ゴルフ界の王者タイガー・ウッズ(米国)は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で米ツアー大会やマスターズ、全米プロの中止や延期が次々に発表されるなか、「ゴルフトーナメントより大事なものは命。家族と地域のために賢明でありたい」という想いを発信した。


それは、具体的には、どういう意味なのか。その答えを、ウッズはウッズらしく、即行動で示した。

3月15日にCDC(アメリカ疾病対策センター)が向こう8週間のイベント等の自粛勧告を出したわずか4日後、ウッズはこんなメッセージをツイッターで発信した。

「学校が休校になり、教育が受けられない子どもたちのために、我がTGR財団はオンライン・レッスンを無料提供します」

レッスンと言っても、ゴルフレッスンではない。ここで言うレッスンとは、子どもたちへの授業のことだ。なぜ、ゴルフ界の王者が子どもたちに学校教育をオファーするのか? なぜ、そんなことができるのか? その方法は? 不思議に思う方々も、きっと多いのではないかと思う。

ウッズ自身、1996年にプロゴルファーになった当初は、父親のアール氏とともに「ゴルフを通じて大勢の子どもたちを育てていきたい」と考え、子どもたちにクラブを振らせる施設の建設、運営、そのためのチャリティ活動に力を尽くしていた。つまり、当時のウッズ父子の頭の中にあったのは「教育=ゴルフ教育」だったのだ。

しかし、「2001年の9・11(アメリカ同時多発テロ事件)を経て、父と僕は方向性を変えた。子どもたちにとって一番大切なのは、ゴルフより教育だと気が付いたからだ」

ウッズと彼の財団は、経済的理由で高度な教育を受けたくても受けられない子どもたちを米国のみならず世界中から集め、十分に学ばせた上で大学や社会へ送り出すための教育施設として「タイガー・ウッズ・ラーニング・センター」をカリフォルニア州アナハイムに設立した。後に、ウッズ財団が「TGR財団」と改名されたのに伴い、その施設も現在は「TGRラーニング・ラボ」と呼ばれている。

そのラボでは、ゴルフを教えるのではなく、これからの未来を支える学問として、STEM(S=サイエンス、T=テクノロジー、E=エンジニアリング、M=マセマティクス)を中心にハイレベルな教育を行なっている。

施設もワシントンDCやフィラデルフィア、ニューヨーク、フロリダに支部を広げ、世界中から集めた優秀なプロフェッショナルたち5000人がSTEM教育に従事。2006年以来、卒業生は16万5000人を超えている。

今回、ウッズとTGR財団が無料提供を決めたオンライン・レッスンは、「TGRラーニング・ラボ」で子どもたちに授けている教育内容を、米ディスカバリー・エデュケーションの協力を得てネット配信する新システム(TGR・EDU)。6年生から12年生を対象とするプログラムだそうだ。

そんなふうに、ウッズは常日頃から「社会の役に立ちたい」、「役に立つためには何をすればいいか、どうすればいいか」という視点からモノゴトを見つめ、着々と活動を広げてきた。ゴルフにとらわれることなく、社会に尽くすための方向性と方法を考え、アクションを起こしてきた。

そういう姿勢を保ってきたウッズだからこそ、世界中が非常事態、緊急事態を迎えている今、「自分にできること、やるべきことは?」と考えたとき、すぐさま「これだ」と答えを出し、即行動に移せるのだと私は思う。

ゴルフ界のレジェンドは、ゴルフという枠を超えた発想と行動力で社会に手を差し延べる。これぞ、レジェンドがレジェンドたる所以である。

文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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