日本各地で猛暑が続く中、奈良地方・家庭裁判所の本庁舎と2つの支部で8月4日から冷房が使えない事態が続き、14日までに全面再開しました。屋外の冷却塔の水から基準値を大幅に上回るレジオネラ属菌が検出されたためです。今年の夏は新型コロナウイルス対策でマスクも着用しなければならず熱中症のリスクが高まる中、何が起こったのか奈良地裁と奈良の弁護士に聞きました。(ライター・国分瑠衣子)

●基準値310倍のレジオネラ属菌を検出

奈良市内の弁護士事務所に勤める女性弁護士は8月7日、奈良地裁で冷房が止まっている惨状をSNSで発信しました。「奈良地裁に行く人は出来るだけ軽装、うちわとタオル必携、可能なら車で(休憩時は車のエアコンで涼む)」と呼び掛けました。

女性弁護士は7日に1時間程打ち合わせで裁判所内の部屋を使いました。この日の奈良市の最高気温は33.5度。女性弁護士は「扇風機があって窓も開いていたけれどとにかく暑い。汗をかくという程度ではなく、汗が滝のように流れ落ちました」と振り返ります。今年は新型コロナウイルス対策でマスクを着用することもあり、余計に暑さを感じたといいます。

同僚も冷房が止まっている支部に行った時には、あまりの暑さに支部の向かいの市役所に駆け込んで涼んだそうです。本庁舎の冷房が再稼働した14日に再び本庁舎へ行った女性弁護士は「長時間裁判所にいる職員もつらかったと思います。復旧してほっとしています」と語ります。

奈良地裁総務課によると、事業者が空調設備の冷却塔の水質検査をしたのが7月16日。8月3日に検査結果が判明し、冷却塔から基準値以上のレジオネラ属菌が検出されたことから、翌4日から空調設備を止めました。

日本建築衛生管理教育センターが定めるレジオネラ属菌の防止指針で、清掃や消毒が求められる基準値は100CFU/100mlですが、地裁本庁舎では31,000CFU/100mlと、基準値を大幅に上回るレジオネラ属菌が検出されました。また、葛城支部では6100CFU/100ml、五條支部では200CFU/100mlがそれぞれ検出されました。

国立感染症研究所や厚生労働省のホームページによると、レジオネラ属菌は60種類以上あり、自然界の土壌や川や湖などの淡水に広く生息しています。このレジオネラ属菌が循環式の浴槽や冷却塔、給湯設備などの中で増殖し、人がレジオネラ属菌に汚染されたエアロゾル(細かい霧やしぶき)を吸入することで肺炎や発熱を起こすのがレジオネラ症です。

過去の集団感染では、公衆浴場や温泉施設でレジオネラ症が発生したケースがあります。2002年7月に宮崎県日向市の公衆浴場で起きたレジオネラ菌の集団感染では、疑いを含めると295人が健康被害を受け、このうち7人が亡くなりました。

厚生労働省医薬・生活衛生局の担当者は「冷却塔は温泉施設などに比べると菌の繁殖リスクは低いが、ひとたび菌が繁殖すると冷却装置を介して全ての部屋に広がる危険性があります」と説明します。

百貨店やオフィスなど大型の建物は、建築衛生法で冷却塔の点検や清掃が義務付けられています。奈良地裁でも1カ月に1度、冷却塔の定期検査を行ってきましたがこれまで異常は報告されませんでした。しかし、今年度からレジオネラ属菌に絞った水質検査を始めたところ、今回基準を上回るレジオネラ属菌が検出されました。

●近県の裁判所から扇風機借りて対応

真夏に冷房が使えないという非常事態を乗り切るために、奈良地裁では法廷など各部屋で扇風機をフル稼働させました。もともと奈良地裁にあった扇風機では足りず、近県の裁判所から借りて対応しました。

法廷には窓がなく、裁判は長引くと数時間に及ぶこともあるため、裁判官の判断でこまめに休廷をとったといいます。通常、お盆期間は裁判の期日が少ないですが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大で、全国の裁判所で裁判期日の取り消しが相次いだため、お盆期間中の裁判が例年より多い傾向にあります。しかし、奈良地裁ではあまりの暑さに裁判官によっては、期日指定を取り消したケースもありました。

裁判所で冷房が止まったケースは過去にもあります。報道によると、2019年7月に宮崎地裁で空調設備からレジオネラ属菌が検出されて冷房が使えなくなり、近隣から扇風機を借りてしのぎました。

気象庁の予報では、奈良県は14日以降も最高気温が35度を超える猛暑日が続きます。ようやくの冷房再開に、法曹関係者や来庁者らは安堵しているのではないでしょうか。