◆ フォーカス・レコードホルダー 〜盗塁(シーズン)〜

 「新型コロナウイルス」の問題で未だ開幕の見通しが立っていないプロ野球。前に進むことができない今こそ、過去の偉大な記録にフォーカスを当てて振り返ってみよう……ということで始まったこの企画。

 その名の通り、過去の記録にスポットを当て、“歴代No.1”の記録を持っている選手を中心に振り返ろう、というのがテーマ。今回取り上げるのは「シーズン盗塁」。早速だが、NPBの歴代トップ10を見てみよう。


▼ 歴代最高記録・盗塁(シーズン)
1位 106個 福本 豊 [阪急/1972]
2位 95個 福本 豊 [阪急/1973]
3位 94個 福本 豊 [阪急/1974]
4位 85個 河野旭輝 [阪急/1956]
5位 78個 木塚忠助 [南海/1950]
6位 76個 松本匡史 [巨人/1983]
7位 75個 福本 豊 [阪急/1970]
8位 74個 金山次郎 [松竹/1950]
9位 73個 高橋慶彦 [広島/1985]
10位 72個 広瀬叔功 [南海/1964]


◆ トップ3独占!

 通算記録につづいて、盗塁のシーズン記録でも頂点に立っているのが福本豊。頂点どころか、トップ3までを一人で独占。まさに独壇場である。


 通算記録の方でも少し触れているが、社会人・松下電器からドラフト7位でのプロ入り。周囲からの評価は決して高くなく、本人もプロの世界に入って周囲の選手たちを見た時に「3年やってみてダメだったら諦めよう」と思ったのだと後に振り返っている。

 それでも、プロ2年目にレギュラーに定着して見せると、いきなり75盗塁をマークして盗塁王のタイトルを獲得。当時の時点で歴代3位のシーズン盗塁数を記録してブレイクを果たすと、その年から13年連続で盗塁王に輝き、球史にその名を残す。

 なかでも衝撃を与えたのが、背番号が「7」に変わったプロ4年目の1972年。初の打率3割到達や四球の増加で塁に出る回数が増えたこともあり、盗塁の数も飛躍的に向上。その分、キャリアワーストの25盗塁刺という記録も残っているが、史上唯一のシーズン3ケタ盗塁を達成。当時のMLB記録だったモーリー・ウィルスの104盗塁も抜き去り、当時の世界記録となる「106盗塁」という大記録を打ち立てた。


 社会人出身のドラフト7位選手からこれだけの偉業を成し遂げる選手が現れるとは、誰もが思ってもいなかったことだろう。本人もアマチュア時代はプロの世界とは縁がないと思っていて、ドラフト時も翌日に会社の先輩から言われるまでは自分が指名を受けたことに気づいていなかったというほどだ。

 また、そんな福本よりももっと野球界に関心がなかったのが福本の奥様。福本から「阪急に行くことになった」とだけ伝えられた夫人は、何の疑いもなく「阪急電鉄の駅員になった」のだと勘違い。

 真実を知るのは、なんとプロ入りから数年後のこと。どこの駅で働いているのかふと疑問に思った夫人が阪急電鉄の各駅で挨拶回りをしつつ夫について聞いて回ったところ、「ひょっとして、阪急“ブレーブス”の福本ですか…?」と新聞を見せられ、そこで夫がプロ野球選手になっていたことを初めて知ったのだという。

 今では信じられないエピソードだが、当時のプロ野球界でパ・リーグの話題がテレビや一般紙で紹介されることはほとんどなく、阪急の若手選手の情報を野球に興味がない夫人が目にする可能性はたしかに低かったのだとか。


 プレー面での数々の伝説もさることながら、その人柄から数多くの“珍”エピソードも残している世界の盗塁王。

 ほかにも、解説者時代の名言などはまさにネタの宝庫となっているため、家で過ごす時間も徐々にやることがなくなってきたという野球ファンの方は、ぜひとも「福本豊伝説」について検索してみることをおすすめします。


▼ 福本豊(1972)
122試合 打率.301(472−142) 本塁打14 打点40
得点99 二塁打25 三塁打6 塁打数221
盗塁106 盗塁刺25 犠打3 犠飛2 四球62 死球3
三振69 併殺打2 長打率.468 出塁率.385