上海ガニ、野球帽、タイヤのホイール、象牙のビリヤードキュー、ジミー大西さんの絵のコピー品、産地偽装のウナギ蒲焼、100万ドル札、ジャイアントパンダの剥製…。

「タイヤのホイール」あたりでピンときた人は「陳列マニア」に違いない。そう、これらの共通点は「警察が広報のために陳列した押収物」である。このほかにも、対戦車ロケット砲、「猫耳少女」の偽抱き枕カバー、拳銃、麻雀牌と麻雀卓、自転車のサドル、ハイヒール、そして女性用下着などが並べられる。

ネットでは「並べ芸」などと揶揄されることもあるが、そこには警察の人間くささがある。容疑者の無罪推定は原則だが、市井の平和を守るためにも警察は丁寧に押収品を並べていた。警察OBに話を聞いた。(編集部・塚田賢慎)

●「積極的に報道してもらいたい」

「実は大変な作業です」。そう話すのは、神奈川県警で窃盗事件の捜査にあたった元刑事の犯罪ジャーナリスト・小川泰平さん。窃盗事件を扱う捜査3課の仕事が長く、押収品を並べる作業もよく経験したという。

ーーどんなものが並べられるのでしょうか

拳銃、覚醒剤など所持することだけでも違法なものや、摘発した風俗店のコスチューム、盗品などです。最近では高校野球のボールが陳列された様が見事だと話題になっていましたね。

ーー並べるのはどんなとき

たいていは広報担当の副署長が決めます。窃盗事件はメディアで大きく取り上げてもらえないので、積極的に報道してもらえるように工夫する必要があります。

被疑者が送検されて、警察署に身柄がないときに、時間のある取調官や、証拠品の管理責任者などが1〜3人で並べます。よく使われるのは署の道場です。並べ終わったら、必ず副署長に最終確認をしてもらって、OKが出れば完成です。

●カメラマンの「広角レンズ」を意識した並べ方

ーー陳列に苦心の様子が見てとれます

少しでも多くのメディアに報じてもらうためには、見栄えを気にしなければいけません。手前には目立つものを置き、色のグラデーションにも注意していましたね。副署長が署の近くの洋服屋からマネキンを借りてきたこともありました。

一方で、女性用下着などは生々しさを出さないよう、整然とベタ並べをするように心がけていました。

新聞もテレビも基本的に横長の写真・動画を使うので、縦に並べるのは厳禁。横四方に並べます。カメラマンが広角レンズを使うので、手前から奥に物が増えて広がるような扇型にしたり、奥に箱を置いてシーツをかけて、お雛様の「祭壇」のように立体感を出してみたりするんです。

また、道場には捜査に関わった警察官が待機して、メディアの注文に応えます。

ーーその場で注文に応えるんですね

カメラマンは他社・他局と異なる絵を撮りたいと考えるので、その場で「これとあれを移動してよ」と様々なアングルを要求してきます。

並べられている品物は証拠品です。証拠品には絶対に触らせない。紛失させない。警察立会いのもとで撮影させる。並べ方より大事なことです。手袋をつけた警察官が、希望するアングルのために品物の位置を変えてあげるわけです。

担当者が道場で立ち会っていることは記者も知っているので、撮影と同時に取材も行われます。話せる範囲であれば、教えてあげていました。

たとえば、川崎署の道場であれば、600〜700点の下着を並べることができました。何時間もかけて並べるので腰が痛くなるのは、陳列報道をご覧になったかたにもご理解いただけるのではないでしょうか。

私たちの仕事はそれで終わりではありません。取材などが終われば、証拠品を1点ずつ、ビニール袋1枚に詰めていきます。

●並べたおかげで犯罪抑止と新事件解決も

ーーなぜそこまで並べ作業に熱を入れるのですか

一生懸命きれいに並べたり、記者の取材に親切に答えるのは、少しでも大きく取り上げてほしいからです。そして、肝心なのが、犯罪の抑止になるからです。

人を殺したらいけないなんてことは誰でもわかってますよ。泥棒だって捕まるんだよとメッセージを発信することが、犯罪抑止力になるんです。

ーー盗まれた物はどうなるんでしょうか?

「並べ」の報道によって、被害者から「私が盗まれたものだと思います」と連絡をいただくことがあります。被害届を出してもらって、並べたところを実際に見て、自分の物があるか確認してもらいます。自分の物がなかった場合でも、新たな事件として捜査が始まり、解決することもあります。

下着盗で被害者のかたに並べたところを見てもらうときは、関係者以外は完全に立ち入り禁止にします。警察のほうから「女性の警察官を呼びます」と言うはずです。痴漢などの性犯罪でもそうです。

下着を盗まれて「返してください」と言う人はまずいません。所有権を放棄したうえで、処分を望みます。

●自分でも犯罪の全容をわからない容疑者

ーー容疑者にも並べた様子を見せますか

被疑者本人にも見せることがあります。彼らは「これ全部俺の家から出てきたものですか。こんなにありましたか」と驚きます。盗んだものは「戦利品」で、捨てられずに箱にしまっているので、全体でどれくらいあるのか本人もわかってないんですよね。

●警察も人間 「苦労が報われたい」「自慢したい」

ーー捜査の成果を知ってほしいという気持ちはありませんか

捜査1課の担当は殺人事件ですから、何もしなくたって5段抜き(=新聞の記事のサイズ。大きめ)です。捜査3課は違います。所轄の精鋭たちが集まって、2年近く内偵捜査してようやく泥棒を捕まえて、ベタ記事(数行)の扱いなんてこともあって、それはまあかなりのショックです。

家族には詳しい捜査情報こそ伝えませんが、奥さんや両親、恋人だって、刑事が長期間頑張っていることは知っています。警察も人間ですから、自分の仕事を認めてもらいたい気持ちはあります。それなのに、数行であれば、格好がつきません。

大きく報じてもらうために、時間をかけて盗品を並べますし、取材にも応じるわけですよ。自分の担当した記事をスクラップしたり、テレビニュースを録画したりしている警察官はけっこういます。

陳列のニュースを見たら、ほんの少しだけでも警察の苦労を頭に浮かべてもらえるとありがたいです。