コンディション調整の難しさ

 新型コロナウイルス禍のプロ野球開幕延期は、ファイターズの本拠地・北海道の感染拡大を思えば納得するしかない。ようやく北海道知事が独自に出していた「非常事態宣言」が解除されたばかりだ。選手・関係者、そしてファンの安全を優先すべきなのは言うまでもない。しばらく「練習試合」の日程が続くけれど、CS放送やネット配信を見てガマンだ。これ、中継してもらえるのは本当にありがたいと思う。
 
 オープン戦を見終えた段階で絶好調の選手、もうひとつ調子の上がらない選手の色分けができ、しかも開幕延期が決定していたからそこに悲喜こもごもの人間ドラマが垣間見えた。絶好調の筆頭は中田翔ではないか。今季はものすごく軽く、柔らかく振る。が、飛距離がグンと伸びる。メディア上も(本人のコメントから)「レベチ」と呼称するのが定着している。中田はすぐにでも開幕してほしいだろう。
 
 他に好調な仕上がりを見せているのは渡邉諒。反対に調子が上がらない選手は大田泰示、近藤健介、ビヤヌエバという感じか。といって本当に3月20日、予定通り開幕したとして近藤健介が打てなかったかどうかは誰にもわからない。気持ちのスイッチが入るといきなり打つ選手もいるのだ。まぁ、開幕延長は本当にコンディション調整が難しいだろう。好調な選手はいったんトップフォームから落とすかもしれない。不調の選手が仕上がる時間がもらえたことになるが、どこを目標にするか目安がほしいところだ。
 
 あと、ファイターズは投手だな。(故障明けの)マルティネスの調整が案外手間取っている。マルティネスはローテで回ってもらわなきゃ困る存在なので、時間がもらえるのは助かる。そして、究極はもちろん上沢直之だ。開幕には間に合わないと誰もが思っていた。うまく行って交流戦くらいに戦列復帰というイメージ。それが開幕延期でもしかしたら「不在期間」を短縮できるかもしれない。
 
 という具合で(政治・経済のような大状況だけでなく)、ファイターズの現場的にもとても大きな意味を持つ新型コロナ禍であり、開幕延長なのだが、それがひとつのポジションに集約されてるなぁと思うのが、ショートストップ、遊撃手だ。

打撃でも猛アピールした石井

 オープン戦の期間、ファイターズのショートは石井一成、谷内亮太、平沼翔太の3人でまかなわれた。左ひざの故障で中島卓也が出遅れたのが一因だ。無観客試合は(ホームランボールだけでなく)ファウルボールもファンに抽選でプレゼントされる決まりだったため、中島卓也が出ていたらさぞやファンサービスになったろうと思うが、そうはならなかった。ファンは「ポジション争い」というまったく別の注目ポイントを与えられた。
 
 守備の安定感に関して中島、石井、谷内は一級品といっていい。高校時代、投手だった平沼(一格落ちるという評価)でさえ、プロでスタメンを張れるレベルだ。大の中島卓也ファンを自認する僕としては「守備は中島!」と言いたいところだが、そこに大きな差はないと思う。問題はバッティングだ。
 
 石井一成が素晴らしいのだ。去年、6番打者を務めた時期も目を見張ったが、今年のオープン戦は更に魅力を増している。小笠原道大コーチの指導のおかげだろうか、バットをしっかり振れるようになった。安定した守備に加え、長打力で猛アピールだ。僕は石井一成が3月20日、開幕スタメンに名を連ねるだろうと思った。その価値があると思った。
 
 但し、谷内もオープン戦、打撃好調だった。まぁ、彼は右打ちの内野手という特徴があるから、相手がサウスポーを立ててきたときなど、使いでがある。打撃好調といっても石井のような長打力はないから、勝負強さや小技でアピールするしかない。バッティングのスケール感でいえば平沼翔太だが、どうだろうなぁ、平沼はビヤヌエバ、横尾俊建とサードを争ったほうが(左打ちという)強みを生かせる気がする。
 
 というわけで急成長・石井一成なのだ。ついに今シーズン、ショートの定位置を奪うのか。僕は先ほども書いたように中島ファンだけど、フェアな競争なら大歓迎、ひいきの引き倒しはしない。それはかつての名ショート、金子誠が(きびしい生存競争に勝ち抜くことで)示し続けたものだ。プロの誇りだ。石井一成のキャリアのビッグチャレンジをしっかり見届けたい。
 
 が、ここに開幕延期というファクターがかぶってくる。1、中島卓也は時間がもらえる。2、石井の打撃好調が維持できるか。早い話、新型コロナ禍でプロ野球の時計が止まってる間に中島卓也が復調するかもしれないのだ。そして、今、絶好調の石井のバッティングは次第に落ちてくるかもしれない。もちろん、そうではないかもしれないが、石井にとってはアンラッキーだ。3月20日のスタメンは「開幕戦」ではなく「練習試合」だった。
 
 誰かのケガをきっかけに別の誰かがチャンスを掴む。それはプロ野球の歴史で繰り返されてきたことだ。石井一成の物語はどうなるだろう。開幕延期をめぐる人間ドラマはあちこちで巻き起こっているけれど、それはファイターズのショートにも言える。しかし、本当に4月10日開幕できるのだろうか。