■老後の生命保険は、現役時代と同じだけ備えておくべき?
定年後はライフスタイルや収入形態が変わることが多いため、お金の使い方もそれに合わせて変えていかなければなりません。生命保険や医療保険も同様で、必要保障額はライフステージごとに変わっていきます。

一般的には子どもの独立、時間の経過(平均寿命までの生活費の減少)などで必要保障額は減りますから、保障を少なくしていくのは正しい考え方です。一方で平均寿命が延びている中、定年後でも働けるうちは働くという人も増えつつあります。

こうしたことを考慮すると定年後や高齢者にかかるリスクは、以前と必ずしも同じではありません。定年後の生命保険や医療保険の備え方、見直し方を考えてみましょう。

■保険見直し前に、定年後の健康保険の確認を
民間の生命保険を見直す前に、そもそも定年後の社会保障(健康保険や年金など)でどこまで保障されているのかを知る必要があります。民間の保険や共済は、公的保険制度をベースに設計するものだからです。公的保険制度で定年後の医療費負担がどのようにカバーされているかを確認してみましょう。

▼健康保険の自己負担割合現役時代は国民健康保険や勤務先の健康保険に加入していたため、医療費は自己負担3割です。定年後は国民健康保険、任意継続被保険者、あるいは同居している家族の被扶養者などになります。

高齢になると医療費負担が心配になるでしょうが、69歳までは現役のときと同様に3割負担です。70〜74歳までは2割負担、75歳以上になると1割負担となります(これらの年齢でも現役並みの所得のある人は3割負担)。

現在、75歳以上の後期高齢者についても2割負担に引き上げる動きがはじまっています。これは以前より議論されてきたことですが、実現していませんでした。人口の構成比の高い団塊世代の人が後期高齢者になる2025年前後を見据えて、具体的に動きがはじまっています。昔のように定年退職すれば収入に関わらず医療費負担は軽減される時代ではなくなっています。

いずれにしても今後は、75歳以上になっても現役時代とそう変わらない負担が求められる時代になってもおかしくないのです。

▼高額療養費制度病気やケガをして手術や入通院で医療費がかかったとしても、高額療養費制度があるため、実際の医療費負担は思ったよりも少なく済みます。高齢者の高額療養費制度は2017年8月、2018年8月に改正されました。

現役世代と同様、高齢者であっても収入の高い人は負担が増える改正です。健康保険の自己負担割合と同じく、収入のある人は現役の人と同じような負担に変わりました。所得税などの課税についても同じような方向性になっています。

70歳、75歳という年齢ではなく収入などの状況を個別にみて判断されるのがいまの動きです。

■保険見直し前に、定年後の家族の状況も確認を
定年後の自分と家族を取り巻く状況・環境についても考えてみましょう。最近はライフスタイルも様々です。

例えば、定年近くの年齢になっても晩婚で子どもが独立していないケースもあります。他にも、所有している資産、就業の状況、将来に受け取る年金額なども含めて、総合的に判断することが必要です。

一般的に年齢を重ねていくと保障は減らしていってよいのですが、子どもの独立、住宅ローンの返済といったライフイベントが定年後になる人は、それらも考慮しなければなりません。すでに子どもが独立していて所有資産が多いなら、必ずしも生命保険・医療保険で備えなくてよいともいえます。

逆に定年以降も子の独立や住宅ローンの返済が続くなら、保障の必要性は継続します。現在は医療技術も上がっているため死亡率は下がっています。一方、長期の療養にわたるリスクも発生します。生きていることが必ず健康とは限りませんし、病気の完治に繋がっているわけではないからです。

ローンの返済や子の独立までまだ一定の期間があるなら、就業不能リスクもあると考えてください。

■定年後に必要な保障額の計算方法

老後に備えておくべき保障は次の2つをもとに計算します。

●1. 今後の生活費(=支出)
遺族の生活資金+別途必要資金(※)

●2. 今後の生活資金(=収入)
遺族年金などの社会保障+資産+就業収入・その他収入など

(※)葬儀費用など他に必要なものがあれば上乗せ

1から2を差し引いて不足があれば、それが必要保障額となります。見直しの結果、生命保険を減額してもよいとわかれば、保障額を減らす(減額や解約など)ことができた分、負担は軽くなります。

一般的に年齢を重ねていくほど必要保障額は減っていきます。また死亡保障の保険でも定期保険のように掛け捨てなのか、終身保険のように貯蓄性があるのかによってできる対応は異なります。

例えば定期保険なら保障の減額や解約、終身保険は貯まったお金を使って年金保険や介護保険に振替える、一部解約などして解約返戻金を受取ることもできます。その上で配偶者などにいくらかを遺す必要があるのか、それもあらためて考えてください。

■勤務先の団体保険は継続できるなら選択肢
勤めの人は勤務先の団体扱いの生命保険に加入していた場合、定年退職にともなってその加入から脱退することもあります。団体扱いの保険はその企業によって定年後の取扱いは様々です。定年退職したら脱退する、OB・OGといった扱いで違うかたちで保障が続けられるなどがあります。

継続できるなら保険料負担は安いので、必要なところだけ利用できないか検討してみてください。できれば定年前に勤務先でのこうした制度がどのようになっているか、確認しておくといいでしょう。

■すでに加入している保険の取扱いのポイント
高齢になってからの生命保険・医療保険などの加入は次の2つの課題があります。

・健康上の問題
・経済上の問題

一つは健康上の問題で、保険に加入できない、あるいは保険契約に条件がつくことがあることです(条件とは一定期間保障を減額されたり、特定の病気が保障されないなど)。もう一つは高齢になると保険料が高いため家計負担が重くなることです。

すでに加入済みの保険がある場合、不要なら無理に続ける必要はないので解約すればいいでしょうが、安易に解約すると加入し直すときには少々ハードルが高くなります。

いまは引受基準緩和型といって高齢者でも告知が緩く加入しやすい保険もあります。保険料は普通の保険より保険料が割高に設定されていますので注意してください。あくまで通常の保険に加入できないときの2番目の選択肢です。

長い間使ってきた体ですから、保険契約を引き受ける上での数値が多少引っかかる人も珍しくありません。定年後の時間が延びていますから、若いときと同じようにはいかないでしょうが、その年齢なりに健康を維持していることは何よりも重要なのです。

■定年後の生命保険を見直すポイントまとめ
以上を踏まえ、現在加入している生命保険や医療保険、家族と家計の現状を確認してください。

●保険料の払い方
終身払いか、有期払い(一定期間で払い込みが終わる)か

●貯蓄性の有無
積み立て(貯蓄性あり)か、掛け捨て(貯蓄性なし)か。

●保障期間
終身型(保障が一生涯続く)か、定期型(一定期間で保障が終わる)か。

細かい内容は専門家に見てもらわないと分からないことも多いでしょうが、上記のポイントは最低限押さえておきましょう。現在は貯蓄性の保険については年齢を問わず、マイナス金利の影響であまり優位性はありません。

多くの生保が外貨などにシフトしていますが、加入については優先順位が高いというものではないでしょう。検討している場合は、かかるコストや為替リスク等よくチェックしてください。

定年後に死亡保障や医療保障などが不足するケースがあるなら、新規に生命保険等に加入することも一つの方法ではあります。しかし定年後の年齢で新たに加入しようとすると、色々制約がでてくるのはすでに解説した通りです。

必ずしも生命保険や医療保険の加入にこだわる必要はありません。社会保障のおかげで老後の医療費は考えているほど負担はありませんから、保険ありきで考える必要はありません。

もちろん今後数十年先の公的医療保険制がどう変わるか分かりません。すでに定年を迎えて何年も経っている人、もうすぐ定年の人、定年までまだ時間がある人で考えること・すべきことは異なります。

定年後の生命保険についても個々の状況で考え方や対応方法は色々変わってきます。既存契約の保険があるなら、それをなるべく活かしつつ、自分の場合はどうかと考えて実行することが、損が少なくなる一番の方法です。

平野 敦之(マネーガイド)