春眠暁を覚えず「良質な睡眠を手に入れるには?」裏出良博先生に聞く【ドクター注目記事】

春眠暁を覚えず「良質な睡眠を手に入れるには?」裏出良博先生に聞く【ドクター注目記事】

春は気温の変動が大きく生活環境にも変化の多い時期。「春眠暁を覚えず」ということわざがあるが、知らず知らずのうちに大きなストレスがたまり睡眠の質が落ちて日中に強い眠気に襲われることが増える。では、どのようにすれば良質な睡眠を手に入れられるのか。睡眠に関する研究を30年以上続けている世界的な研究者、東京大学アイソトープ総合センター特任研究員の裏出良博氏に話を聞いた。

「日本人の睡眠不足の主な原因は、長時間の通勤/労働、職場での精神的なストレスでしょう。睡眠不足が続くと免疫機能が低下して風邪をひきやすくなり、肌も荒れます。また、食欲がわいて塩分や糖分の高い濃い味付けのものを好むようになり、生活習慣病のリスクも高まります。パフォーマンス回復のために睡眠時間を伸ばそうとしても、そもそも家にいる時間自体が短いのでそれもままならない。その結果、睡眠不足で作業効率が落ちるので、さらに労働時間が長くなる。こうした悪循環から、都会で働く人は逃れることができません。また、睡眠が不十分だと、アルツハイマー病のリスクが高まることも近年の研究で明らかになりました。現在だけでなく、将来の健康をおびやかす危険もあるのです」

睡眠は"ブラックボックス"とも言われ、いまだ謎が多い分野だが、大きな役割のひとつは脳が情報整理をすることだという。

「睡眠中の脳内では、覚醒時に得た情報を整理して、学習したことを反復します。これにより、知的な作業だけでなく、スポーツにおいても、できなかったテクニックが睡眠後にはできるようになるなど、その効果は全身に及びます。 たとえば、ベルトコンベアを動かしたまま流れてくる物を整理しようとしてもなかなか難しいですが、一度ベルトコンベアを止めてしまえば、どんな形のものでもスムーズに整理ができるでしょう? つまりこの、ベルトコンベアの流れを一度止める行為が睡眠にあたります。睡眠により新たな情報の流入を止め、それまでに得た情報の要不要を整理することが重要です。脳の場合は、スイッチオフ=睡眠中の状態でも神経細胞は動いて、情報の整理や免疫系の活性化を行いますから、記憶や健康に与える影響は大きい。つまり睡眠は、脳と全身、両方に深く関わっているのです」

それでは、より良い睡眠を手に入れるためにはどうすれば良いのだろうか。

「まずはストレスのない環境づくりですね。旅行など環境を変えて静養するのが一番ですが、仕事などで無理な場合は、アロマや肌触りの良い寝具、空調や照明の調節など、自身の状態や嗜好性にあったリラックスできる睡眠環境を整えることが重要です。体温も大きく作用します。人は、入眠時に手足の末梢血管が開き、放熱して体温を下げます。この機能を活かして、ぬるめのお風呂に入って末梢血管を開き、熱を逃がしやすくすることで、眠りやすくなります。寒い日には、寝具を就寝前に少し温めておくことも良いでしょう。夏場は通気性の良い寝具で熱を逃がし、寝床内の湿度を抑えることが大切です」

また、昼食後はうとうとしてしまい、午後の作業効率が落ちるという人も多いが。

「食後の休憩時間などに昼寝をするのは決して悪くありません。そもそも午後2時〜3時ごろは、生物時計のリズムのせいで、眠くなるようにできています。ただし、30分以上寝てしまうと脳が本当に眠りに入ろうとしてしまうので注意が必要。その手前の20分程度で起きることで、仮眠から目覚めやすく、その後の仕事の効率は大きく回復します」

最近では、眠る直前のスマホやテレビの視聴が睡眠に大きく影響することも知られてきた。

「人間は、視覚から多くの情報を得る動物です。眠くなると耳たぶや鼻の穴は閉じないのにまぶたは閉じられるというのがそれを物語っています。聴覚や嗅覚よりも、視覚の情報に依存している動物だということです。そういう動物がいざ眠りに落ちようとするとき、目から強烈な刺激が入ってきて、さらに、それが脳が興奮するような情報であれば、脳はもっと情報を得ようとして起きつづけます。生存するためにさらなる情報が必要だと本能的に認識してしまうのですね。だからこそ、寝る直前の2時間ほどは、視覚からの情報を減らして、リラックスを心がけることが大切です」

くつろぎながら効率よく眠るための環境を整えることは、健康のための大きな投資だ。睡眠時間をしっかり確保するのが一番だが、たとえ限られた時間であっても、早く深く眠ることで価値のある睡眠を得ることができる。睡眠に対する要求性は、食欲や性欲にもまさる。多くの敵に囲まれて生活する野生動物は、命がけで眠るのだ。睡眠は失われた時間などでは決してなく、脳をリフレッシュできる幸せな時間ととらえて、自身の睡眠を見直してみてはどうだろうか。

医師・専門家が監修「Aging Style」


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