数年前に辞めた会社のチャットルームを別社員のアカウントでログインしているーー。そんな人が「逮捕されてしまうのでしょうか」と弁護士ドットコムに相談を寄せた。

相談者は「ただ閲覧していただけで、書き込みや情報漏洩はしていない」「軽い気持ちで眺めていただけ」と弁解する。最近、第三者のアカウントでログインすることが違法な行為だと知り、やめたという。今井俊裕弁護士に聞いた。

●不正アクセス禁止法に違反する可能性

ーー相談者の行為は、犯罪にあたるのでしょうか

「退職後ならなおさら、また仮に在職中であっても管理者の承諾なく、他人のIDやパスワードを入力してログインする行為は違法です。

この相談者の場合、まず不正アクセス禁止法に違反します(2条4項1号、3条)。この法律では、3年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑罰が規定されています(3条、11条)。

また、そのチャットの内容に企業の営業秘密が含まれていることは通常はないかもしれませんが、仮に、一般的には知られていない事項で、生産・販売・研究等に関する秘密として有用であり、その企業も秘密として管理しているものならば、不正競争防止法上の営業秘密に該当します。

とすれば、自分や第三者の利益のため、あるいは企業に損害を加える目的で、不正にアクセスして、秘密を取得することは、不正競争防止法違反であり、10年以下の懲役または2000万円以下の罰金刑が定められています(不正競争防止法21条)。

これは目的犯なので、上記のような主観的な目的をもってアクセスしたものに限って、刑罰が科されます。

もちろん仮に刑罰法令に違反したとしても、それですぐに逮捕までされるかは、実害の有無や大きさ、アクセス頻度や被疑者の動機などを総合的に判断したうえで、捜査機関の判断によることにはなります」

●民事でも「損害賠償責任」生じる

ーー民事ではどうなりますか

「違法なアクセスによって管理者、そのほかの関係者に経済的損害を与えた場合は、損害賠償責任が生じます。

もちろん、どのような損害を被ったといえるのかが審理されたうえでの判断になります。相談者としては『単にのぞいただけ』『書き込んでいない』と考えているのかもしれませんが、実際にそのようなアクセス行為に起因して、企業が何らかの損害を被った場合は、民事上の賠償責任が生じます。

いずれにせよ、かつての同僚のIDとパスワードを利用しただけ、ただ単にのぞいただけ、閲覧した内容は誰にも口外していない、という態様であったとしても、違法であることに変わりはありません」

【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html