門田博光「通算567本塁打の“恋路”」/プロ野球20世紀の男たち

門田博光「通算567本塁打の“恋路”」/プロ野球20世紀の男たち

プロ野球が産声を上げ、当初は“職業野球”と蔑まれながらも、やがて人気スポーツとして不動の地位を獲得した20世紀。躍動した男たちの姿を通して、その軌跡を振り返る。

「惚れて、惚れて、惚れ抜いて……」



南海・門田博光

 やはりホームランは魅力的だ。野球はチームプレーであり、小さなプレーの積み重ねだとはいっても、天空に弧を描き、スタンドへと吸い込まれていく様は、美しく、爽快であり、もし強力な相手チームを一撃で粉砕するような逆転弾であれば、痛快でもある。プロ野球で最も多くのホームランを打ったのは巨人の王貞治で間違いないが、最もホームランに“恋をした”のは、南海の門田博光ではないか。

「惚れて、惚れて、惚れ抜いてトライしたら、打てるようになるんです」

 ホームランは狙って打てるようになるのか、という問いに、こう答えている。逃げられれば逃げられるほど、恋は燃え上がるのだとか。恋愛におけるさまざまなハードルは、慕情という火に油を注ぐだけのものらしい。

 ドラフト2位で70年に南海へ入団、身長170センチとプロ野球選手としては小柄だったこともあって、当初は二番打者の候補だったが、バントができずに失格、三番に回る。翌71年には31本塁打を放ち、120打点で打点王に輝いたが、“恋路”を妨げるハードルは次々に襲いかかってくる。

 不動の四番打者で、大先輩の野村克也は「三番は塁に出ればええんや。長打はいらん」と嫌な顔をした。実際、その71年も打率3割をクリアするなど、巧みなバットコントロールの持ち主。ホームランを狙って失敗するより、ヒットで出塁して野村の適時打や本塁打で点を稼いだほうが確実、という考え方も、あながち間違ってはいないだろう。

 だが、このころからホームランにあこがれを抱いていた男。ホームランを狙って強振する姿に、野村が王や東映の大杉勝男ら球界の長距離砲に頼んで「ホームランはヒットの延長」と説得したこともあった。チームのためにアベレージヒッターに徹しながらも、ますます恋が燃え上がっていたことは想像に難くない。

 そして79年、アキレス腱を断裂。まだ当時のプロ野球では復活できた例は少なく、再起不能とさえ言われた。自身も落ち込み、ホームランどころか野球さえも、あきらめなければならないのか、とさえ思ったという。だが、

「病院の先生が『ゆっくり走れるようにホームランを打ったらいいじゃないか。1打席に1球、真ん中のボールがあったらホームラン打てるんでしょ』と。『いい形とミートさえ持っていければ』と言うと、『そういう形とミートを作り上げたらいいじゃないか』。野球以外の人生哲学から野球哲学を教えられました」

 兼任監督にもなっていた野村も退団していた。どん底の中、“高嶺の花”だったホームランに「トライする」環境は、完璧に整った。むしろ、その“高嶺の花”こそ、プロ野球で生き残っていくための唯一の光明だったのかもしれない。

不惑のキャリアハイ


 ホームランの目標として、背番号を27から44に変更した80年。いきなり41本塁打で大台を突破すると、翌81年には背番号と同じ44本塁打で初の本塁打王に。7月にはプロ野球記録を更新する月間16本塁打も放った。83年には背番号を60に変更、さらに目標を高く掲げ、40本塁打で2度目の本塁打王となったが、その数字では納得できなくなっていた。

「トラックの上でミサイルを打つ発射台」

 をイメージして、頭の位置を変えずにバットを大きく引き、体をギリギリまでねじって、一本足で力を溜め込んだ軸足に重心を置きながら大きくステップ。これでスイングに角度をつけた。わざと体重を増やし、下半身を徹底的に強化。さらに毎日、納得がいくまでバットを振り続けた。一方で、パ・リーグ各チームのエースとは、

「微妙な駆け引き。それがプロフェッショナル」

 と、真剣勝負を楽しんだ。

 そして、40歳となって迎えた88年。初めて全試合に出場して44本塁打、125打点で打撃2冠。打率も3割を超え、“不惑の大砲”は流行語に。5位に沈み、そしてラストイヤーになった南海にあって、MVPにも輝いた。

 翌89年に在阪のオリックスへ移籍し、91年に移籍した“古巣”のダイエーで引退。最後の打席では、近鉄の野茂英雄が投じた渾身のストレートに、フルスイングの3球三振で応えた。

写真=BBM


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