2020年10月25日、日本のハードエンデューロ史に新たな1ページが書き加わえられた。「CROSS MISSION 新居浜〜シコクベルグ〜」だ。会場を提供した西日本砕石株式会社、そしてコースレイアウトと主催を務めた石戸谷蓮が、SNSを中心とした広報活動に力を入れた結果、なんと日本ハードエンデューロでは類を見ないエントリー総数300台超え、観戦者数600人超え、スタッフやメディアを含めて1000人を超える規模のイベントになった。

元になったレースはもちろん、エルズベルグ・ロデオ
フィニッシャーよりも価値ある一歩

シコクベルグに出場したライダー、そしてほとんどの観客は、このレースの元になった「採石場を登っていくレースフォーマット」のレースを知っているはずだ。そう、オーストリアで毎年開催されている世界最大規模のハードエンデューロレース、エルズベルグ・ロデオだ。石戸谷蓮は2018年から「5ヵ年計画で完走を目指す」と宣言し、このエルズベルグ・ロデオに参加しているライダーなのだ。

そもそも、この「CROSS MISSION」というイベント自体が、石戸谷が「エルズベルグ・ロデオに参戦するための費用を捻出するため」という名目で始まったもので、僕自身も一度出場し、一番簡単なXクラスだが完走している。コアなハードエンデューロファンに向けたレースや、オフロード初心者に向けた走行会など幅広い層をターゲットにしてきたことで、イベント自体のファンや知名度も増え、満を辞したタイミングでの、シコクベルグだった。

そもそものキッカケは、SNSで西日本砕石の3代目が、会社の敷地をオフロードバイクのレースで使えないか、と発言したことだった。元々は四国エンデューロ選手権の会場として使用される予定で話が進んでいたものの、この新型コロナウイルスの影響で選手権は中止。それならば、とCROSS MISSIONの計画が進められた。

これは僕の想像だが、おそらくこのシコクベルグは採算を度外視したイベントになっただろう。それはもちろん、本来の目的からは違ってしまうのだが、途中からは「こうなったら盛り上げられるだけ盛り上げてやる」という気持ちが、石戸谷の中に芽生えたはずだ。

「息子から会社の敷地でオフロードバイクのレースをしてもいいか? と聞かれてOKを出しました。実は20年ほど前にもちょっとだけここでオフロードバイクの練習をしたことがあって、いつの時代も変わらないな、と。そして肘爆photoくんがすごくいい写真をSNSにアップしてくれて、そこから蓮くんに繋がって今回のレースが開催できるようになりました。

僕も彼らも、バイク人口を増やしたいという共通の目的を持っていました。ところがバイクのイベントをやる、と言うと最初地元では「ガラの悪いライダーが集まってうるさいんじゃないか」とか、「コロナウイルスの感染拡大が心配だ」といった声が上がっていたのですが、スタッフの今井さんが清掃活動をしてくれたり、尽力してくれて、地元の協力も得ることができました。

あと皆さんにお願いしたいことがあります。バイク野郎って言うと、やんちゃなイメージがあるんですけども、公道では安全な模範運転をして欲しいと思います。オフロードバイクはオンロードよりもバイクのスキルを磨くことができます。レースでしっかりスキルを身につけて、公道での安全運転に繋げてください」と今回会場となった西日本砕石株式会社の岡さん。

石戸谷のプロモーション力はもちろんのこと、西日本砕石の岡代表の力もあり、話はドンドン大きくなった。地元の新聞やTV局が取材に訪れ、表彰式には新居浜市長の姿も。僕が取材のために前日に宿泊したルートイン新居浜では通常朝食は6:45からのところ、それではレース時間ギリギリになってしまうため「CROSS MISSIONに参加されるお客様は6:00から大丈夫です」と受付のお姉さんに案内されて、驚いたものだ。

これではまるで北海道で町をあげて開催されている日高ツーデイズ・エンデューロ、ならびにこちらもエルズベルグ・ロデオを模したHIDAKA ROCKSのようではないか。そんなオフロードバイクの聖地と呼べる土地が、新たに誕生した瞬間と言ってもいいだろう。

エルズベルグ・ロデオはハードエンデューロライダーなら誰もが憧れる夢の舞台。しかし、オーストリアのレースに参戦するには費用、休暇、言語など多くの壁が存在する。それらの壁を乗り越えてエントリーできたとしても予選で500台に絞られるため、決勝を走ることは難しい(それでも毎年1000人を越すライダーがエルズベルグ・ロデオにエントリーするのだが……)。しかし、石戸谷はシコクベルグを開催することで、日本中の、エルズベルグ・ロデオに憧れていた300人のライダーたちに、600人の観戦者たちに、擬似エルズベルグ・ロデオを提供してみせた。これは日本人として2人目のエルズベルグフィニッシャーになるよりも、もっともっと偉大なことだと思う。

そんな僕が感じたシコクベルグの存在意義をまず先にお伝えしてから、レースレポートをお読みいただきたい。

クラス分けなしの300台混走、渋滞を避けて前に出ろ!
スタート〜CP4

レースのスタート地点は採石場の最下層。この広場に300台が集結し、ゼッケン順にスタートを切った。

簡単な移動路のあと、最初に立ちふさがるのが、このヒルクライム。一人で登る分にはさほどでもないが、大勢で一斉に登るとなると、思わぬトラブルが発生するのが、容易に想像できる。さらにこのレースにはクラス分けはなく、初めてハードエンデューロに出る初心者から本物のエルズベルグ・ロデオに出たこともあるトップライダーまでが混走なのだ。この移動路でいかに前に出て、セクションが渋滞する前にクリアするかが、完走するカギだった。

まず、スタートでホールショットを決めたのは、水上泰佑。水上はエントリー枠を譲ってもらっての参加だったが、たまたまもらった枠がゼッケン5。見事1列目スタートをゲットしたのだった。

最初のヒルクライムをトップで登頂する水上。昨年のレースでトレードマークとなっていたガイコツウエアは久々のお目見え。どうやらこのウエアの方がシートとの相性がよく、体が遅れないとのこと。

ちなみにレース開始から10分も経つとこんな状況に。

今回、ゴールまでに10個のチェックポイントが設けられ、そこを通過する時にゼッケンに内蔵されたICチップを携帯アプリで読み込む、まったく新しい集計方法が採用された。そして、なんとこのシステムを開発したインフラジスティックス・ジャパン株式会社の代表も、ハードエンデューロライダーなのだ。

CP1からCP4までは観客によるヘルプありの設定。その中でもCP1のビッグロックダンスと、CP3のムーンサルトは多くのライダーによる渋滞が発生し、難関だったようだ。「ようだ」と書いたのには理由がある。そう。僕はトップライダーを追うためにスタートのヒルクライムを撮影したあと、CP1〜CP4を飛ばして、CP5にワープしていたため、生でこの状況を見ることが出来ていないのだ。写真は全日本トライアルを追うカメラマン、折口氏にご協力いただいた。

水上、ZERO、森、アヤト。海外レース経験豊富な猛者がバチバチ
CP5 シコクベルグロック〜CP6 砕石の墓

僕が先回りしていたCP5のシコクベルグロックに最初にたどり着いたのは、やはり水上。あとで聞いてみると、細かいミスはあったものの、誰にも抜かれることなくここまで到達したらしい。

ところが水上がCP6に到達する前に、後続がCP5にたどり着いた。一瞬「KX!?」と思ったが、これは緑の外装をつけたKTM、CGC大町にも出場していたウワサの覆面ライダー、ZEROだ。さらにその後ろには日本人初のルーフ・オブ・アフリカ完走者、森耕輔。そして、Sea To Skyや台湾の亀山ハードエンデューロでも実績を持つ山本礼人。ここまで全員が海外ハードエンデューロの経験者というのは、出来すぎた話である(ZEROの素顔についてはここでは明言は避けるが、ご想像願いたい)。

水上はなんとかトップでCP6に到達。しかし腕上がりと疲労から冷静さを取り戻すために深呼吸と水分補給を行った。

ちなみにここもレース後半はこんな状況に。中堅ライダーでは、ここでレースを終えたライダーが多かったようだ。

ZERO、流石の大ジャンプでトップへ
CP7 バーンアウト〜CP8 ダンプロード

続くセクションはこちら。ヒルクライムを登って、降りて、また登る。水上はここでなんと3度のミスを繰り返し、トップの座を明け渡すことに。水上がやり直している間にZERO、そして森がクリア。

この時点で後ろはかなり離れており、トップ争いはこの3台に絞られたように見えた。

こちらはレース後半の写真だが、このセクションは後半のキモと言えただろう。まずは手前の飛びつきが難しく、さらにその後もイゴリ上げるしかないようなセクションだ。

ここではトップ3は三者三様のラインを選択した。水上はレース直前の追加下見で発見した独自ラインを選択。森はおそらく他に誰も入らなかったであろう左側の一番ガレがひどいラインを押し上げた。そしてここで輝いたのが、ZEROだ。石戸谷が意図的に設置したカタパルトを見事に使い、大ジャンプにて一発クリア。水上の頭スレスレを飛び越え、再びトップに躍り出た。

残念ながら僕も目撃は出来たものの、現場に到着したばかりでカメラを構える余裕もなく、シャッターチャンスを逃してしまったので、石戸谷のツイッターの投稿をシェア。さすが、モトクロスIAといったところだろう。

最後の最後までわからない優勝争い
CP9 いわなだれ〜CP10 選ばれし頂き

ZEROがCP8後のヒルクライムでミスし、トップは森へ入れ替わっていた。もうゴールの頂きが見えるこのセクションで、なんと森はキャンバーに落ちかけてしまう。それを後ろから見ていた水上は冷静に周囲を見回す。

水上はおもむろにバイクを降りると、いくつか石を動かし……

森がキャンバー落ちしている横を見事に追い抜く。「リスクは高かったけど、もうCP9でしたし、ここで抜かなきゃ勝てない! と思い、賭けに出ました」と水上。

そして丸太一つ、ラストのヒルを登ってトップチェッカー。

G-NET王者奪還に向けて弾みをつけた水上泰佑

新居浜の海を眺める山頂で、水上はこの日二度目の雄叫びをあげた。

「とにかく、こんな伝説のレースの、初代チャンピオンになれたことが嬉しいです。実はコースの難易度はそんなに高くなかったですね。僕が結局1時間で完走しちゃってますから、いつも出ているG-NETや、前に出場したCROSS MISSION桑田山の方が、だんぜん難しかったです。本当のエルズベルグ・ロデオも、耐久レースに見えて実はスプリント的な要素が大きくて、とにかく速く走って前に出ないと渋滞に巻き込まれて、進めなくなってしまうんです。そういう意味でも、とても似たレースでした。

ただ問題は、初レースであまり人が走っていないせいで、動く石がいっぱいあることでした。これはもちろん蓮(石戸谷)が狙っていたところだと思いますけど、トップを走るほどその動く石に悩まされる。僕はもともと追い上げのレース展開が好きなので、途中からZEROや森さんに先に行ってもらう作戦を取りました。

僕はゼッケン5番ですけど、森さんは180番だったので、これはもう実質的には森さんが優勝ですよね。ZEROもさすが、しばらく実戦から離れてたはずなのに、めちゃくちゃ上手くて、頭上を飛び越えられた時なんて「カッケー!」って叫んじゃいました。

僕の本番レースはあくまでG-NETなので、来週末の日野ハードエンデューロに向けて弾みをつけられたのが、よかったですね。先週のブラックバレー広島ではライバルのアヤトに負けてしまってましたので、いいイメージのまま最終戦に臨めます」

「もちろん1番を目指して走っていたんですが、スタートが180番だったので、ちょっと厳しかったですね。でもなんとかトップグループに追いついて、一時はトップを走っていたんですが、最後の最後でミスしてタイスケくんに抜かれてしまいました。コースはロックもヒルクライムもとてもスケールが大きくてとても楽しく走ることができました。応援してくださったみなさまや、この大会を開いてくれた主催や運営のみなさま、どうもありがとうございました」と森。

「応援してくださった方、ありがとうございます。今日はもちろん勝つつもりで来たんですけど、3位という不甲斐ない結果に終わってしまったので、また来年やらせてください。よろしくお願いします」とZERO。ゴーグルからわずかに覗く目がイケメン。

シコクベルグ、ゴール地点でトップ5。左から1位:水上泰佑、2位:森耕輔、5位:佐々木文豊、4位:山本礼人、3位:ZERO

最終的に、おそらく石戸谷の予想をはるかに超えたであろう74名がゴール。4時間というレース時間が長かったのか、コースの難易度設定が少し甘かったのか……。本場のエルズベルグ・ロデオでも、完走者の多い年と少ない年が交互にくるという。もしかすると来年のシコクベルグは急激に難易度を増して完走者一桁のレースになるかも!?

エンデューロ遠征は旅行感たっぷり
仲間と一緒に修学旅行気分で楽しもう!

今回、大勢のライダーが日本中から四国に集まった。もちろん一人で遠征するのは運転も大変だし、経費もかかるため、何人かで乗り合いで行くことになる。仕事やお金に余裕があれば、前後に休みをとって仲間と一緒に旅行気分を楽しんでしまうのも、エンデューロレースの醍醐味なのだ。

埼玉、群馬、栃木から集まって遠征した20〜30代のチームは、木曜日の夜中に出発して金曜日は京都観光、土曜日に四国観光、日曜日にレース、月曜日に帰宅という余裕のスケジュールをとっていた。

仲間内でのトップゴールはもりーくん。昨年のHIDAKA ROCKSも完走している、ハードエンデューロだけでなくクロスカントリーでも徐々に頭角を表しているライダーだ。

ゆうのりくんは各CPでスマホを取り出し、自撮りする余裕。そしてしっかり完走。あれれ? このあとあたりで会った時に、だいぶ苦戦していたので、余裕こいててギリギリで完走出来ないパターンかと思ったのに(笑)。

suzukiくんはなんとモトクロッサーYZ250Fで完走。もちろんキャブ。セルなんて甘えのキックオンリー。みんなちゃんとレース中に写真撮ってるけど、あえてのツイッター埋め込みで。

ただ一人たーにゃさんだけはスタートが特に後ろの方だったため渋滞に巻き込まれてしまい、CP5でタイムアップ。今回、クラス分けのない300台一斉レースだったために、このように実力はあるものの、渋滞待ちで進めず消化不良だったという声もチラホラと。しかし、それもまたエルズベルグ・ロデオを模したレースの宿命。事実、石戸谷もエルズベルグ・ロデオで渋滞待ちに巻き込まれ、タイムアップを喫しているのだから……。

日曜夜から月曜にかけては僕も同行させてもらい、絶品さぬきうどん山越さんを堪能。ウマかった!

番外編! こんなマシンもいたよ!

なんと、PWで参加したライダーも。おそらく多くの観客にヘルプされてだろうが、CP2までクリアし、ムーンサルトでタイムアップ。

逆方向ですごいのはBMWのHP2。重いのはもちろんですが、バイクのお値段が……。こちらもやはりCP2まで。だけど、最初のヒルクライムを上がるだけで、どれだけすごいことかわかりますね。

最後に、今回僕は飛行機で四国へ向かったため、現地で移動するためのバイクがなく、どうしてもトップライダーを追うためにはバイクがあった方が早くてシャッターチャンスも増えるし、前週のG-NET広島から足の調子が悪くどうしても足バイクが欲しかったため、徳島在住でこのレースの開拓にも参加されたライダーの笠原潤さんにXR BAJAをお借りしたので、ここで供養させていただきたい。

レース中「キレイなバハですねー!」と声をかけてくださった方、僕のじゃなくてすいません。ほんと、シコクベルグの会場によく似合う、とても素晴らしいバイクでした。BAJAに憧れるイチライダーとして、憧れの一台だったので、嬉しかったです! 本当にありがとうございました。

[CROSS MISSION!!!]