政府は緊急事態宣言を延長する一方、休館していた図書館などの文化施設について、対策したうえでの再開を容認する方針を示している。これを受け、新型コロナウイルスの感染者が増えていない地域では、再開する図書館も出てきている。

再開にあたっては、それぞれの図書館で飛沫感染を予防するシートをカウンターに設置したり、閲覧席を減らして『ソーシャルディスタンス』を確保するなどの対策をとっている。

そうした中、徳島県では、5月9日から県立図書館を含む県の文化施設を再開するにあたり、来館を「県民限定」とする方針を出した。

図書館としては異例である上、利用の際には「身分証の提示を求める」などと報道されたことから、図書館関係者やネットでは「差別的だ」「図書館の理念に反する」など、批判の声が上がった。

図書館は蔵書の貸出を住民限定にするケースはあるが、その設置目的や理念上、来館や閲覧まで住民限定にすることはない。

徳島県はどのような理由から、県立図書館を「県民限定」とするのか。また、実際にはどのように県民と県外からの来館者を区別するのだろうか。疑問と問題は山積している。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●徳島県知事「決して県外排除ではない」と説明

緊急事態宣言を受けて、全国では臨時休館する図書館が相次いだが、一転したのは、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策推進室が5月4日に「緊急事態措置の維持及び緩和等に関して」を公表してからだ。

その中で、図書館や博物館などについては再開に向けて、「必要に応じて、入場の制限等を講ずることにより、施設内の移動においても人と人との接触を避けるための十分な距離(できるだけ2メートルを目安に)を確保されるなどの徹底した感染防止対策が行われること」が求められた。

こうした動きを受け、徳島県の飯泉嘉門県知事も5月4日、県の文化施設を順次、再開していくと発表した。この中には、県立図書館が入る複合施設「文化の森」(徳島市)が含まれていた。会見で、飯泉知事はその利用を「県民に限定」とし、「施設利用時には、利用者の方の住所確認をお願いしたい」と話した。

その理由として、政府から都道府県をまたいだ移動を極力避けるよう求められていることや、全国知事会でも不要不急の移動を自粛するよう要請していることなどを示している。

また、徳島県ではクラスターが発生していないことや感染ルートがすべて県外からの流入によるものだと説明。次のように強調した。

「決して県外排除ということではなく、県内における経済活動のために、まずは率先して県の施設から県内に解放していく。しかし、県外の方にはお断りしていただくということです」

●図書館の理念や歴史に相反する「県民限定」

徳島県の措置が報じられると、図書館界やネットでは、「県民限定」の利用に批判の声が上がった。そもそも、利用者を限定することは、図書館の法規や理念と相反するからだ。

図書館とは、図書館法によれば、「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設」とされ、その対象は広い。

また、日本図書館協会が1979年に採択した、「図書館の憲法」とも呼ばれる「図書館の自由に関する宣言 1979年改訂」でも、「すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する」ことや、「すべての国民は、図書館利用に公平な権利をもっており、人種、信条、性別、年齢やそのおかれている条件等によっていかなる差別もあってはならない」と定めている。

歴史的にみても、図書館はその公共性から、来館者を限定することはおこなってこなかった。たとえば、三重県立図書館や和歌山県立図書館などでも現在、県外からの来館自粛を求めているが、あくまで「要請」であり、利用の「禁止」はしていない。

●県立図書館「県外からの利用は想定していない」と説明

実際には、どのように県外の来館者を区別するのだろうか。徳島県立図書館は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、入居する複合施設全体で、県外からの来館を断る掲示をする準備をしていると説明。ほかの有料施設では入場の際に身分証の提示が求めるが、県立図書館では提示は求めないとした。

「もともと、県立図書館では本の貸出を県民の方だけという構造でもありますので、いちいち身分証の提示は求めません」と野々瀬由佳館長は話す。

しかし、図書館の機能は本の貸出だけではない。調査や教育目的で県外から訪れる来館者にはどう対応するのか。

「これまで、調査目的で来館する県外の住民は、大体は事前に電話やメールで問い合わせをしていただいていましたので、そのように想定しています」

また、休館中でもメールによる調査のサービスなどを継続しており、図書館の機能は停止していなかったと説明。「一時的な措置として我慢していただければ」と協力を訴えた。

●専門家からは疑問「県外からの来館断ることは根拠が希薄」

一方、徳島県の措置に対して、専門家は疑問を呈する。奈良大学の嶋田学教授(図書館情報学・公共政策論)は、次のように指摘する。

「政府からの自治体をまたぐ移動の自粛要請が出ていることは確かだが、特別措置法による強制力もない中、県外からの入館を断るという利用制限の法規上の根拠は希薄だろう。

公共施設では通常、管理者責任において、他の利用者に対する迷惑行為があった場合など、入館を拒否するということがあるが、県外からの来館者に感染リスクがある可能性を理由に入館を拒否するということには相当無理がある。

図書館は、『いちいち身分証の提示は求めません』と回答しながらも、『来館する県外の住民は資料調査が目的で、大体は事前に電話やメールで問い合わせ』があると事前把握が可能である事を示唆し、『一時的な措置として我慢していただければ』と、結局は入館拒否に異論を唱えていない。

感染拡大防止という『公共の利益』と『私権の制限』は、簡単に天秤にかけられるものではない。歴史はそれを否定するかもしれないが、日本が『依頼』という、言わば信頼ベースの対策を講じているのは、過去の教訓が他の選択肢を封じているからであろう。

図書館は開かれた場であるべきだ。このたびの『開館許容』の判断もそうした国民の願いが背景にあるに違いない。強い危機感の表れかもしれないが、措置が行き過ぎれば、身分証の提示を求められるのは多くの徳島県民であるという矛盾は指摘しておきたい」

●9割もの図書館が休館…各方面で深刻な影響

災害に遭った図書館の支援活動を行っている有志の団体saveMLAKでは、今回の図書館休館について調査を行ってきた。最新の調査(5月6日付)によると、対象となった全国の公共図書館1692館のうち、休館している図書館は92%となっている。

特に、都道府県立図書館の休館は45館にものぼり、ほとんどの自治体で図書館を休館していた。そのため、研究者や学生、出版関係者などから、研究や仕事に深刻な影響があるという声が多数、上がっている。

日本図書館協会では、図書館再開のための情報提供を行っている。5日5日には、国際図書館連盟(IFLA)がまとめた各国の図書館の感染予防対策を紹介している。その中では、たとえば、利用者数を制限するために、発券システムを利用するなどの事例があった。

新型コロナウイルスのパンデミックにより、国内のみならず、世界中の図書館が同様の問題を抱えている。図書館の理念や役割を維持しながら、どのように対策をしていくか。自治体や国の枠組みを超えた取り組みが求められている。