F1には、シリーズを運営するオーガナイザーを始め、チーム代表、エンジニア、メカニック、デザイナー、そしてドライバーと、膨大な数のスタッフが携わっている。この企画では、そのなかからドライバー以外の役職に就くスタッフを取り上げていく。

 第10回目となる今回取り上げるのは、前フォーミュラワン・グループ会長兼CEOのバーニー・エクレストン。現在は名誉会長としてグランプリを訪れているエクレストンだが、ここでは彼がF1を安定した選手権にし、テレビ中継のビジネスモデルを確立した功績をご紹介する。

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 もし、この人がいなければ、F1はいまとは違ったものになっていたに違いない。その人物とは、前フォーミュラワン・グループ会長兼CEOのバーニー・エクレストンだ。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となったオーストラリアGP以来、レースが行われていない2020年のF1も、ようやく7月3日にオーストリアGPで再開しようとしている。

 ただし、当分は無観客でのレースが続く。それでもF1が再開できるのは、テレビ中継によって世界中のファンにレースを楽しんでもらえる環境が整ったからだ。そして、その環境を80年代に整備したのが、ブラバムのチームオーナーを務めていたエクレストンだった。

 日本では1987年からフジテレビによって全戦テレビ中継が開始されたが、じつは70年代までは日本以外の欧米諸国でもF1のテレビ中継は不定期だった。それはF1では、それぞれの主催者と各チームが個別に契約を結んでいたため、グリッドにマシンが並ぶまで開催できるかどうかが不透明だったからだ。

 そこで腰をあげたのが、エクレストンだった。70年代半ばにF1のチームを集めてFOCA(F1製造者協会)を立ち上げて、各国のグランプリ主催者との交渉を一手に請負ったエクレストンは、選手権を安定したシリーズにすることに成功。さらに、1980年代初頭に対立していたFIA(国際自動車連盟)とも1981年に和解し、コンコルド協定を締結。

 F1の商業権を正式に委託されることになったエクレストンは、世界各国のテレビ局に対して、F1をオリンピック、サッカーのワールドカップに匹敵する国際的なイベントとして売り込み、高額な放映権料を手にし、それをコンコルド協定に決められた割合で各チームに分配するというビジネスモデルを構築した。

 その後、エクレストンは各国のテレビ局に任せていたテレビ中継自体も自前のスタッフで行うようになり、現在では全グランプリのテレビ中継がフォーミュラ・ワン・グループ(FOG)が運営しているF1コミュニケーションズのスタッフによって行われるようになった。

 もし、安定してテレビ局から放映権料を取るという仕組みを確立していなければ、今年の7月からF1が再開されていたかどうかはわからない。またF1のテレビ中継が地元のテレビ局のスタッフによって制作されていたままだったら、再開に向けた交渉はもう少し長引いていたかもしれない。

 さらにエクレストンが秀でていた才能は、ビジネスチャンスを探し出す嗅覚だった。たとえば、F1は2004年に中東(バーレーンGP)とアジア大陸(中国GP)に進出したが、これはオリンピック(2008年北京大会)やワールドカップ(2022年カタール大会)よりも早い。

 近代F1の礎を築いたエクレストンの時代は、2016年9月7日、アメリカのリバティ・メディアがCVCキャピタル・パートナーズから株式を買収し、F1の新オーナーとなることで終焉。現在エクレストンは『名誉会長』という役職に就いて、時々グランプリに顔を出しているものの、運営にはいっさい加わることが許されておらず、事実上の隠居生活に入っている。10月に90歳を迎える今年の夏には3人目の妻ファビアナ・フロシとの間にもうけた男児が誕生する予定だ。

 いまF1は新しいレギュレーションと新型コロナの影響により、さまざまな分野で改革が断行されようとしている。エクレストンが作った近代F1のDNAは、どのように進化していくのだろうか。そして、その新しいF1をエクレストンはどんな思いで、テレビ観戦するのだろうか。