若い世代を中心に転職が珍しくなくなった今でも、多くの企業で採用されている退職金制度。実際に退職する際、「もらえなかった」「額が少なかった」などのトラブルになることも少なくない。

弁護士ドットコムにも、「同業種に就職しないという念書にサインしないと退職金を出さないと言われた」という相談が寄せられている。

●「競業避止のため、3年以内は同業種に就かない」

相談者は、退職すること自体では揉めていないが、退職金については、「競業避止のため、3年以内は同業種に就かない」という念書を書かなければ支払わないと説明されたという。

相談者としては、これまで培ったスキルを活かした転職を検討しており、同業種への転職禁止は退職金の条件として厳しすぎると考えているようだ。

企業側としては、自社の秘密を知ったうえで同業他社で働かれると困るという事情があるかもしれないが、退職金を条件に念書を書かせることは法的に問題ないのだろうか。大木怜於奈弁護士に聞いた。

●退職金支給に条件を付けていいの?

——退職金の条件として同業種への転職を禁止し念書を書かせることは、法的に問題ないのでしょうか。

退職金支給に条件を付けること自体は有効と考えられます。問題はその条件が適法かつ有効なものかということです。

在職中(労働契約の期間中)は、就業規則や労働契約上の特約があるかどうかにかかわらず、信義則に基づいて、労働者は競業避止義務を負います。

これに対して、退職後(労働契約の終了後)は、就業規則や労働契約など、特別の定めがある場合に限り、これらの約定に基づいて競業避止義務を負います。

そして、競業行為の制限は、使用者の営業の利益の保護と退職労働者の職業選択の自由の保護とのバランスが必要となります。

裁判例では、(1)競業制限の期間、(2)場所的範囲、(3)制限対象となる職種の範囲、(4)代償の有無等を基準に、ア)使用者の利益(企業秘密の保護)、イ)退職労働者の不利益(転職、再就職の制約)、ウ)社会的利害(競争制限による一般消費者への不利益)という視点で慎重に検討されます。

競業の制限が合理的範囲を超えて、退職労働者の職業選択の自由などを不当に拘束する場合、その制限は、公序良俗に違反し無効と判断されることとなります。

●3年以内という縛りはアリなのか?

——今回のケースは「3年以内は同業種に就かない」とされています。

3年間だから無効という単純な判断ではないですが、代償の支払いもなく、3年間という比較的長期にわたり、地域の限定もなく、同業種に一切関与できないと、公序良俗に違反し無効と判断される可能性があります。

——退職金の条件があらかじめ明示されていたか、あるいは退職間際になって初めて知らされたかなどの事情は、有効・無効にどのように影響しますか。

競業避止の問題ですので一般化しづらいところではありますが、たとえ条件があらかじめ明示されていても、内容次第では公序良俗違反になり得ます。

また、退職間際になって初めて知らされるような場合は、あらかじめ明示されていた場合に比べ、より厳しく判断される、すなわち「条件は無効」との判断に傾く一事情だと評価される可能性があると思います。

(11月24日14時30分、条件の明示された時期に関する解説を追記しました。)

【取材協力弁護士】
大木 怜於奈(おおき・れおな)弁護士
弁護士登録前の会社員としての勤務経験を活かし、ビジネス実態に即したリーガルサポートの提供を心掛け、企業法務においては、多様な経営者のパートナーとして、様々なサービスの拡充に努めております。
注力分野としては、労働問題に重点的に取り組み、「企業の人事労務クオリティ向上による従業員に対する真の福利厚生の実現」を目指しています。
事務所名:レオユナイテッド銀座法律事務所
事務所URL:https://leona-ohki-law.jp/