台湾の頼清徳(ライチントー)新総統は20日に台北市内で行った就任演説で、緊張が増す中台関係をめぐって、「中国の軍事行動とグレーゾーンの脅迫は、世界の平和と安定に対する最大の戦略的挑戦とみなされている」と批判。「中国に武力による脅しをやめるよう求めたい。台湾海峡や地域の平和と安定を維持し、世界が戦争の恐怖から解放されるよう、世界的な責任を台湾と共有することを求めたい」と呼びかけた。

 頼氏はこの日、対中関係について「卑下することも、おごることもなく、現状を維持する」とも述べ、8年前の2016年に国民党から政権交代して総統となった蔡英文(ツァイインウェン)前総統の路線を継承するとしている。この日の演説でも「対等・尊重の原則のもと、対抗は対話に、包囲は交流にとってかわるべきだ」として中国とともに平和と繁栄のために努力するとしたが、中国を警戒する言葉も目立った。

 中台が1992年の会談でともに「一つの中国」原則を口頭で認めたと中国側が主張する「92年コンセンサス(共通認識)」については触れなかった。蔡氏の就任演説では、中国が一つであることを前提とした中華民国憲法を基礎とすることや、中台が92年に対話したことを「歴史の事実で、尊重する」といった内容を盛り込んで中国側の主張への一定の配慮を見せた。

 頼氏はこの日、「中国は中華民国の存在を正視すべきだ」と述べるなど、「中華民国」に繰り返し言及した。

 蔡氏の演説では92年コンセンサス自体を認めなかったことで、中国側は演説を「未完成の答案」だと批判。蔡政権の間、中国は台湾の国際社会での孤立化をはたらきかけるなど圧力を強め、中台の対話も進展しなかった経緯がある。頼氏の就任演説でも対中関係をめぐる発言が最大の焦点となっていた。(台北=斎藤徳彦、北京=畑宗太郎)