ヤクザの人権を考える 郵便局バイトで逮捕「脱退すれば?」が無意味なワケ

暴力団員であることを隠して郵便局でアルバイトをしていた男性(60)が逮捕されたと、東海テレビが1月16日に報じた。

同局によると、男性は2017年11月29日、愛知県春日井市の郵便局でアルバイトし、現金7850円を受け取った。男性はこの日だけ、集配アルバイトとして勤務。暴力団員であることを明かし、4日後に自主退職していた。

福岡県(2010年)から全国に広がった「暴力団排除条例」により、各種契約で「反社会勢力」ではないことを誓約することが一般化している。暴力団員であることを偽って契約すれば、詐欺罪に問われうる。

この男性にどのような事情があったかは定かではない。ただし、ネットでは「個人情報を扱うところにヤクザがいたのは怖い」といった反応だけでなく、「実際に働いているのに『だまし取る』は違和感がある」と同情的な意見も多く見られた。

暴力団問題の研究者・廣末登さんも、「真っ当に働いても逮捕なのか」と疑問を持っている。現状、暴力団員は組織に残っても食えないし、やめても職がない厳しい状況にある。

もしも、男性のアルバイトが生活のためだとしたらーー。廣末さんは、「『重箱の隅をつつく』ごとき取り締まりをしていると、暴力団のアングラ化、離脱者のアウトロー化を助長しかねません」と警鐘を鳴らす。

●残っても厳しいし、離脱しても厳しい

暴排条例などにより暴力団への締め付けは強くなっている。「見栄を張る稼業」でもあるため、実情はあまり表に出てこないが、近年では「貧困暴力団」という言葉も出てきた。

「暴力団員だと、家も借りられず、銀行口座も持てず、下手をすると子どもの保育園入園も断られる。憲法で保障された『健康で文化的な最低限度の生活を営む』権利すら保障されない時代になりました」(廣末さん)

だったら、暴力団を抜ければ良いじゃないかと思うかもしれない。実際、裁判所も暴力団員の口座開設問題で次のように判示している。

「暴排条項の適用によって被る暴力団員の不利益は自らの意思で暴力団を脱退さえすれば回避できるものである」(福岡地判決平28.3.4、福岡高判平28.10.4)

しかし、現実は暴力団をやめても「不利益」は残る。暴排条例には「元暴5年条項」があるからだ。

「暴力団を離脱しても、おおむね5年間は暴力団関係者とみなされ、組員同様、銀行口座を開設すること、自分の名義で家を借りることなどができません。だからといって、暴力団員歴を隠せば、虚偽記載となる可能性があります」

しかも、最終的に口座などの開設を認めるかどうかは、各企業に任されている。実際には5年以上たっても「暴力団員扱い」が終わらないことは珍しくない。

「偽装離脱」の可能性もある以上、いきなりフリーにするのは難しいとしても、現状は規定以上に厳しい運用になっているという。

「暴力団を離脱しても、生活口座が開設できないという現状は、『暴力団を脱退さえすれば不利益は回避できる』という裁判所の見解に疑問を抱かせかねないものです(参考:荒井隆男「金融暴排実務の到達点――政府指針公表後10年を経過して」金融法務事情2100号)」

●暴力団やめても働き先は限られている

こうした制限がある以上、暴力団をやめても一般企業で働くことは困難だ。

例外的に、元暴力団員だとわかって雇い入れる企業もある。警察の「協賛企業」、法務省の「協力雇用主」などだ。その数は右肩上がりに増えてはいる。

しかし、職種が限られているため、なかなかマッチングがうまくいかないのが現実だという。

「大半は建設業、運輸業、電気・ガス・水道工事などの『ガテン系』です。暴力団離脱者は頑強そうに見えますが、覚せい剤の濫用などで、肉体労働には向かない人も多いんです。何より、離脱者が高齢化しているということもあります」

企業目線で不採用という場合もあるだろう。そんなとき、元暴力団員はどこで生活の糧を得れば良いのだろうか。

神戸新聞(2018年9月24日)の記事によると、2010〜2017年度に警察の支援で離脱した元暴力団員4810人のうち就労者はわずか2.6%だという。やめさせても、受け皿がないのが現状だ。 

●「だったら身分を隠して働いた方がマシ」になってしまう

こうした「暴排社会」からすると、暴力団員が離脱しないまま、身分を偽って働くという選択肢に合理性が生まれてしまう。

今回の男性がどういう経緯で働いていたかは定かではないが、実際に身分を隠して働いている「兼業暴力団員」は少なくない。同種の逮捕が増えるようなら、行き場のない人が増える可能性がある。

「企業コンプライアンスが厳しい今、『反社』であると印を付けると、雇用してもらえないことは子どもでも分かります。個人的には、犯罪に走ることなく、『真っ当な労働』により糊口をしのごうとすることは、評価すべきだと考えます」

「経歴詐称」は問題だとしても、多くは組織内の処分で終わる話だ。仕事をやめずに済む場合すらある。本人が自主退職しているのに、逮捕まですべきなのか――。廣末さんは、アルバイトが暴力団としての活動を助長するのか、という点に目を向ける必要があると言う。

「労働の対価としてお金をもらっていたのなら、悪いことをしているわけではない。労使間で話し合えば穏便に済むのではないでしょうか。詐欺罪で逮捕というのはやりすぎだと思います」

●暴排と復帰支援は両輪

もちろん、暴力団員になったことで、直接的・間接的に人を傷つけたことはあっただろう。その責任は問われるべきだ。

しかし、現状は組に残っても、やめても厳しい状況といえる。それを「自業自得」と斬って捨て、見た目上の暴力団撲滅を目指すだけでは、暴力団の活動がより見えづらくなったり、離脱者が再び違法行為に手を染めたりすることを促してしまうかもしれない。それは本末転倒と言えないだろうか。

「暴力団離脱者、離脱予備軍の人たちが、自分の、家族の将来を前向きに考えるためにも、暴排という『北風の政策』だけではなく、社会復帰しやすい土壌づくり――いわゆる社会的包摂という『太陽の政策』も必要ではないかと考えます。それが、真の暴力団対策、安心・安全な社会づくりに資するのではないでしょうか」

(弁護士ドットコムニュース)


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