“投手・増田大”以外に“前科”



巨人・原辰徳監督

 セ・リーグ首位を走る巨人の原辰徳監督がユニークなタクトさばきを見せている。7月14日の広島戦(マツダ広島)では長嶋茂雄の監督通算1034勝を塗り替え、球団歴代で単独2位に浮上。今後も着々と勝利数を重ねそうだが、その采配ぶりは、過去の名将とはひと味違う“異端の指揮官”としての存在が際立っている。

「巨人のピッチャーは増田大輝」――。甲子園球場のアナウンスに、スタンドからは大きなどよめきが起こった。8月6日の阪神戦。巨人は8回一死、堀川隼人が代打の中谷将大に満塁弾を浴び、0対11と大量にリードを広げられた。6番手として登場したのは、まさかの増田大。徳島・小松島高時代に投手を務めたことはあるが、代走の切り札の内野手として、プロ5年目のここまでマウンドに立ったことは一度もなかった。

 増田大はまずは、近本光司を136キロの直球で二ゴロ。江越大賀には四球を許したが、続く大山悠輔をこの日最速の138キロの直球で右飛に打ち取りチェンジ。小さく右手を握り締めると、歓喜に沸くベンチに迎えられた。

 野手を投手として起用――。試合後の原監督は「チームの最善策」と涼しげに振り返った。メジャー・リーグでの現役時代にイチローや青木宣親も登板した経験があるなど、ワンサイドゲームの終盤に海の向こうではまれに見られる起用法ではある。しかし、日本では前代未聞。OBをはじめ球界関係者から賛否両論が巻き起こった。「投手陣の疲労を考えてのこと。次につながる采配」と支持する声もあれば、「これはやっちゃいけない。巨人はそんなチームじゃない」と批判的な意見も続出。物議を醸すことになった。

 原監督にはこれだけではなく、さまざまな“前科”がある。投手の桑田真澄を代打に出してバスターをさせたり、左翼手を呼び寄せて三遊間付近に配置する「内野5人シフト」を敷いたりした過去もある。裏目に出たケースもあったが、「固定観念にはこだわらない」と気にする様子はまったくない。昨年は坂本勇人を二番で起用するなど、自由で大胆な発想は他球団との監督とは一線を画す。

 増田大の投手起用は、数年前から構想を温め、ずっと実行の機会を狙っていた節がうかがえる。ヤンキース傘下のマイナーチームへコーチ留学し、韓国・斗山での指導者経験もある後藤孝志(現巨人一軍野手総合コーチ)ら腹心の進言もあり、その可能性を早くから検討。増田大は、普段から「そういうこともあると、頭に入れておいてほしい」と指示を受けていた。つまり確信犯であり、決して行き当たりばったりの迷采配ではなかったわけだ。

「原辰徳の野球をお見せする」


 原監督の野球人としての原点には、指導者と選手という師弟関係もある父・貢(故人)の存在がある。監督として悩み、行き詰まったときには、いつも「父ならどうするか」という自問自答をした。その父から受けた一番の金言は、「夢や志から逃げるな。結果はどうであれ、ステップアップにつながる」だ。自分で決めたら、周囲が何を言おうが、テコでも動かない頑固さがある。「ファンあってのプロ野球」を繰り返す球界の旗振り役は、なりふり構わず勝つという使命感とともに、エンターテインメントの重要さも意識している様子だ。

「ジャイアンツ愛」と甘美なフレーズを就任当初に掲げるなど、長い間柔和なイメージが先行した原監督は、3期にわたる延べ14年目と経験を重ね、自信と風格がにじむようになった。歴史と伝統を誇る巨人の指揮者は、他球団とは比べものにならないプレッシャーにさらされる。ONをはじめ、偉大な先人の顔に泥を塗るわけにはいかない。そんな呪縛から解放されたのか、ここ近年は「原辰徳の野球をお見せする」と言わんばかりの余裕すら感じさせるようになった。

 何が飛び出すのか分からない野球は、ファンにとってワクワクすることこの上ない。原監督はこれまでの規格では測れない策略に富んだ名将なのか、それとも単に巨大球団のサポートをうまく活用するだけで白星を積み上げてきたのか。そんな思いをめぐらせながら試合を観るのも一興だ。異端の指揮官の動向に今後も注目したい。

写真=BBM