級広報長によるとマイナーリーグのチームは年間約70試合行うホームゲームの入場料と球場内で販売する飲み物や食べ物などの売り上げで収入のほぼ全てを賄っている。観客動員数が減少しても、放送権料で持ちこたえられる大リーグとはビジネス手法が異なる。試合開催日に球場で働く時間給のスタッフはマイナーリーグにもいるが、大リーグのように彼らを大掛かりに支援する余力はない。

 複数の米メディアによると、大リーグ機構は無観客での試合開催を検討しているそうだ。しかし、マイナー球団にとって無観客試合を行うことに興行的な価値はあまりない。一日も早く観客を迎えて試合をしたいが、全くめどが立たない状態だ。

 ▽新協定

 マイナーリーグは懸案事項をもう一つ抱えている。昨オフ、大リーグ機構はマイナー球団の約160チームのうち42チームとの提携を解消する案を出した。同機構は育成システムをスリム化することで削減できた経費で若手選手の待遇を改善したいとしている。

 現在、同機構とマイナーリーグは協定を結び、さまざまな条件を決めている。協定では、マイナーリーグ選手の給与を大リーグ球団が負担。その代わり、マイナーリーグ側はリーグ戦に選手を出場させなければならない。大リーグ球団はそれによって選手育成を図る。

 現在の協定は今シーズン終了時に無効になる。そこで、提携解消を含んだ案について交渉をし、新たな協定を結ばなければいけない。大リーグ、マイナーリーグともに新型コロナウイルス禍による経営ダメージを受ける。だが、その大きさはまるで違う。経営の立て直しができていない状態で、大リーグ球団から提携を解消されたら米国野球文化の重要な担い手であるマイナーリーグ球団は果たして生き残れるだろうか。