【2020年5月1日 JAXA】

金星の自転周期は地球時間で数えて243日、公転周期は225日だが、その自転と公転の向きが逆であることから、金星の一日の長さは地球の117日に相当する。一方で、金星の分厚い大気はゆっくり自転する惑星自身を軽々と追い越してしまうほどの速度で回転している。この現象は「スーパーローテーション」と呼ばれ、一番速度が大きい雲層の上端付近(高度約50〜70km)では自転速度の60倍にも達している。

スーパーローテーションは1960年代に発見されたものの、そのメカニズムは謎とされてきた。過去に長期にわたって金星を周回した探査機であるNASAの「パイオニア・ビーナス・オービター」やヨーロッパ宇宙機関の「ビーナス・エクスプレス」でも、スーパーローテーションに関する仮説を確かめる観測を行うことはできなかった。一方、2010年5月に打ち上げられ、2015年12月に金星周回軌道に投入された探査機「あかつき」は、謎の多い「金星の気象」を幅広く解明することを目指している。中でもスーパーローテーションがどのように維持されるかを解明することを最大の目標としていた。

「あかつき」
「あかつき」の想像図(提供:池下章裕、ISAS/JAXA)

「あかつき」は紫外線や赤外線の複数の波長で金星の雲の写真を撮り続けている。北海道大学の堀之内武さんたちの研究グループは、紫外線カメラによって得られた画像に写る雲を追跡する手法を新たに開発し、風速を求めた。これによって、従来は不可能だった風速の微細構造を明らかにすることができ、スーパーローテーションに対する大気の波や乱流の効果を見積もることもできるようなった。堀之内さんたちはさらに赤外線カメラで計測した温度も使用し、スーパーローテーションがどのように維持されているのかを調べた。

地球がそうであるように、太陽からのエネルギーが一番効率よく届くのは金星の赤道付近で、極付近が受けるエネルギーは弱い。そのため、熱い低緯度から寒い高緯度へと大気が南北方向にゆっくり循環することで熱を運んでいる。このとき角運動量(回転の勢い)も一緒に運ばれてしまうため、このままでは赤道におけるスーパーローテーションを維持できない。

詳細な分析の結果、昼に加熱されて夜に冷却されることで大気が動いて生じる「熱潮汐波」が赤道領域へ角運動量を運び、低緯度での大気の加速を引き起こすことが明らかとなった。これまで大気中に存在する潮汐波以外の波や乱れも加速を担う候補として考えられてきたが、低緯度の雲頂付近では、弱くはあるが潮汐とは逆に働いていることも今回新たに判明した。ただし、それらは赤道を離れた中高緯度では角運動量の運搬に貢献していると考えられる。

スーパーローテーションの維持機構の模式図
今回明らかになった金星のスーパーローテーションの維持機構の模式図。画像クリックで表示拡大(提供:Planet-C project team)

現在も観測を続ける「あかつき」だが、これまでに取得されたデータの分析も活発に続けられており、観測とシミュレーションの融合などの研究も進んでいる。今後も金星大気に関する様々な発見がもたらされ、理解が進むだろう。また、地球でも極端な温暖期にはある程度のスーパーローテーションがあった可能性も示唆されており、地球とは大きく異なる金星大気の研究から、地球型惑星における大気の循環に関するより広い理解が得られるかもしれない。

さらに、現在発見されている4000を超える系外惑星の中でも、恒星の近くを回っている系外惑星の多くは特定の半面を恒星に向け続けていると考えられている。この状態は非常にゆっくりと自転している金星の状態と似ており、今回明らかになったシステムは系外惑星でも成り立っている可能性がある。今回の研究成果は、系外惑星の大気循環やそれが表層環境に与える影響の探求にも応用されることが期待される。