「日本が南北和解を妨害したと認識」「以前からGSOMIAには不満」…”安全保障”ですれ違う日本と韓国の論理、文在寅大統領はどこへ向かう?

 日本と韓国が軍事機密を共有するために結んだGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)について、韓国大統領府は22日、これを更新せずに破棄することを発表した。

 翌23日に開かれた韓国大統領府の会見では、日本を痛烈に批判する言葉も飛び出した。

 金鉉宗(キム・ヒョンジョン)国家安保室第2次長は「数回にわたって実務協議を提案したが、日本はこれに一切応じなかった。大統領の8月15日・光復節慶祝辞でも我々は日本に対話の手を差し伸べたし、それにも増して慶祝辞発表の前にこうした内容を日本側に伝えもしたのだが、日本側は何らの反応も示さず、"ありがたい"との言及さえなかった。日本の対応は単なる"拒否"を超え、韓国の"国家的自尊心"までも傷付けるほどの無視で一貫し、外交的欠礼を犯した」と発言している。

 今回の問題について、同日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、北海道大学の鈴木一人教授、恵泉女学園大学の李泳采教授、そして元経産官僚の宇佐美典也氏などと議論した。
 

■「日本が南北和解を妨害するような攻撃をしたと認識」「もともとGSOMIAに不満があった」

 李氏はまず、「日本が政治問題を経済問題につなげ、韓国が経済問題を安全保障問題につなげてしまったことで、どちらも損する構造をつくってしまった。歴史問題は歴史問題として論じるべきだった」とした上で、韓国側の主張について、次のように説明した。

 「6月30日に金正恩委員長、トランプ大統領、文大統領が板門店に立り、南北が和解して米朝国交正常化まで行くのではないか、という雰囲気になった。しかし日本政府はその直後に韓国をホワイトリストから外し、輸出を厳格化すると発表した。もちろん韓国の管理体制に問題があったのかもしれないが、日本とはこれまで15年、貿易を続けてきているし、今年1月にはヨーロッパにも認められている。それなのにG20でも日韓会談できず、ほとんど説明もないままに発表されてしまった。そもそも日本とは98年に日韓パートナーシップを結び、協力してここまで経済的に成長してきた。そういう平等な関係だと感じていたのに、"安全保障上、信頼できない"という論理で韓国を"格下げ"したことで、韓国としては国際的なメンツを潰された。韓国としては心を開いて日本側の言い分を聞こうという時に南北和解を妨害するような攻撃をされたと認識し、頑なになってしまったということだ」。

 その上でGSOMIA破棄の判断に関しては「"安全保障上信頼できないと言いながら機密情報を共有したいというのは矛盾している"、ということだ。もともと韓国ではGSOMIAに対して不満があった。2012年には李明博大統領が秘密裏に閣議決定したが反発されて取りやめたし、2016年、朴槿恵大統領が弾劾される1週間前に閣議決定もないまま成立させたもの。今回も、なぜ歴史問題が解決していない日本と情報共有し続けるのかという国民の反発が大統領府の動きを狭めたと思う。だから"やりたくてやったわけではない"ということだし、"延長を終了した"という言い方もしている。つまり交渉の余地があるということだし、文大統領も8月15日の演説でトーンダウンし"対話をしたい"と言いって特使も送った。不買運動が1か月も続き、若者を含めたくさんの不満がある中で、何とか日本と協議をしたい努力していると思う。それなのに河野外相からは21日の日韓外相会談でも何のメッセージも無かった。23日の会見では"実利"よりも"名分"が先にきている。これはGSOMIAが大切なものであるとも知りながらも、"実利"よりも"名分"を選択せざるを得なかったということだ」との考えを示した。

 李氏の説明に対し宇佐美氏は「15年間、問題なく輸出していたのにおかしい、というのはそうではない。韓国の半導体企業が中国に工場を作り始めたのはここ2、3年のことで、当初から日本が輸出したフッ化水素などの半導体材料を中国に送るということをやっているのはほぼ間違いない。そうでなければ、中国にあるサムスンやハイニックスの工場が動くはずがない。本来、輸出管理は最終仕向地との関係で行われるので、日本から中国へ輸出するという手続きを取らなければいけないが、韓国はホワイト国なので罰則がないからと迂回させてきたということだ。その結果、日本から輸出したフッ化水素がなぜか中国産として日本に返ってくるといったことが起きている。だから日本政府が韓国政府に説明を求めた。経産省としては歴史的なことを言っているわけではないのに、韓国側は"品質管理上の問題でそうなった"といったよく分からない説明を続け、フィールドをずらしてきたと思う。兵器に転用できるものを中国に横流ししているのだから、その実態について協議を始めないと前には進めない。"ただ会いましょう"ではなく、論点を合わせて向き合わなければ、お互い議論に入れなくなる。だから長期化せざるを得ない。そこで突然"GSOMIA破棄"と他の分野に波及させても、それぞれの問題は目的が違うのでから、複数の協議を並行してやるという提案をしてくれないと、こちらの役人や政治家としては前に進めようがない」と首を傾げる。
 

■「日本は実利、法律、理性を要求するが、韓国は感情か正義かの間にいる」

 さらに李氏が「今年は三・一独立運動から100周年だ。民族主義、国家主義、ナショナリズムが強くなっているこの年に日本から攻撃を受けたということで、国民の感情が三・一独立運動の歴史問題と重なっている。そこが日本になかなか伝わらない。日本は実利、法律、理性を要求するが、韓国は感情か正義かの間にいる」と主張すると、宇佐美氏は「韓国は自分が何を要求しようとしているかを理解していないと思う。韓国の憲法では1919年にできたことになっているが、国際的には韓国は1948年にできた国で、日本との条約もそれを前提として結ばれている。韓国はこれを覆していくと言っているが、それは日韓問題というより、歴史を改変し、第2次大戦以降の世界の秩序を変えることに近い」と反論。

 鈴木氏は「これまでは歴史の問題を経済の分野にまで波及させない、という合意があったと思う。ところが徴用工問題では今の企業の資産を差し押さえて現金化するということになっている。また、いかに日韓関係が悪くとも、安全保障分野では同じ立場で協力してやっていくという暗黙の前提もあった。今回のGSOMIAの問題は、それを崩してしまうような行為であるという点で、非常に大きなゲームチェンジャーだろうと思う」とし、「李先生と宇佐美さんと話は重要なポイントで、すれ違いが起きているのは"安全保障"という言葉だと思う。日本としては、韓国の輸出管理制度がしっかりしていないので、望ましくないところに大量破壊兵器につながるものが流れている恐れがある、これは核の不拡散や大量破壊兵器の不拡散という、グローバルな安全保障の問題だということだ。ところが韓国は、日本が自分のことを安全保障上ダメな国だ、韓国は脅威だ、と言っていると受け止めている。つまり、日本側は"制度の問題を話しましょう"と言っているが、韓国は"我々を脅威と思っているのか"と、お互いにかみ合わない議論になっているという感じがする」と指摘。

 その上で、「文在寅政権が、軍事政権や保守政権が国民の合意を得ずにやってきたことはおかしいというロジックや"正義"の元に成り立っていることは確かだが、それは国内的な話であって、国際的に通用する話なのかというとそれは別だ。やはり韓国が承認された国家としてみられるのは1948年以降で、日韓関係は1965年の日韓基本条約や日韓請求権協定の上に成り立っている。それをひっくり返したとして、何をその替わりにするのかということがないままに壊すだけ壊そうとしていることに危うさを感じるし、その後に不安を覚える」と懸念を示した。
 

■外国への依存度を減らし、国防の自主化へ向かう?

 一方、アメリカのポンペオ国務長官は韓国の決定を受け、「我々は失望している。我々としては両国に連携と対話の継続を強く促している」と述べている。しかし韓国側は今後もアメリカを媒介にした情報共有は可能との見方を示しており、前出の金国家安保室第2次長は「今回の決定が韓米同盟の弱化ではなく、むしろ韓米同盟関係を一段とアップグレードさせ、今より固い韓米同盟になるように努めていく」とも述べている。

 鈴木氏は「そもそもGSOMIAはアメリカの圧力によって結ばれたので、最も被害が被ると感じていると思う。しかもビーガン特別代表が韓国にいる時の決定なので、いわば目の前でGSOMIAを更新しないと言われたようなものだ。だからこそポンペオ国務長官は"大変失望した"とコメントしたのだろう。これまで日韓問題にアメリカはノータッチだったが、今回は自らの問題になってしまったし、"韓国は何をしたいのかよく分からない、どうしてくれるんだ"という状況だ」との見方を示す。「2014年に結ばれたTISAと呼ばれる情報共有協定はアメリカを媒介にしているが、その基本ルールは"知るべき人にしか渡さない"。韓国がアメリカに渡した情報がそのまま日本に来るかというと、そこは韓国が日本に教えない部分は削除されていくので、アメリカは余計なことをやらされることになる。つまり、ないよりはましだがGSOMIAの替わりになるかというとそうではない」。

 李氏は「慰安婦合意に向けた圧力など、オバマ大統領は日韓関係に介入してきたが、トランプ大統領はあまり介入していない。そこでGSOMIA破棄によってアメリカを動かしたいというのが韓国の本音だと思う。"失望した"というポンペオ国務長官の言葉の重さだが、アメリカはイギリスに対しても"失望した"と言っているし、安倍首相が靖国へ行った時にも"失望した"と言っている。本音というよりは体裁だと思う」との見方を示した。

 それではGSOMIA破棄の後の安全保障について、韓国はどう考えているのだろうか。

 李氏は「韓国は戦争が起きた時の作戦権をアメリカに委ねてきたが、それが来年に返還される。今年の米韓合同軍事演習では、そのための非常に高いレベルの訓練も行われた。日本ではあまり報道されていないが、8月14日に発表された、韓国の防衛白書では、国防費を増やし、駆逐艦やレーダーなどを整備して国防を自主化するとしている。防衛産業など最先端産業も自立していくという面では、"日本離れ"を狙う動きも見えてくる」と話す。

 鈴木氏は「韓国は日本の輸出管理が厳しくなると、国産化戦略で日本への依存度を下げようとしているし、情報収集衛星を持つなど、軍事や情報についてもナショナライゼーションを進めようとしている。これはある意味で韓国国内産業に投資をして、雇用を生み出すことでもある。廬武鉉政権でも行われた、国防産業を自分たちで育て、国防の自立化みたいなもの進めていくという戦略が見えている。そうした財政主導型の経済政策によって景気や格差の問題に対して刺激を与えようという部分もある。いわば"ピンチをチャンスに変える"ということだと思う。将来的に韓国と経済的に一体化することで日本に対抗するとか、日本を凌駕するという北朝鮮の考え方も、この概念と似ていると思うし、まずは地力をつけて外国への依存度を減らし、次に南北で協力して民族の自立性を高め、さらに外国への依存度を減らす。文在寅大統領の中では、そういうふうに整理されているのではないかと思う」との見方を示した。

 作家の乙武洋匡氏は「自国の国益を考えれば破棄しない方が良かったのではないかと思うし、感情に流された判断と見られてしまうのではないか」とコメント、ユーグレナ取締役副社長の永田暁彦氏は「ゲームというのは相手を舐めている方が負けるものだと思う。そう考えると、日本国内では韓国に対する感覚として、安心感というか、下に見ているような部分があるのではないか。やはり"非合理性"、"感情的"という見方ばかりで臨んでいると、"ウルトラC"が待っている可能性もあると思う」と懸念を示していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
 


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