新型コロナウイルスの感染拡大にともない、緊急事態宣言の対象は、計11都府県に拡大した。政府は感染拡大の要因として飲食店を挙げ、20時までの時短営業を要請。協力すれば、1店舗につき1日6万円の協力金が支給される。

筆者は新宿で、小さなバーを2店舗経営している。どちらの店舗でも、6万円という金額は正直、通常の売上より大きい。

一方で、大きな店舗を複数経営している飲食事業者には、少なすぎる金額だ。時短要請に対し、飲食店はどのような判断・対応をしているのか。緊急事態宣言発令後の新宿の様子や、飲食事業者や取引業者を取材した。(ルポライター・肥沼和之)

●短期的には「休業しても儲かってしまう」

まず筆者の状況からお伝えしたい。筆者が経営するバーは5席と7席。家賃は約20万円と約10万円。客単価は約2000円程度で、コロナ前は一日の売上が2〜4万円ほどだった。

第3波が訪れ、昨年11月に22時までの時短要請が出てからは、顕著に客足が減った。売上は平均1万円台、数千円のときもあった。アルバイトスタッフの人件費もかかるため、赤字が続き、協力金がないと立ち行かない状況だ。

今回の時短要請に伴い、お店はどちらも休業することにした。しかし先に書いた通り、1日6万円という金額は、通常の売上より大きい。あくまで短期的な視点だが、儲かってしまうのだ。

コロナの収束が見えない中、また収束後も客足が戻るか分からない状況で、経済的に余裕ができるのは、非常にありがたいというのが、筆者の立場からの本音である。

ただ同時に、複雑な思いもある。1日6万円では全く足りない飲食事業者や、酒屋など取引業者への支援は、十分と言えるのだろうか。もちろん、ほかにも困窮している業界がたくさんあることは重々に理解しているが、本記事では飲食業者・関連業者にフォーカスして実情を届けたい。

●夜からの営業店が、昼や夕方から開けるように

首都圏に緊急事態宣言が出た翌日の1月9日の夕方、新宿三丁目や新宿ゴールデン街、歌舞伎町など飲食店が多いエリアを歩いた。普段は夜から営業している店が、開店時間を早めて、昼や夕方から開けているのが目立った。

土曜ということもあってか、多くの店には7割ほど客が入っていた。閉店時間を早めるなら、その分早く開店することは、飲食店が事業である以上、自然だろう。そして開けていれば、混み合う場合もある。密の防止という観点だけなら、20時閉店の効果は限定的でしかないのでは、と感じた。

少し時間を置き、20時過ぎに再び歌舞伎町へ向かう。

いつもは明るい街並みが暗い。多くの飲食店が時短要請に応じ、20時で閉店していた。ただ、開いているお店もポツポツあり、そのほとんどは客でいっぱいだった。

キャッチに話を聞くと、「他がやっていないから、開ければ人が来るに決まってる。開けたもん勝ちだと思いますよ」とのことだった。そして、「そこなんか、看板の電気を消して営業してますよ」とある店舗を指さした。

昨日は閉めていたが今日は開けている、という風に、様子を見ながら判断している店舗もあるそうだ。

20時以降も開けているのは、普段明け方まで営業しているお店が多かった。20時以降が本番なのだから、閉めると死活問題だろう。そこそこ有名なチェーン店も営業していた。政府の要請よりも、生き残るための決断をしたことがうかがえる。

新宿にて(1月9日、筆者撮影)

一方で、普段は朝までやっているのに、完全休業している店もあった。シャッターには「難しく考えるのをやめました。ボス(小池さん)の言うとおりにすることに決めました(怒ると多分、怖いので)」と貼り紙があった。20時閉店、完全休業、時短要請を無視して営業……どの決断にも、そうしなければいけない理由や葛藤が見て取れた。

●「どんな施策を取ったとしても、必ず不公平は発生する」

新宿を中心に飲食店を複数経営する企業の方に話を聞いた。同社が経営するのは居酒屋や和食屋、ビストロなど。中~大規模の店舗が多く、客席は最大120席で、賃料は最大300万。コロナ禍での売上は、店舗により30〜80%減少しているという。今回の時短営業には応じているが、当然1日6万円では足しにもならない。

「うちは飲食以外の事業もしているので、何とか持ちこたえられていますが、飲食だけだったら立ち行かなかったでしょうね」

店舗の業態や規模にかかわらず、協力金が一律であることについてはどう思っているか。同氏は「どんな施策を取ったとしても、必ず不公平は発生する」と前置きしたうえでこう続ける。

「すべての飲食事業者が生き残るような施策で、不公平が発生するなら、平時ではない今なら仕方ありません。もらいすぎたという事業者からは、コロナが収束した後に返納してもらうなどすればいいのですから。けれど今回の施策では、廃業せざるを得ない事業者もきっと出る。国にはすべての事業者が、せめてコロナ禍を何とか乗り越えられる施策を考えてほしいです」

例えば協力金を一律6万円ではなく、店舗の坪数×エリアの賃貸物件の平均坪単価で支給すれば、家賃に充当できるため、ほとんどの飲食事業者が存続できるのでは、と同氏は話す。そのうえで今回の施策を、「税金で給料をもらっている人たちが考えた、何の意味ももたらさない不公平な施策」と切り捨てた。

約40年営業している小さなバーにも話を聞いた。同店は客層が高齢化したこともあり、コロナ以前から客数は減っていた。売上も月30万円程度だという。

店主は「1日6万円をもらえて、本当のことを言うとありがたいです。けれど、そんなことを言うと怒られる。世の中に対しては、『コロナで困っています』って言わないといけない空気です」と複雑そうだった。

また、同様の立場の若い飲食店オーナーは、「コロナバブルが来ましたね! このままコロナが続いてほしい」と喜びを隠さなかった。

●一時金(40万円)も「一時しのぎにしかなりません」

飲食業の取引業者である、酒屋さんに話を聞いた。数名のスタッフを抱えている、中規模のお店だ。

「時短要請を受けて、休業したお客さん(飲食店)がたくさんいます。するとうちへの注文も当然なくなる。売り上げは前年同月比で80%減る見込みです。人件費を削るために閉店時間を早めて、後は持続化給付金で何とか乗り切っています」

政府は1月12日、飲食店の取引先の支援として、一時金(最大40万円)の支給を発表した。だが「40万円をもらえたとして、ありがたいけれど、一時しのぎにしかなりません」と本音を漏らした。

氷屋さんも同じく苦しい状況だ。飲食店の休業もだが、昨年11月の酉の市(お祭り)で、飲食の屋台が感染拡大防止を理由に、出店中止になったことも大きかったという。出店者に氷を卸し、例年大きな売上げになっていたが、昨年はゼロ。売り上げはコロナ前より5〜6割ほど減っている。一時金には、あまり期待していないと話す。

「支援金をもらうには、売上が昨年の半分以下になっているとか、いろいろ規定があるんですよね。氷屋はただでさえ、冬に売り上げが減る業種だから、該当するのかどうか。支援金を期待するよりも、自分たちでどう乗り切るかを考えていきます」

ある飲食関係者は、飲食店への協力金6万円を、すべて現金で支給するのではなく、取引先でのみ使用できるクーポン券にすればいい、と話した。そうすれば飲食業界全体が生き残れるのでは、と続け、政府の支援策に疑問を呈した。

●飲食店が「足並みをそろえなかった」理由

歌舞伎町(1月9日、筆者撮影)

飲食店への20時までの時短要請。それに伴う支援策をどうするか、政府は予算の問題、不正受給の防止、協力金の迅速な支給などさまざまなことを考慮し、今回の施策を決定したのだろう。

だがそれを受けて、飲食店は足並みを揃えなかった。政府は、時短に応じない店名の公表をちらつかせているが、それですべてが収まるとは到底思えない。もし筆者が、時短に応じると立ち行かなくなる規模・業態の飲食店の経営者だったら、誰に何を言われようとも、店を開け続けるかもしれないからだ。

さらに、支援が足りないと嘆く取引業者の状況や、「なぜ飲食業界ばかり支援するの?」という世論もある。

困窮しているすべての業種・人を、今すぐ手厚く支援するのが難しいことは理解しているが、それでもふたを開けてみてこの状況に、政府関係者はどう思うだろうか。さらに何より大事なのは、この時短要請によって、感染者数が本当に減るかどうか、だ。

一人でも多くの国民や事業者を、政府には何としてでも救っていただきたい。

【著者プロフィール】 肥沼和之。1980年東京都生まれ。ジャーナリスト、ライター。ルポルタージュを主に手掛ける。東京・新宿ゴールデン街のプチ文壇バー「月に吠える」のマスターという顔ももつ。