「NHKをぶっ壊す!」。去年大いに注目を集めたこの言葉に正面から向き合い、NHKの存在意義について議論した大晦日のAbemaTV『AbemaPrime』。14日の同番組では、前回議論し尽くせなかったテーマについて、前NHK会長の籾井勝人氏、立憲民主党の中谷一馬衆議院議員、そして元NHKアナウンサーでジャーナリストの堀潤氏を招き、話を聞いた。
 

■経営委員、そしてNHK会長の人選はどうあるべきなのか?

 これまでも森友学園問題の報道や与党の露出の多さ、そして去年のかんぽ生命不正販売報道をめぐる問題など、NHKの“忖度疑惑”は定期的に浮上してきた。こうした疑惑を生む背景にあるといわれているのが、NHKを監視・監督する経営委員会のメンバーの任命は内閣総理大臣が行うという構造だ。しかも、NHKのトップである会長は、この経営委員会が任命することになっている。そのため、元NHK経営委員で上村達男氏は「経営委員の選任は国会の同意人事だ。事実上、与党の意向で決めており“お友達人事”との批判も仕方がない」と指摘する。

 また、過去にはプロパーが長く務めることが続いてきた会長職だが、近年は外部から人材が起用され、1期・3年で交代するのが通例となっている。今月25日から23代目NHK会長としてかじ取りを任されることになった前田晃伸・元みずほフィナンシャルグループ(FG)社長は、ネット同時配信が大きな焦点になっていることについて「実は私はインターネットや(家に)パソコンを持っていない。誠に申し訳ないが相当古い人間だ。同時配信がどういうものかもよく分からない」とコメントしている。

籾井:会長というのは、経営委員会に呼ばれて打診され、“はい、やります”と言えば正式に決まる。私は自分で希望したわけでもないし、よく分からない。3年という任期については、できることもあれば、できないこともある。本当に必要であれば、6年間やる人が出てきてもいいと思う。

堀:僕がNHKを辞めた最大の理由は、“公共放送を全うしたい”という思いからだった。受信料で育ててもらったし、それは今も還元したいと思っている。だからこそ、“フリーのNHKマンです”と自己紹介することもある。そして、僕が入局した頃の会長は、“エビジョンイル”と揶揄された海老沢勝二さんだ。20年前に出た海老沢さんの本を読み返してみると、「日本には24時間のニュース専門チャンネルがない」「放送と通信の融合を進めるべきだ」など、真っ当なことを言っていることがわかる。

しかし残念ながら不祥事が起きて以来、生え抜きの人には任せられないとなって、メディアやジャーナリズムの専門家ではない方々が会長に就任するようになってしまった。経営委員も政府に任命された方々なので、どういう思惑で選ばれているのが、不透明だ。確かにNHKは民放連との調整があったり、国会での予算を通したりしないといけない。でも、NHKには若い人たちも含め、新しい時代のメディアを作りたいという人たちがいる。そういうプロパーが経営や放送改革に携われるようにしてほしい。

また、籾井さんは“忖度は無かった”とおっしゃるが、会社組織であれば、その下では忖度の連鎖が生まれると思う。僕自身、そういうものに直面してもどかしさを感じていた。そんな時、誰が味方になるのかといえば、それは視聴者の皆さんだ。だから“NHKとは、視聴者が作る最大の市民メディアだ”という捉え方で経営し、今後のあり方を議論すべきだ。そして、アジア最大ともいわれるNHKの放送インフラを使えるようにすることだ。いいスタジオ、優秀なスタッフ、機材、映像資源を抱えている。公共と名がついているからには、それらを使えるようにすればいいのではないだろうか。実はBBCでは地域で誰かが発信したい時、電話一本でカメラマンを派遣してくれる。

そういう、民放とは役割が全く違うというところが大切だ。それなのに、「パソコンも持っていない」「メディアのことを知らない」といった人をトップに据えているようではいけない。BBCの場合、「BBCトラスト」というチームが立ち上げたり、数年ごとに経営のあり方を変えたりしている。かつては経営委員を公募で選んでいたが、かえって偏ってしまったので戻していこうとなっている。そういう“振り子”のような仕組みも今のNHKにはない。

中谷:インターネットが台頭している時代に、そのような発言をされる方が会長に選任されてしまっているのは問題だ。やはり今の政府ではそういうことが増えていて、IT戦略の担当大臣がはんこ議連の会長だったこともそうだ。本当にやる気があるのだろうかと思う。

基本的に経営委員は内閣総理大臣が任命できることになってしまっているのが現状なので、残念ながら国会というよりも与党や政府に忖度しやすい構図もある。これをもう少しフラットな形で、与野党が一致結束できるような人事にする、もしくは国民が選任できるような形を模索する不偏不党でできるような会長人事を考えていくべきだと思う。安倍内閣に近く、賛同してもらいやすい人事で、企業を“一丁上がり”した会長ではだめだ。民放とも協力しながら世界に打ち出していけるコンテンツを作ることができ、公共放送としての役割を担えるNHKにできる経営陣にならなければ、国民からのコンセンサスは得られない。

籾井:ただ、経営者はいきなり出てくるものではない。私はNHKの中の職員のキャリアインベントリーをもう少し経営まで理解できるような仕組みにする必要があると思う。確かにNHKには立派な優秀な職員がいっぱいいる。しかしどの部署においても経営にタッチする機会がないし、理事にはなれるが会長にはなれなくなっている。

そこで私が会長のとき、40歳くらいの中堅職員に、株式会社の関連企業へ2年間出向してもらった。これを繰り返すことで、経営とは何かということを考える素地が随分とできてくるし、生え抜きの経営者も出てくる。しかし聞くところによると、出向から戻ってきた人が地方局に行ってしまっているという。それよりも経営の知見を広げさせる業務に就いてもらった方が効率は良いのではないか。

堀:籾井さんのおっしゃっている経営、経営感覚とは何か。組織マネジメントの話だけでなく、メディアの経営者としてのあり方も必要なのではないか。

籾井:一言では言えない。経営というのは色んな分野に多岐にわたる。人事の問題や働き方の問題など色々ある。やはりサラリーマンとして色々な経験を積み、数字の見方や女性の勤務状況をどうするか、といったことが分かってくる。正直言って、NHKの人はそういうことが本当に分かっていなかったが、僕の時に随分変わったと思う。そういったことも含めた経営だ。実際の放送に関する分野は、それこそNHKには専門家がいっぱいいるので、任せていい。あの会社の文化というのは、政治部、経済部などで人が繋がっているところがある。それを超越したもっと俯瞰的な経営的視野が必要だ。プロパーの人はあまり気が付かない部分もあるので、ミックスでちょうどいいと思う。そこで最後に残る料金の問題などが、本当の経営の問題だ。

堀:現場にいた人間としては、番組の試写ひとつとっても、上からの横槍をどうやって回避するかとか、上の人たちはさらに上から何か言われないようにとか、そういう構造の中でやらざるを得なくなっていた。経営トップがジャーナリズムやメディアのデジタル戦略について説いて、闘ってくれる人だったら良かったのにと思う。「海外発信」についてもよく言われるが、中国のCCTVなどに比べて、多言語化やネットメディアも含めたデジタル対応が遅れている。これもメディアプロパーの集団ではなかったからだ。

中谷:堀さんの言っていることも、籾井さんの言っていることもよく分かる。もちろん籾井さんは商社の専門家であるし、前田さんは金融の専門家で、みずほの株価を10倍に上げたような、非常に手腕を持っている方だ。しかしながら、まさに放送と通信が融合する時代にNHKを牽引していく方としてふさわしいかというと、どうか。

たとえば現状のように、インターネットに使う予算は2.5%、170億円くらいで歯止めをかけていきましょうということで本当にいいのか。Netflixは1.6兆円だ。そういうコンテンツがどんどん日本に入ってくる中で、民放の皆さんとの協議の中では地域制限もやろうとしている。イギリスのように、公共放送と民放が力を合わせてそういう勢力に対してどう打ち勝っていくか、その戦略を立てるような人が会長の席に座らないといけないと思う。
 

■ネット同時配信へ、受信料制度はこのままでいいのか

 堀氏や中谷氏の指摘どおり、民放各局は様々なサービスを提供し始めており、日本テレビの日テレ無料!(TADA)やHulu、テレビ朝日のテレ朝動画やAbemaTV、TBSのTBS FREE、フジテレビのFOD、テレビ東京の“ネットもテレ東”、そして各局の見逃し配信を提供するTVerなどがある。

 一方、14日には高市総務相がNHKのネット同時配信を認可する方針を示し、4月からサービスが本格開始することになっている。ただ、NHKの年代別視聴者割合は、7〜12歳・5%、13〜19歳・7%、20代・8.1%、30代・10.8%、40代・15%、50代・15.2%、60代・17.2%、70歳以上・21.8%となっており、番組内容の問題、そして受信料の問題も避けては通れない。

 NHKの受信料制度は、営利目的ではなく公共の福祉のための公共放送という意味合いから、テレビを持つ視聴者から徴収する制度だが、現在のNHK受信料の支払い率は80%を超えており、受信料収入は5年連続で過去最高を更新してもいる。ただ、テレビを持たない人も増える中、「見ていないのにお金を払いたくない」という主張に対して納得させることができるのか。同じく公共放送であるイギリス「BBC」では、見る人のみがお金を払うシンプルなシステムに移行する可能性があるという報道もある。

籾井:今のアイデアは、テレビが家にあってお金を払っている人はネットでもタダで見られるというものだが、家でじっと座って見るだけがテレビという時代ではない。デバイスが多様化しているし、そういう視聴者のために流すということについても、NHKとしては責任があると思っている。

中谷:NHKも政府も思考停止してしまっているのではないか。今も4.5%〜6%の受信料削減を総務省と議論してはいるが、あるべき公共放送の形や国民のニーズから逆算されているものではなく、“この辺だと折り合える”というところになってしまっている。やはり100%徴収するか、もしくはスクランブルかノンスクランブルに分けるのが望ましい。今のような増築を繰り返すようなプランでは国民は納得しない。

そこで私は2案提唱させていただいている。1案は全世帯からに徴収が前提になるものだが、経営努力によって受信料を30%〜50%削減できると思う。現在の徴収率が80%で、NHKの総収入がだいたい7000億円ある。残りの20%分も徴収できれば、約1400億円の収入増になるが、滞納者も含め、受信料を徴収するための費用で700億円かかっているので、合計すると2100億円になる。これを払っている方々に分配すれば、それだけで30%の削減できるということだ。これに加えて、ドイツやフランス、あるいはアルジャジーラなどでは広告収入などの副次収入を認めている。こういったものも経営努力としてやっていけば現実的に半額くらいにはできるのではないか。もう1案は広く受信料をいただきながらも、例えば災害時の放送や教育、国会中継など、公共放送として必要な部分だけをノンスクランブルにし、他のエンターテインメントなど、民業を圧迫する可能性のある部分はスクランブルにし、任意で課金するという形態もあり得る。

抜本的にやるという意味では後者が理想ではあるが、NHKは大きな組織なので、柔軟に第1案を採りつつ、放送と通信が融合する新時代でNHKのあり方を考えていくことが重要だと思う。

籾井氏:放送法の改正なんて立憲民主党が賛成すればできてしまうのだろうし、僕は中谷先生の話に反対ではない。BBCの場合、テレビ受像機に限らず“テレビが映るものを持っている人は払いなさい”ということになっている。受信料を強制にすれば、確かに計算上は徴収率が100%になればその分だけ値下げもできる。しかし皆の同意が得るのはかなり難しいと思うし、そこにいく前にやることがいっぱいあるのではないか。

2017年頃、新放送センターの建設費1700億円の積み立てが終わったが、最後の2年ぐらいは200億円ずつ積み立てたので、相当早く終わった。この分を視聴者に返せるじゃないかというのが私の理屈だったが、それは拒否されて今日に至った結果、1100億円を超える剰余金が貯まっている。NHKは決算で余っても税金を納めなくてもいいからこうなってしまうわけだが、本当に必要なときには値上げをさせてもらうが、下げられるときには下げるという仕組みにするのが、まずは良いのではないか。その上でドイツの様に税金でやるような方法もあるかもしれないし、中谷先生がおっしゃったように、法律を作って納めてもらうという方法もあるだろう。できることからやれば、年間200億円分や300億円分は下がると思う。

堀:ただ見るだけではなく、先ほども言ったように、受信料を払っていたらアーカイブにアクセスできますとか、そういうものをYouTuberに開放するのもいいと思う。「受信料」ではなく、いわば「NHK使用料」という形に再定義すればいい。“NHKって、やっぱり必要だよね”って思ってもらえることをしっかりやっていくことが大前提だ。

籾井:そのとおり。全く同感。ただ、NHKが同時配信をやり出すと、民放もやらなければならない。そうすると、キー局から地方局に流れている番組にスポンサーが入ってくれなくなる。そこを解決しないといけない。

中谷氏:40代以下の世代はほとんどがネットで情報収集をする時代になっている。今の時代、“インターネット鎖国”でもしない限りネットに情報を載せるというのは必須で、やらざるを得ない。それは共通見解ではないか。NetflixやHuluがある以上、残念ながら今までのような広告収入のビジネスモデルだけでは10年、20年後はやっていけないと思う。だからこそ、そういったものに対して前向きに改革をしていくような流れを作っていかなければならない。
 

■「今度は新会長を番組に誘ってみれば…」

3人の議論を受け、幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏は「フェイクニュースの問題などもある中、公共放送の必要性や価値は上がっていると思う。NHKにはフラットに正しいことを伝えてくれているという信頼感、安心感がある。その意味において結構な金額を取っているのもわかる。しかし、これよりも安いNetflixやNewsPicksは弱肉強食の中、少しでも快適なサービスにすべく改善し続けている。それなのにNHK会長がパソコンを使ったことがないとか言ってしまうのは、はっきり言ってなめていると思う。“メディアに課金する”、という感覚からすれば高い値段のわけだし、経営陣がメディアをアップデートし続けなかったらやめてしまう」と指摘。また、カンニング竹山は「いつもNHKが悪い、受信料取りすぎだ、変われ、みたいな感じの議論になってしまうが、NHKだけでは決められないという意味では、政府や総務省も変わらない限りは厳しい」と話していた。

籾井氏は「NHKに限らずだが、事実に基づき公平公正、不偏不党、何人からも規律されず独立の放送を行うというのが放送法に書いてあるエッセンスだ。やはりそこに常に原点にかえってそれを意識しながら制作し、報道することが大事だと私は思う。また、国会に140回も呼ばれたが、あれだけの時間があれば、今回のような議論もできたのではないかと思った。今度は新会長を番組に誘って、議論をしてみてはどうか」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)