台湾の主要産業である観光業が苦戦している。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、訪台外国人が減少したからだ。台湾は世界的に見ても早期に感染拡大の抑え込みに成功しているので、何とも皮肉なことだ。台湾政府は観光業者などの支援を目的にした特別予算39億台湾元(およそ140億円)を組むなど、てこ入れに必死である。

 多くのホテルが不振にあえぐ中、例外的に好調を維持しているホテルがある。台湾の南西沖に浮かぶ澎湖諸島最大の島「澎湖(ポンフー)島」にある高級ホテル「那。故事 水岸荘園(Laguna Villas & Resort/ラグーナ ヴィラス&リゾート)」だ。政府からの支援を受けていないにもかかわらず、稼働率が昨年を上回ることに成功している秘密は何なのか。取材してみた。(ジャーナリスト、共同通信特約=寺町幸枝)

 ▽支援手厚く

 台湾政府による支援策とはどのようなものなのだろう。具体的に見てみよう。

 対象は主に次の二つに別れる。「台湾市民」と「観光業者」だ。

 市民には旅行の際に使えるクーポンや給付金などが配布される。 例えば、対象のツアーに参加する市民には、一人あたり1日700台湾元(約2500円)を支給。さらに金門(キンムン)や澎湖といった離島への集団旅行には、1100台湾元(約4千円)が支給される。

 ツアーではない個人の旅行に対しても、宿泊代として1千台湾元(約3600円)が支給されることが決まった。首都・台北にある低価格帯ホテルの1泊料金平均が1400台湾元(約5千円)程度ということを考えると、支援策の手厚さが分かる。

 一方、ホテルやツアー会社といった観光業者にも補助金などが支給されている。

 このように充実した対策が講じられているものの、不振から抜け出せない観光業者が多いのが実態だ。

 美しい景色とアクセスの良さから台湾屈指のリゾート地として知られている澎湖は今回の支援策の恩恵を受けている観光地の代表例といえる。英字紙「台湾英文新聞」は、今年8月の1カ月間だけで約30万人が訪れ、昨年対比90%増を記録したと報じている。

 ▽あえて支援受けず

 そんな澎湖で「ラグーナ ヴィラス&リゾート」は支援を受けていない異色の存在だ。

 2017年に開業した同ホテルは素晴らしい景色にプール付きの個室やプライベートビーチ…と、南国の高級リゾートと呼ぶにふさわしいぜいたくな設備を備えている。加えて、客室数も10室に抑えている。訪れた人はいやでも特別感を得られる作りになっている。

 同ホテル創業者の一人で最高執行責任者(COO)を務める韓宗勲さんによれば、昨年の客室稼働率は非常に良い月で83%だった。これに対し、今年の7月と8月はともに98%とほぼ満室状態だったという。台湾の旅行シーズンは涼しくなるこれからが本番。同ホテルも9月末までほぼ満室だ。

 「4月、5月の感染拡大期には売上が70%台に落ち込んだが、6月に入ってすぐに持ち直した。2020年度の売上は、昨年度と比べ20%増を見込んでいる」

 韓さんはそう自信を見せる。そして、同ホテルは支援策の対象に「あえて参加しなかった」と続けた。

 なぜ、参加しなかったのだろう。

 「(価格より宿泊した人にしか体験できない特別感を提供することを重視する)高級リゾートホテルとして、宿泊客数を追い求める政府の支援策に参加することは妥当ではないと判断したからだ」と韓さんは説明してくれた。

 同ホテルの平均宿泊料金は週末で1泊8600台湾元(約3万1000円)。澎湖周辺では1万円以下で三つ星ホテルに宿泊できる。そのことを考えると、ひときわ高いと言える。

 ホテルの客層は、新型コロナウイルス拡大の影響で普段行き慣れた海外旅行ができない中所得以上の台湾人が中心。中には、感染を避けるために戻ってきた台湾系米国人もいるという。

 韓さんは好調の原因について「消費意欲の高い上顧客が増えつつある」とした。

 ▽旅行のスタイルにも影響

 新型コロナウイルスの感染が広がる前と比べ、「ラグーナ ヴィラス&リゾート」を訪れる客に変化はあったのだろうか。

 韓さんは「1組のゲスト滞在日数が、以前より長くなっている」とする。さらに「ゲストの多くがよりカスタマイズされた独自の旅行プランを好む傾向にあり、特別感や貸し切りといったプランを求めるようになっている」と続ける。

 共通しているのは、多くの人と一緒に行動することは可能な限り避けたいという思いだ。新型コロナウイルスの影響はここにも現れている。

 同時に、「ニューノーマル」への転換が求められる時代にはより自分らしさを追求できる旅行スタイルが求められる傾向に変わっていくことを指し示しているのではないか。

 台湾では新型コロナウイルスの流入阻止のために現在も外国人の入国を制限している。このうち、海外からの団体観光客(ツアー客)について、台湾政府は10月の受け入れ再開を目指していた。しかし、8月末に断念した。今後は感染状況と入国制限に合わせ、解除のタイミングを見極めていく意向だ。

 世界のボーダーレス化を受けて、海外旅行する人も急増した。日本を訪れる外国人を増やす「インバウンド政策」もこれを意識したものだった。しかし、新型コロナウイルスの登場で状況は一変してしまった。観光業は今、域内や国内を重視した取り組みを積極的に行う必要に迫られている。