◆日本のNBA注目度はジョーダン引退以来

 再開に向けてギアを上げる、ワシントン・ウィザーズの八村塁。ブラッドリー・ビールやダービス・ベルターンスら主力の欠場が発表されている一方で、彼らの不在は八村のモチベーションをさらに高めている。同選手は休暇中、4.5キロの増量に成功。ヘッドコーチのスコット・ブルックスからも「身体を強くした」とウエイトアップを高く評価され、期待値は引き続き右肩上がりだ。

 その八村が日本のバスケ界に与える影響は計り知れない。世界的な経済誌『Forbes』では、自由の国の首都で奮闘する日本の若武者に焦点をあて、彼が日本におけるNBAの発展において、どれだけ重要な存在であるかを分析している。

 NBAドラフト2019の全体9位指名は、日本でも「快挙」として多くのメディアで報じられた。ゴンザガ大学時代にジュリアス・アービング賞を受賞したことを報じたのは一部の専門誌だけだったにもかかわらず、今では民放のニュースでもバスケットボールのコーナーが設けられ、八村やNBAの知名度は上昇の一途を辿る。『Forbes』はこの出来事について「日本におけるNBAの注目度は、マイケル・ジョーダンの引退以来」と説明している。

 八村は、日本におけるNBAのジャージ売上も全体の1/4を占める。また、持ち前のキャラクターでメディアにも多角的に露出しているほか、G-SHOCK、日清、ソフトバンク、三井住友銀行など、国内大手企業からもスポンサードを受け、NBAやプロバスケットボールの普及に貢献。数年前、一体何人がジョーダン ブランドと契約した日本人NBA選手が、巨大な街頭広告を飾ると予想しただろうか。広告塔としてバスケットボール選手がフロントに立つことには、競技の発展において、とても大きな意義がある。

◆八村の知名度と反比例するバスケの人気


 しかし、同記事を執筆したジョエル・ラッシュ曰く、八村の名前が広まる一方で、彼のプレーを観たことがある人は、TVやYouTubeのハイライトがほとんど。1試合を通じて観戦する人は、未だ少数に止まっているという。

 余談になるが、世論調査や市場調査を専門とする日本企業「中央調査社」の調べによると、全国の20歳以上の男女個人を対象に行った「人気スポーツ調査」におけるバスケットボールの人気は、全体で第7位だった。好きなスポーツを全て選択できる形式でも、その選択率はわずか6.5%で、野球の42.8%、サッカーの22.8%と比較すると、大きな開きがある。

 また、スポーツ庁が実施した「スポーツの実施状況等に関する世論調査」でも、Bリーグを含むバスケットボールを現地観戦した人の割合は、回答者全体の1.5%と低調。全国高等学校体育連盟が発表した2019年度の加盟・登録状況では、男女ともにバスケットボールが全体第2位の競技人口を持つにもかかわらず、プロスポーツとしての発展には、まだまだ伸び代があるというのが現状だ。

◆発展に不可欠な楽天とNBAのリレーションシップ

 それでも、日本では八村を基点に、NBAを取り巻くムーブメントが次第に大きくなっている。

 NBAは現在、楽天とパートナーシップを締結し、ポテンシャルを秘めた日本でのシェア拡大に尽力している。昨年は、さいたまスーパーアリーナで16年ぶりとなる「NBA Japan Games」を開催。両者は2017年に5年契約を締結しており、今度は八村が所属するウィザーズや、楽天がスポンサードするゴールデンステイト・ウォリアーズの来日を画策しているかもしれない。

 また、著名人や人気芸人が出演するNBA専門番組、ウィザーズ戦の観戦企画など、楽天では八村関係のコンテンツも強化し、世界最大級のエンターテイメントとして、NBAの普及に取り組んでいる。

 それでも、NBAの一番の醍醐味はゲームそのものであり、リーグの再開は、日本におけるNBAの知名度・人気向上で最も重要なファクターだろう。

 ウィザーズはシーズン再開後、プレーオフを目指して8試合を戦う。プレーオフ圏内とは5.5ゲーム差があるため、困難なチャレンジではあるが、黒星を最小限に抑えることができれば、同じく主力を欠く急造のブルックリン・ネッツを逆転する余地を残している。また、シーズン再開前には、3試合の練習試合を予定。ここでは、デンバー・ナゲッツ、ロサンゼルス・クリッパーズ、ロサンゼルス・レイカーズとウェスタン・カンファレンスの上位3チームと対戦が組まれており、こちらもレギュラーシーズンに以上に見逃せないゲームが続く。

 こうしてゲームが開催されることは、トピックとしてメディアやSNSでシェアされ、バスケットボールという競技の面白さを自然と広めていく。

◆日本バスケ界を刺激する八村のエネルギー

 そして来年、延期になった東京オリンピックが開催されることになれば、八村や渡邊雄太が帰国すると同時に、NBAのトッププレーヤーたちも来日し、派手なプレーで日本のファンたちを魅了してくれるに違いない。

 NBAコミッショナーのアダム・シルバーは「日本のバスケットボールの未来は明るいと信じています」と述べたが、これはお世辞ではない。事実、Bリーグも開幕から4年間、年々入場者数、収益ともに増加傾向にある。また、ローカルアリーナやナショナルアリーナの建設計画を掲げ、バスケならではの“魅せる”ブランディングの強化を推進している。

 無論、選手たちにとっても、八村から受ける刺激は大きい。サッカーで中田英寿の背中を、野球で野茂英雄の背中を追ったように、八村のあとを追いかける選手が増えれば触れるほど、日本バスケ界の伸び代はどんどん消化されていくはずだ。渡邊雄太は十分通用することをすでに証明しているし、馬場雄大も再挑戦を諦めてはいない。また、テーブス海、富永啓生、田中力など、ポテンシャルを秘めた若手も多い。

 八村は文字通り、先陣を切った。待ちわびたこの灯火が消えぬよう、薪を焚べ続けることが、日本バスケ界の今後の大きなミッションになる。

文=Meiji