台湾の総統に20日、民進党の頼清徳(ライチントー)氏(64)が就任した。頼氏は就任演説で焦点となっていた対中関係について、「共に平和と共栄を追求すること」を呼びかけた一方、中国を名指しして「台湾への言論での攻撃や武力による威嚇」をやめるよう求めた。中国側は反発している。

 1996年の直接選挙導入後、同じ政党が3期続けて政権を担うのは初めて。中台統一を掲げて圧力を強める中国に対して、蔡英文(ツァイインウェン)前政権は統一を拒みつつ、中国を挑発せずに「現状維持」を目指してきた。頼氏はその方針を引き継ぎ「卑屈にも傲慢(ごうまん)にもならず、現状を維持する」と述べつつも、演説で中国への危機感を従来より強く示した。

■中国は「危険なシグナル」と批判

 頼氏は演説で「民主主義国家と共同体を形成する」として米欧などの民主主義陣営に立つとしたうえで、「中国の軍事行動や(武力攻撃に至らない)グレーゾーンの脅迫は、世界の平和と安定に対する最大の戦略的挑戦とみなされている」と批判した。

 中国は台湾に対し、交流の前提条件として「92年コンセンサス(共通認識)」の受け入れを求めてきた。92年に中台の窓口機関同士が行った会談で、中台がともに一つの中国に属することを確認したと中国側は主張している。頼氏はこの日の演説でこの点に触れず、「中国が、中華民国が存在するという事実を直視することを望む」と訴え、中台が並び立つ関係であるとの立場を強調した。

 中国の習近平(シーチンピン)指導部は頼氏を「独立派」とみなしてきた。中国政府の台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室は20日、頼氏の演説を受けて、「本性が露呈した」と反発。「台湾海峡の平和と安定を破壊する危険なシグナルだ」と非難した。(台北=金順姫、北京=畑宗太郎)