子どもたちともう一度「ONE TEAM」に―「ラグビー監督から午前9時のメッセージ」第11回

 新型コロナウイルスの感染拡大により、昨秋のワールドカップ(W杯)で空前のブームが巻き起こったラグビー界も大きな影響を受けた。1月に開幕したトップリーグがシーズン途中で中止。1試合の観客最多動員を記録する試合も生まれるなど、W杯から続いていた盛り上がりが予期せぬ形で途絶えてしまった。

 もっとプレーを見せたかった選手、プレーを見たかった子どもたち。距離が遠くなってしまったいま、「THE ANSWER」はラグビー界がもう一度、子どもたちと一つになれることを願って、「#キミとONE TEAM」と題した連載をお届けしている。

 元日本代表主将の菊谷崇さんと廣瀬俊朗さんが発起人となり、多くの現役、OB、指導者らが賛同。いま抱えている思いとともに、全国の子どもたちに向けたメッセージを送る。また、記事は連日午前9時に配信。「#きょうのトライ」として、学校が休校となっている子どもたちにきょう1日を使い、やってほしいことを提案する。

 第11回は早稲田大学ラグビー蹴球部の相良南海夫(なみお)監督。2018年2月に監督就任。今年1月の大学選手権でライバル明大を破り11季ぶりの優勝に導き、名門を復活させた名将だ。

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 今はチームの練習ができない状況なので、基本的には選手に任せています。うちは全寮制ではなく、実家暮らしも、一人暮らしの選手もいます。帰省したいものは帰る。残りたいものは残る。それぞれの判断に任せています。練習は3月の終わりくらいまでは、一度に集まるのは少人数にしてやっていましたが、4月に入ってからは完全に自粛しています。

 そんな中で何ができるのか――。考えるいい機会だと思って過ごし方はそれぞれに任せています。自分が感じている課題に対して、今できることは何か、何をする必要があるのか。見つめなおす時間にもなるのかなと。そうはいってもまだ学生ですし、もちろん悩むことはあると思います。ですのでS&Cコーチ(ストレングス&コンディショニングコーチ)からはフィジカルの維持という部分をメインにして、週ごとに練習のパターンだったり、こういう形でやっていけばというものは伝えてもらい、動画や資料は随時提供しながらやっています。

 選手とはZoomを使って、個人面談のような形でコミュニケーションを取るようにしています。選手間でもZoomでのミーティングを週に2、3度やっているみたいです。ポジションごとにもウェブセッションをやったり、6人くらいのグループを作って、自分が出ていた試合を振り返ってそれぞれでレビューし合うようなことも始めているようです。自主的にどんどんやって欲しい。それだけ、今何ができるかを考えられているんだと感じています。

 いつ練習が、試合ができるようになるのか、今は考えても仕方ないことです。もちろん指導者としてはプランを立てたいというのは正直なところですが、今はまだ先の状況が見えてきません。ラグビーだけじゃなくて、世界中のみんなが同じような状況です。

 それならできるだけポジティブに考えよう。自分で考えて課題に向き合うようなことは、普段からできるようでなかなかできません。決して無駄な時間ではありません。今まで頑張ってきた子どもたちにとってインターハイの中止などは、とてもショッキングなことでしょう。気の利いたことは何も言えませんが、いつか自分がやってきたことの成果が出ると信じるしかありません。前を向きましょう。

「直接会えなくても、人とつながる機会を作ることはできます」

 今は子どもたちは学校に行けず、友達にも会えず、つらい思いをしていると思います。家族と過ごす時間はもちろんですが、もし一人暮らしの学生さんでも、今はZoomだったりLINEだったりで、人とつながる機会を作ることはできます。直接会うことは難しいですが、実際に顔を見ながら、会話の時間を増やすことをお勧めします。

 すごく小さいお子さんには難しいかもしれませんが、今までの自分を振り返ってみましょう。一人になったときに、まわりのみんなのありがたさを思いだして欲しい。私が選手にも話したことですが、チームスポーツは一人一人が責任を果たしてこそです。一人一人がレベルアップすることで、チームがレベルアップする。今の時間で個々がどうやって成長するのか、目的に向かう姿が大事です。

 私は2年前の2月に監督に就任しました。早稲田の100周年というのもあって、周囲からは「火中の栗を拾うようなものだ」とか、「プレッシャーも凄いだろう」と心配されていたみたいです。ただこれもめぐり合わせ。指名されることは光栄なことだと思い、あまり背伸びせずにやろうと、私に成績は求めていないだろうと思って(笑)。

 だから100周年というよりは次の100年のスタートを切るという意味でも、早稲田が今まで大事にしてきたものを、より大事にしていこうと考えました。もともと戦力としては、齋藤(直人=現サントリー)をはじめとしていい選手がたくさんいました。

 私は就任して最初に「やるのは自分だよ。自分たちが手に入れたいものは何なのか。それに向かって自分たちが考えて、主体的に取り組まないと手に入らないよ」と伝えました。そういう姿勢で一貫して選手には向き合ってきました。積み重ねの中で、選手たちは自分たちで努力をして、2年前に監督になったときよりは多少は意識の底上げができてきていると思います。

 だから今もポジティブに考えるようにするならば、自分で考えて何をすべきか向き合うにはいい時間だと思います。逆に監督、コーチがあまり差し伸べないようにすることが大事だと感じています。実際に私から今、伝えていることは、ほとんどありません。安全と健康が一番だと。そこに関しては自分が得た情報を、マネージャー経由で配信してはいますが、手洗いうがいの大切さなど、本当に基本的な話だけです。選手も指示を“くれくれ”と待つ方が楽、やっぱり与えられる方が楽なんです。逆に何かあれば選手から、受け身じゃなくて聞いてきて欲しいなと思います。

【#きょうのトライ「トイレの掃除をしましょう。きっと気づきがあります」】

 トイレの掃除をやってみましょう。今までお母さんが当たり前のようにしてくれていたことかもしれません。ただのトイレ掃除かもしれないですが、真剣にやってみると、こんなところが汚れていたとか、次の人が気持ちよく使えるようにとか、色々なことに気付けるんじゃないかと思います。家族に感謝しながら、ぜひ挑戦してみてください。

■相良南海夫(さがら・なみお)

 1969年8月14日、埼玉県出身。早大学院高でラグビーを始め、3年時に花園出場。早大2年時には、2学年先輩の清宮克幸主将(現日本ラグビー協会副会長)らとともに、大学選手権優勝。卒業後は三菱重工相模原でプレー。監督を務めた、06年度にはチームをトップリーグ昇格に導いた。2018年に早大の監督に就任。大学選手権の決勝でトライを挙げた昌彦は次男。現役時代のポジションは主にフランカー。

(次回は日本代表・姫野和樹さんが登場)(THE ANSWER編集部・角野 敬介 / Keisuke Sumino)