牙を出し始めた“百獣の王”西武。外崎と山川、若手の覚せい生んだ指揮官の想い

牙を出し始めた“百獣の王”西武。外崎と山川、若手の覚せい生んだ指揮官の想い

辻監督、“我慢”の若手起用

 まだか、まだか、まだなのか。
 
 今シーズンの序盤戦、試合終盤の埼玉西武ライオンズのビハインドの展開。何度もベンチを見やったが、辻監督は動かない。好機を迎えても、指揮官は調子の上がらない若手選手の代打策を講じなかった。
 
 視線の先にいたのは、外崎修汰であり、山川穂高だった。その2人が今、覚せいし始めている。
 
 4月中盤に外野手に転向してレギュラーをつかんだ外崎は、5月まで打率1割台だったが、7月は月間.286をマーク。8月も.270をキープして下位打線の中枢を担っている。
 
 一方の山川は、5月1日に2軍に降格したものの、7月8日に復帰を果たすと不調のメヒアにとって代わってスタメンを奪取。8月1日の楽天戦では則本昂大からの2本塁打を含む3打席連続本塁打を記録した。
 
 指揮官の粘り強い采配に、追いついてきたのだ。シーズン当初から辻監督の采配には「我慢」がテーマに合ったように思う。
 
 開幕スタメンには、ルーキーの源田壮亮をはじめ、木村文紀、田代将太郎が名を連ね、外崎、山川はベンチにて準備態勢を整えていた。その中でひとまずレギュラーを獲得したのが源田だ。田代がベンチに下がると、外崎、山川がそれぞれ出場機会を得ていった。
 
 結果が良かったわけではかったが、打率が落ち込んでも辻監督はチャンスを与え続けた。
 
 昨年までのほぼ3年間、レギュラー陣の顔ぶれはほとんど変わらなかった。1番・秋山翔吾、クリーンアップを打つ浅村栄斗、中村剛也、エルネスト・メヒア。チームで最も順応力のある栗山巧を様々な用途で起用し、唯一足が使える選手として金子侑司、捕手には炭谷銀仁朗が君臨した。
 
 順位が確定すると、捕手の森友哉や岡田雅利、そして外崎と山川もチャンスを得たが、レギュラー獲得までは至らなかった。
 
 辻監督の采配には、若手控えメンバーの中から一本立ちさせたいとの思惑が感じられた。木村・外崎は打率が1割台まで落ち込んだが、それでも使い続けた。
 
 実際、源田に続いてレギュラーを奪ったのは外崎だけだったが、木村はまだ2軍降格の憂き目には合っていないし、4月29日に昇格した若い水口大地も代打・守備走塁要因として1軍の戦力に数えられるようになった。

待望の“おかわり2世”の成長

 シーズン序盤の頃、「我慢の起用」について指揮官に尋ねてみると、意外にもあっさりとした答えが返ってきた。
 
 「いないんだもん。彼らを使っていく。その中でもいいところを見せるようにはなってきているからね。そこを信じていくしかない」
 
 指揮官自身が求めることはたくさんあるが、ひとまずは選手の個性を大切にしようとしていた。
 
 「走者がいたら逆方向にチームバッティングというのは求めたいところだけど、それは選手個々が感じてやるのが一番いい。それをああしろ、こうしろとこっちが言いすぎてしまったら、あいつらだって自分の力を発揮できなくなってしまう。まずは自分たちの力を発揮することを考えてほしい」
 
 若手メンバーの中でも“おかわり2世”といわれながら、長く苦しんできた山川の成長はチームにとって待望の存在だ。
 
 4月28日のロッテ戦での辻采配にはうならされた。前日の試合、1死一二塁の好機で併殺打に倒れた山川を、この日の試合終盤の好機で代打起用したのである。
 
 結果は三振。しかし、指揮官の狙いは別のところにあった。
 
 「1死一二塁でどんなバッティングをするべきかというと、三振するか、頭を超すか。その話は前の日に山川としていて、同じシチュエーションが来たぞって言って代打に送りました。結果は三振でしたけど、それでいいんですよ。経験だから」。
 
 この数日後、山川は2軍に降格した。しかし、この経験があったから、山川は悔しさと課題をもって再起を期したのだ。
 
 「山川はあれだけ開いて打っていちゃ、なかなか1軍の投手は打てない。ホームランを打ちたい気持ちは分からないでもないが、2軍でコンパクトなスイングというのを覚えてきてほしい」
 
 そんな辻監督の想いは、3カ月後の山川の覚せいへとつながった。

「結果残さないと明日はない」、チーム好調であるが故の危機感

 山川は自分の立ち位置をどう受け止めてきたのか。
 
 「とにかく結果を出すだけ。レギュラーは自分でつかむしかないということです。5月に2軍に落ちたときは打てなかった。僕は守れる選手じゃないので、打てないと落ちるのは当然ですよね。代打から結果を残して、スタメンで出る日が増えてきましたけど、この打席がすべてという想いで打席に入っています」と危機感をにじませる。
 
 昨季、山川はちょっとしたブレークを果たした。自身初となるシーズン2桁本塁打をマークして期待を抱かせた。本人も「下位打線に2桁打てる打者がひとりいるのは大きいと思う」と満足さえしていた。
 
 昨年10本塁打を放ったころの話を尋ねると、山川は口を真一文字に引き締めた。
  
 「去年はチーム自体が下位にいたのもあって、僕が結果を出せない試合があっても、次の日はスタメンで出られました。今は気持ちが全然違う。明日がないですから。その中で、則本さんから2本塁打を打てたり、競った中でタイムリーを打てたのは自信になります」
 
 7月21日から8月4日までで、西武は破竹の13連勝を飾った。
 
 先発はエース菊池雄星の存在感、ウルフの安定感、十亀剣の復調があり、ブルペン陣は武隈祥太、牧田和久、増田達至の存在がある。
 
 打線では秋山・源田の出塁、浅村・中村の勝負強さが目立つが、それだけでは13もの連勝を果たせるものではない。もうひと踏ん張りの戦力の底上げという部分において、外崎や山川の覚せいがチームに与えた影響は大きく、指揮官の信頼も高まっている。
 
 「外崎はいつも元気にグラウンドを走り回っている。見ていても気持ちいいじゃないですか。本当に野球小僧ですよ、あいつは。それだけじゃなくてね、しっかり結果を残せるようになってきた。山川もバッティングフォームが開いて大振りをしているように見えて、追い込まれたらコンパクトに振っていますから成長してきていると思いますよ」
 
 指揮官自身が結果を欲しがれば欲しがるほど、目先を見せてしまうというのが1軍の采配というものだ。
 
 しかし、今季に就任したばかりの辻監督は、先を見ていたかのように我慢して、我慢して、選手たちの成長を待った。そして、戦力の厚みが生まれた。13連勝はその成長過程で起きたものだ。
 
 低迷からの脱却を目論む百獣の王がようやく牙を出し始めた。

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