ラグビー7人制も熱狂へ、リオ4位メンバーが語るメダルの有無がもたらす違い

 夏は殺人的な暑さを誇る熊谷の空が、少し寂しく映った。選手たちが黙々と汗を流す熊谷ラグビー場のCグラウンド。練習を見守るギャラリーは、30人ほどだった。犬の散歩をする人、ジョギング中のおじさんが立ち止まる。中にはサインをもらおうとラグビーボールを持参した熱心なファンもいたが、片手で数えることができた。

 ラグビーの男子7人制日本代表候補が24日、埼玉・熊谷市内で3日間の合宿を開始した。現在、25、26日に開催される「HSBCワールドラグビーセブンズシリーズ2019-2020 第3戦ニュージーランド大会」に出場するため、16人の選手がニュージーランドに日本代表として遠征中。選手の言葉を借りれば「正メンバー」ではない選手が熊谷に残っていた。

 15人制のトップリーグ開幕前は、東芝―トヨタ自動車の練習試合に数千人が集まったことと比べると、合宿とはいえラグビーブームの中では少し物足りない。15人制でW杯8強入りに貢献し、今後は7人制に専念する福岡堅樹(パナソニック)のケガによる不参加がなければ、注目度は変わったかもしれない。

「僕がセブンスに一番長く関わってきている。ちょうど今年で10年になりますね。セブンズは国内で大会がないこともあって、あまり認知されていない。そういうところで、五輪という一番いい舞台でセブンズを日本でやれることを思うと、この大会で結果を残すか残さないかでセブンズの将来が大きく変わってくる。なんとしてでもここは結果を残したい」

 こう語ったのは、熊谷合宿メンバーの坂井克行(豊田自動織機)だった。リオ五輪の4位に貢献した31歳。メダルをあと一歩で逃したが、前年の15人制W杯で南アフリカを撃破した「奇跡」の勢いを受け継ぐように快進撃を見せた。「長い歴史の中で15人制も、セブンズも世界のトップ4に入ったことは初めてだったので、目標のメダルには届かなかったけど、ちょっと胸を張って帰ってきた」。しかし、快挙の余韻もつかの間、帰国後に届かなかったあと一歩の大きさを知ることとなった。

 成田空港で目に映った光景は胸の中の自信とは対照的だった。「出迎えられたのは、いつものラグビー記者の方ばかり」。ありがたいことだとは思いつつ、拠点を置く愛知への帰路でも寂しい思いをしたという。

7人制の現状を明かした坂井克行【写真:浜田洋平】

大会出発前の空港で「はじめまして」、大会や合宿ごとにメンバーが異なる

「愛知の家にたどり着くまでに『あ、オリンピック見ました』って声をかけてくれる人が一人もいなかった。メダルがあれば、もしかしたらその日は取材とかで帰れなかったかもしれない。もしくは『ラグビーでメダル獲りましたよね』って声をかけてくれたかなと思うと、4位と3位の差は非常に大きなものがあると痛感した。

 その後もリオが終わって4位になったにも関わらず、セブンズの強化もなかなかうまく進まなかったことを思うと、メダルを獲っていれば大きな差があったのではないかと思います。今回、東京五輪ではなんとしてもメダルが必要。非常にハードルが高いことは理解しているんですけど、そこを破らないと今後変わらないのかなと思っています」

 2018年、アジアの国際大会への出発時、空港に集まったメンバーはわずか5人だった。19年W杯に向けた15人制代表に人材が流れるなど、人手不足の状態。メンバーは大会や合宿ごとに入れ替わる。所属チームとの契約の兼ね合いなどもあり、簡単に片づけられる事情ではなかった。途中から合流して大会に出場するが、坂井は「当然勝てないですよね。そんなに甘い世界ではない」と準備不足を嘆く。そして、こう振り返る。

「実際にリオの前もこういったことが続いていて、リオの後も変わらなかった。本当につい最近までは空港に集合して『はじめまして』と挨拶して、現地に入って『セブンズっていうのはこういうものだよ。15人制とはここが違うんですよ』という話をしていた。それをなんとか落とし込んでなんとか試合をする。

 帰ってきて、また次の合宿で集まったら5人くらいしかいない。また何人かがはじめましての状態で集まることが結構続いた。今はその辺りの問題がないけど、東京五輪が終わった後のことを考えると、同じようにはなってほしくない。じゃあどうしたらいいのかというと、メダルを獲ること。これが一番いい解決策なんじゃないかなと思います」

 五輪が近づくにつれ、所属チームの了承を得られやすくなるなど状況は改善されていくが、4年に一度の大舞台が過ぎ去れば元に戻ってしまう。だからこそ、メダル獲得で昨秋の15人制のようなフィーバーを起こす必要があるという。坂井は理想を語った。

「今のように東京五輪が終わって、次のパリ五輪に向けて、20人前後のメンバーが毎回同じように集まって大会に行く。帰ってきた後も、大会の反省を持ったまま次の練習に取り組むことができる。同じメンバーでやることで結束力も高まりますし、みんなで競争していくことでどんどんレベルが上がっていく。そこが一番変わってほしいなと思います」

強化の継続性を懇願「五輪に出ようが出まいが、この思いを伝える」

 坂井によると、自身が代表入りして以降、1年間の代表活動で一度もチームを離れずにフルで戦った選手は、自分以外にはいないという。「それだけセブンズに対する思い入れは人一倍強いと勝手に思っています。セブンズのいいところも悪いところも一番知っているつもりではある」。そんな古株は7人制の魅力を語った。

「ラグビーの魅力、全ての面白さが一番わかりやすく伝わるのがセブンズだと思う。足が速い、ステップワークで相手を抜く、ただ相手とぶつかるというラグビーの醍醐味がある。あとはラグビーのルールはわかりにくいと聞くけど、それも人数が少ない分、非常にクリアでどんな方でもわかりやすく見られると思う。

 そんな中でも、僕が一番醍醐味だと思っているのは、1日に何回も強豪国の試合を見られること。(15人制の)W杯だと、最低1週間くらい待たないといけない。でも、セブンズの場合は、ニュージーランドがやって、イングランドがやって、フィジーが来て、次に日本戦が来て。それでまたちょっと空くと、また同じサイクルで試合を見られる。1日に強豪国の試合をたくさん見られるのが、僕は魅力じゃないかなと思う」

 自身は年明けの練習中に接触した相手の膝が顔面に直撃し、右目上を5針縫った。今回の合宿初日は別メニュー。パス回しをする仲間を横目にグラウンドの端を走り続けた。東京五輪代表に食い込むには厳しい道のりであることは理解している。諦めずに五輪を目指す中でも、自分たちが戦う意味をチームにつなぐつもりだ。

「当然僕が五輪に出ようが、出まいがこの思い(メダル獲得の重要性)はずっと変わらないと思っている。その辺はチームには伝えようとは思っている。(代表入りすれば)空港に集合した時に力を貸してくれた人の思いを背負って東京でプレーしたい」

 空前の大フィーバーで軌道に乗った15人制。代表強化の継続性を願う7人制の古株は、メダル獲得を起爆剤に変えようと歯を食いしばっている。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)