日本経済新聞文化面の名物コーナー「私の履歴書」の2020年1月枠に登場した鈴木茂晴・日本証券業協会会長の「武勇伝」が話題になっている。

鈴木氏は大和証券の社長、会長を歴任して、証券人生は2020年で50年になる。「私の履歴書」では、鈴木氏の人生を振り返っているのだが、トンデモなエピソードが続々と出てくる。

●バイクの不法投棄も「万事おおらかな時代だった」

例えば、1月12日の第11回では、金融債を2000万円保有する顧客に電話をかけ「これからは株式投資ですよ」と持ちかけ、「絶対です」「大丈夫です」といったセールストークを連発して、2000万円をすべて投資にまわしてもらった。

しかし、その顧客は実はヤクザだった。その後、株価が急落してしまい、「鈴木を出せ」「絶対大丈夫と言ってただろう」「どうしてくれるんだ」と怒鳴られたが、命の危機をなんとか乗り切ったそうだ。

他にも、1月13日の第12回では、鎌倉支店時代に、通勤に使っていた中古バイクが故障したため、ナンバーを外して海岸に不法投棄したことなど、エピソードが満載で、「万事おおらかな時代だった」という締めの言葉が印象的だ。

さらに、1月14日の第13回では、池袋支店で、無許可で顧客の資産を売買する「ダマテン」が起きていたことも打ち明けている。

ネットでは、「面白い」「昭和の証券営業とはこんなものだったようだ」など、様々な声があがっているが、今このような営業をしたら、どんな法的問題があるのか。今井俊裕弁護士に聞いた。

●「絶対です」「大丈夫です」は当時の証券取引法でも違法

「絶対です」「大丈夫です」といったセールストークにはどんな問題があるのか。

「金融商品取引業者は、法令や業界団体が定めた規則で、顧客への勧誘のやり方や、その他の営業活動の内容が規制されています。

顧客の中には不十分な知識や経験しかない人もいるし、一部の業者が不正な勧誘や営業活動を行った結果、取引市場に悪影響が出てはいけないからです。

将来株価が必ず上がるかのような『絶対です』『大丈夫です』などという勧誘文句は、文句なく違法です。

仮に顧客が損害を被った場合は、その全部か一部かは別としても、業者は相応の賠償責任を負担するでしょう。頻繁に、あるいは組織的に行われていたなどの事情があれば、監督官庁から処分を受けることもあり得ます。

これは現在の金融商品取引法でも、あるいは改正前の戦後に制定された証券取引法でも同様です」

●「ダマテン」はもちろん違法

ヤクザに営業をもちかけることについてはどんな問題があるのか。

「現在は、業界団体が定めた規則などで、いわゆるヤクザなどの反社会的勢力との取引自体を禁止しています。反社会的勢力であると知った時点で解約するなり、適正な措置をとらなければなりません。

昔は現在ほど厳しくなく、上記のような団体に属する者との取引委託も受けていたことはあったかもしれません。

また、顧客に無断で、顧客の資産である株式の売り買いの取次をすることなどは、もってのほかです。当然、その売買の法律効果は顧客には帰属せず、顧客がそれで何らかの損害を被った場合は業者に対して賠償請求ができます。

顧客に『黙って』株式を『回転』させる、すなわち顧客が保有する株式を連続して売り買いすることから『ダマテン』と業界内部では言われているようです。もちろん違法です」

【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html