【2019年12月9日 マックスプランク研究所】

くじら座の方向約7億光年の距離にある「エイベル85」は500個以上の銀河が属している銀河団だ。この銀河団の中心には「Holm 15A」という巨大楕円銀河が存在する。私たちの天の川銀河に含まれる恒星の総質量は太陽の1000億倍ほどだが、Holm 15Aの恒星の総質量は太陽の2兆倍もある。

エイベル85
銀河団「エイベル85」。中央の明るい銀河が巨大銀河「Holm 15A」(提供:Matthias Kluge/USM/MPE)

一般に、楕円銀河は内側に向かうほど星が密集して明るさが高くなり、中心部には直径が数百〜数千光年ほどの「コア」と呼ばれるほぼ均一な構造がある。しかし、Holm 15Aの中心部はあまり密集しておらず、大マゼラン雲(直径約1万5000光年)とほぼ同じサイズの大きく広がった淡いコアを持っている。このことから、独・マックスプランク地球外物理学研究所(MPE)のKianusch Mehrganさんたちの研究グループは、この銀河には非常に重い中心ブラックホールがあるのではないかと推測した。

「超大質量ブラックホールの質量を直接測定できた例はまだ数十個しかありませんし、これほど遠い距離でブラックホールの質量が測定されたことは一度もありません。しかし私たちは、この銀河の中心ブラックホールはかなり重いのではないかという、ある程度の予想をしていました。そこで測定を試みたのです」(MPE Jens Thomasさん)。

研究チームでは、独・ミュンヘン大学ヴェンデルシュタイン天文台の望遠鏡とヨーロッパ南天天文台のVLT望遠鏡で観測を行い、Holm 15Aの中心ブラックホールを回る恒星の運動を測定してブラックホールの質量を見積もった。その結果、Holm 15Aの中心ブラックホールの質量は太陽の400億倍という値が得られた。これは地球近傍の宇宙にある質量が知られたブラックホールの中では最も重いものだ。「この値は、Holm 15Aの恒星の総質量や恒星の速度分散(速度のばらつきの度合い)から間接的に導いた値よりも数倍大きなものでした」(MPE Roberto Sagliaさん)。

Holm 15Aの表面輝度(単位面積当たりの明るさ)の分布を見ると、コアが大きく広がっている。また、その表面輝度は非常に暗く、他の楕円銀河のコアと比べてもずっと暗い。「Holm 15Aは中心付近でもコアの明るさが非常に平坦です。過去の銀河合体の際に中心部の恒星の大半が銀河の外へはじき出された可能性があります」(Mehrganさん)。

Holm 15Aの表面輝度分布
Holm 15Aの表面輝度の分布(赤)。横軸が銀河中心からの距離で縦軸が表面輝度を表す。灰色の線は他の銀河の輝度分布。表面輝度がほぼ一定になっている領域をコアと呼ぶ。他の銀河と比べて、Holm 15Aのコアは非常に大きく、輝度が低い(提供:MPE)

現在広く受け入れられているモデルでは、巨大楕円銀河のこうした淡く広がったコアは「core scouring(コアの『精錬』)」と呼ばれるプロセスでできたと考えられている。2個の銀河が合体すると、それぞれの銀河中心にあったブラックホール同士が重力相互作用でブラックホール連星となる。このブラックホール連星と普通の恒星が出会うと、3つの天体の「三体相互作用」によって最も軽い恒星が細長い軌道に変えられ、合体後の銀河のコアからはじき出されるのだ。もし合体後の銀河の中心部に新たな星を生み出せるガスが残っていなければ、ブラックホール連星によって星の放出が繰り返されることで、若い星が少なく暗い「枯渇したコア」が残ることになる。

「最新の銀河衝突シミュレーションでも、今回の観測で得られた特徴と非常に良く合う予測が得られていました。シミュレーション結果によると、銀河合体で淡く広がったコアができるためには、合体前の2個の楕円銀河がすでに「枯渇したコア」を持っていることが最も大事です。つまり、銀河の輝度分布の形や恒星の軌道に関する観測データには、Holm 15Aのコアが形成されたときの環境に関する、銀河考古学上の価値ある情報が含まれているということになります。これは他の巨大銀河でも同じです」(Thomasさん)。

Holm 15Aの合体の歴史はこのように少し特殊なものだが、ここからブラックホールの質量と銀河の表面輝度を関連づける新たな強い関係を見出すことができる。「銀河が合体するたびに、中心ブラックホールの質量は増え、銀河の中心部からは星が失われていく」、という関係だ。この関係を使えば、ブラックホールのそばを回る恒星を直接測定できないような遠い銀河についても、中心ブラックホールの質量を見積もることができるかもしれない。