本企画はNPB過去年度の打撃ベスト10を眺め、往事の野球を今の視点から振り返り楽しんでもらおうというものだ。ただベスト10は従来の打率ではなく、セイバーメトリクスにおける総合打撃指標wRAA(※1)を採用する。これはリーグ平均レベルの打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標だ。この視点で振り返ることで、実は過小評価されていた打者がわかるということもあるかもしれない。
 

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1960年のパ・リーグ

チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点差
大毎  133 .631 547 433  114
南海  136 .600 519 459  60
西鉄  136 .538 537 467  70
阪急  136 .500 447 473  -26
東映  132 .400 436 492  -56
近鉄  131 .331 408 570  -162
 

 
 「大毎ミサイル打線」が全盛を極め、リーグトップの547得点を記録。10年ぶりの優勝を果たした。ちなみにその間の9年間はすべて南海か西鉄の優勝であった。
 
 この年、大毎打線の能力は圧倒的であった。wRAAで見ても、1位榎本喜八、2位山内和弘、3位田宮謙次郎と大毎の選手で上位を独占しているが、これは史上初の出来事である。ちなみに積算指標のwRAAでは52.3で榎本が1位になっているが、1打席あたりの打撃貢献を示すwOBA(※3)では山内が1位と分かれている。wRAAではない別の総合打撃指標で計算を行った場合も1位は山内になるため、打席数が多いとはいえ榎本が1位となるのは少々意外であった。
 
 ベスト3の3人はいずれも出塁能力が高く、出塁率の1位〜3位もこの3人となっている。ともあれリーグ戦は、飛びぬけた選手を複数抱える大毎を、全体的に粒よりの好選手を配した南海が追うという構図になった。南海はこれまでスター選手を揃えた西鉄とリーグを争ってきたが、ここにきて西鉄と大毎が入れ替わったかたちだ。
 
 4位以下には豊田泰光(西鉄)、野村克也(南海)と常連の名前が入る。そしてこの年、この後15年の長きにわたってリーグ打撃ランキングの中心的存在となる張本勲(東映)がランクインしている。
 
 またランキングとは別の話になるが、この時期のNPBは盗塁の傾向に変化が生まれている。パ・リーグは1950年には1試合平均で1.25個の盗塁が記録されたが、この年には0.66個と半減している。1957年までは、河野旭輝(阪急)が85盗塁を記録するなど、盗塁王が50盗塁以上を記録するのが普通だったが、1958年から3年間は盗塁王ですらすべて30盗塁台。この年もロベルト・バルボンの32盗塁が最多と減少傾向を見せている。
 
 なぜこのような事態となったかというと、まずリーグ全体の打力が向上したというのが一つの理由としてある。盗塁という戦術は進塁が容易になるほど高い成功率がなくては割に合わなくなる。打てる見通しが上がるほど気楽にリスクは負ってはならないのだ。また、バッテリー側の盗塁阻止技術も年々上がったことも関係している。この時期、すでにこの技術を武器にした投手まで存在するほどだ。盗塁のリスクとリターンを考えれば、1950年代前半におけるNPBの企図はあまりにも多すぎた。球団もリスクとリターンを徐々に把握してきたのか、盗塁数及び企図数は漸減の傾向となった。
 
 ベスト10以外で取り上げたのは、354打席で規定打席未満に終わった花井悠(西鉄)。wRAAは13.9。西鉄のベテラン勢が去った後に外野を守り、1年限りの好成績であった。

1960年のセ・リーグ

チーム 試合 勝率 得点 失点 得失点差
大洋  130 .554 411 361  50
読売  130 .519 444 459  -15
大阪  130 .508 436 403  33
広島  130 .504 426 403  23
中日  130 .485 436 454  -18
国鉄  130 .431 388 461  -73
 

 
 このシーズンも長嶋茂雄(読売)が能力差を見せつけてリーグを支配した。総合評価の指標はすべて1位。wRAA46.7は2位の並木輝男(中日)に10点以上の差をつけている。
 
 ただ強打者・長嶋を擁しているにもかかわらず読売は2位。この年は、用具を人為的に変えることによって、そこで行われる野球まで自分に都合のよい形に変えようとする前代未聞の策がリーグの趨勢まで決めてしまった。前年最下位と戦力が劣る状態の大洋を引き継いだ三原脩監督が、まるで飛ばないボールを本拠地で使ったのである。
 
 そして問題はそのことを知っていたのは大洋だけだったということだ。「大洋の本拠地・川崎球場でのみ異常な環境下での野球が行われる。そしてそのことを知っているのは大洋だけ」という条件で行われたリーグ戦。他球場でプレーする場合に比べて何倍本塁打が出やすいかを示す本塁打パークファクターで見ると、この年の川崎球場は2年前の1.9から0.6に一気に落ち込んだ。例年ならほかの球場に比べ2倍近く本塁打が出やすい球場が、ほかの球場の半分程度しか本塁打が出なくなったのだ。
 
 また得点で見ても大きな差が出ている。川崎以外の球場では大洋相手に1試合当たり3.4得点とそこそこに打ち込んでいた相手打線は、川崎では2.1得点にとどまった。球場の形状から考えると、狭い川崎では打撃戦が頻発してやっと普通の状態であるにもかかわらず、である。この「自分たちだけが異常な環境下でプレーが行われていることを知っているアドバンテージ」を生かし、大洋は本拠地以外では27勝35敗にもかかわらず、川崎では43勝21敗を記録。優勝を果たした。以後、使用球が統一されるまで、この本拠地で使用球を変える手法は数多くの球団で散発的に使用されることになる。野球をゲームの一種として捉えることに長けていた三原監督ゆえの戦略がリーグを支配した1年であった。
 
 またこの年は何といっても王貞治(読売)がwRAA28.6で4位に入ったことが注目される。高卒2年目にしてリーグ上位。今でいう村上宗隆(ヤクルト)のような存在といえるだろうか。王に関して伝わるところでは、フラミンゴ打法に出会うまでのプロ3年間を雌伏の時期と表現されることが多い。確かにこの年も17本塁打とまだ傑出した本塁打数を見せるような存在ではない。しかし、実際はフラミンゴ打法と出会う2年前のこの時点で、すでにどのチームでも中軸を担えるだけの危険な打者となっていたのである。
 
 ベスト10圏外の注目選手は藤本勝巳(大阪)である。22本塁打、76打点で本塁打、打点王の二冠王である。ところが打率が.256と低かったことや、欠場試合がやや多かったことが重なり、wRAAは20.5どまり。ベスト10圏外となった。本企画の評価方法で本塁打王がベスト10から外れるのは史上初の出来事である。
 
(※1)wRAA:リーグ平均レベル(0)の打者が同じ打席をこなした場合に比べ、その打者がどれだけチームの得点を増やしたかを推定する指標。優れた成績で多くの打席をこなすことで値は大きくなる。
(※2)勝利換算:得点の単位で表されているwRAAをセイバーメトリクスの手法で勝利の単位に換算したもの。1勝に必要な得点数は、10×√(両チームのイニングあたりの得点)で求められる。
(※3)wOBA(weighted On-Base Average):1打席あたりの打撃貢献を総合的に評価する指標。
(※4)平均比:リーグ平均に比べwOBAがどれだけ優れているか、比で表したもの。
 
DELTA・道作
 
DELTA(@Deltagraphs)http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1〜3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。
 
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