成人した大学生、実家を追い出される 「親に、僕を扶養する義務はないんですか?」

弁護士ドットコムの法律相談に、大学生(成人)が、親の扶養義務について相談を寄せました。大学生は「これまでは両親に学費、生活費等を負担してもらっていましたが、近頃両親と私の関係が悪化し、先日遂に放逐を宣言されました」と明かします。

そこで「両親に迷惑はかけまいと思い自力でやりくりしながら大学を卒業しようと決意したのですが、就職活動や卒業研究が控える年であり、また両親の年収が相当高いため奨学金を利用するのが難しく、早くも頓挫しそうです」とのことです。

親に生活費や学費などを負担してもらえないか、と考えているそうです。

成人したとはいえ、まだ大学生。両親には、相談者を扶養する義務があると言えるのでしょうか。緒方直人弁護士に聞きました。

●緒方弁護士の解説ポイント

・親の養育義務は「未成熟の子ども」(未成熟子)に対するもの ・未成年でも社会人であれば「成熟した子ども」(成熟子)という扱い ・学生はケースバイケースだが、成人しても「未成熟の子ども」的に扱われる可能性

●養育費支払義務と扶養義務

ーー養育義務について、法的にはどのような位置付けにありますか。

親の養育義務は未成熟子に対する扶養義務であり、扶養義務者が扶養権利者(未成熟子)の生活を自己のそれと同等程度に保つ義務(生活保持義務という)とされます。

現在、家裁の実務で参照されている養育費算定表も、養育費が生活保持義務であるという考えに基づいています。

これに対して、老親扶養等の通常の親族扶養義務は「生活扶助義務」とされ、扶養権利者が「要扶養状態」にある場合に扶養義務者の「余力の範囲内」で相手方を扶助すれば足り、権利者の生活を義務者のそれと同程度に保持する必要はありません。

●成人した子に対する扶養義務の法的性質

ーー「未成熟子」と「未成年者」は同一の概念でしょうか

多くの場合、未成熟子の概念と未成年者の概念が一致するため、家裁実務上は、養育費の終期を成人に達するまでとすることが多いようです。

成熟、未成熟の概念と成年、未成年の概念は重複しますが、実は微妙にズレが生じます。

未成年者であっても、高校卒業後に就職して自立した生活を営んでいる場合は、未成年者であっても成熟子とされ養育費の対象とはなりません(ここでは未成年成熟子と呼ぶことにします)。

ーー相談の事例では、どう判断されるでしょうか。

相談のケースは成人に達した大学生に対して親が扶養義務を負うかという問題ですね。過去の3つの裁判例をもとに検討しましょう。

親は扶養義務を負うとした東京高裁平成12年12月5日決定(1)がありますが、まず原審(横浜家庭裁判所平成12年9月27日審判)の判断を見ましょう(2)。

原審(2)はこの問題を通常の親族扶養の問題と捉え、申立人(大学生。以下、大学生と言います)の潜在的稼働能力が十分であることを理由として、大学生が要扶養状態にはないと判断しました。

これに対し抗告審(1)は、親が成人に達した大学生の扶養義務を負うかについての種々の考慮事由(親の資力や親の当該子の4年制大学進学に関する意向が、その中に含まれています)を提示しました。

そして、原審判は種々の考慮事由を具体的に考慮することなく、成人に達した普通の健康体である大学生には潜在的稼働能力が備わっていることのみを根拠に大学生が要扶養状態にないと速断したことになるとして、原審判(2)を取消しました。

もう1つ、より詳細に基準に言及した(3)東京高裁平成22年7月30日決定についても触れます。

(3)は「親が成年に達した子が受ける大学教育のための費用を負担すべきであるとは直ちにはいいがたい」と述べながらも、当事者間の協議が整わないとき又は協議ができないときは、家裁が子の需要、親の資力その他一切の事情を考慮してこれを定めるとしたのです。

この「その他一切の事情」については、「子が4年制大学に進学した上、勉学を優先し、その反面として学費や生活費が不足することを余儀なくされる場合に・・・扶養の程度又は方法を(親子間で)協議するに当たっては・・・(学費や生活費の)不足が生じた経緯、不足する額、奨学金の種類、額及び受領方法、子のアルバイトによる収入の有無及び金額、子が大学教育を受けるについての子自身の意向及び親の意向、親の資力」等々諸般の事情を考慮すべきだとしました。

●大学生の扶養義務は「生活扶助義務」?

ーーいずれも、大学生の扶養は「生活扶助義務」にあたるということでしょうか。

成人に達した大学生の扶養義務を「生活扶助義務」とみることについては、上記裁判例は共通しています。

しかし、(2)の判断が大学生の潜在的稼働能力をその要扶養状態の判断のなかで捉え、大学生は要扶養状態にないとするのに対し、(1)及び(3)は、大学生の稼働能力を親の扶養義務発生を基礎付ける種々の考慮要素の中に含めて判断し、それを単独で要扶養状態の考慮要素としません。

要するに(1)及び(3)の判断のポイントは、成人に達した大学生の扶養義務を、単純に親族扶養義務の問題として扱っていないということです。

ーー「大学生=未成熟子」とは言えないのですね。

そうです。様々な考慮要素の中で、親の資力と子の要扶養状態だけでなく、大学教育を受けることについての子の意向及び親の意向を判断要素に含めています。

子の養育費(子の監護に要する費用)と関連する子の監護の要素が、成人した大学生の扶養義務発生の判断にも取り込まれているとみることも可能であるように思います。

たとえば開業医である父親が、子に医学部への進学を希望し、そのように監護教育を行い、当該子が医学部へ進学したところ、後日親夫婦の離婚が生じ、当該子が母親の立場を支持したので、父親との関係が悪化して父親が扶養料の支払いを止めたというような例を考えてみましよう。

(1)(3)の判断枠組みからすれば、この場合の父親は、扶養料の支払いを拒絶することは難しいでしょう。大学進学を前提として子の監護教育をしてきた親(ご相談の事案もそうではないかと思われます)は、成人に達した子の学費・生活費の支払いも覚悟しなければならないということです。

少々俗っぽい言い方をしますと、2階に上げて梯子を外すようなことをしてはならないし、そのように監護教育を行った場合は、梯子をかける義務があるということでしようね。

●成人年齢の民法改正との関連

ーー2022年からは成人年齢は18歳に引き下げとなります。これにより、さらに混乱することにはなりませんか。

家裁実務は養育費支払いの終期を成人とすることを避け、多くの場合「満20歳」を終期とする傾向が生まれるのではないかと思います。

この場合、成人を養育費の終期とする現在の家裁実務と年齢的には違いがありませんが、従来、未成年者であり未成熟子とされてきた満18歳を超え満20歳までの2年間は、成人した子に対する扶養ということになります。

先に述べた「未成年成熟子」とは真逆のいわば「成年未成熟子」の問題が一般化することになります。ご相談の事案のように、通常、満20歳では大学は卒業できませんから、修業年限である4年又は6年(医学部等)を終了する年齢(22歳とか24歳)を終期とする実務例も増加するでしょう。

「成年未成熟子」問題の生じる範囲がさらに拡大するとともに、その扶養の法的性質は単純な親族扶養ではなく、成年に達しながらも、親の子の監護のあり方に配慮した未成熟子扶養的要素をもつことがより鮮明化するのではないかと思います。

●両親は扶養義務を免れることができるのか?

ーー家族関係によっては、扶養義務から免れたい事情がある人がいるかもしれません。

成人に達した子に対する扶養が広く認められることは、他方で親の扶養義務期間の延長を意味します。そのような「責任」から逃れたいと思う親がいるかもしれませんね。

扶養義務者に対する扶養権利者の過去の行状等から扶養請求が権利の濫用とされる場合はあります。父親が不貞行為の相手と同棲して、子の扶養を放棄したにも関わらず、老後に子に扶養請求するような場合です。

相談の事案では「近頃両親と私の関係が悪化し、先日遂に放逐を宣言されました。」ということですね。具体的な事実関係が不明ですが、ご相談者に上記の父親のような反倫理的、背信的行状がなければ、ご相談のような親の扶養義務の不履行は許されないでしょう。

成人に達した大学生の扶養が生活扶助義務であることには、反対説はあるものの否定できないように思います。

(1)(3)の判断には、4年制大学進学率の高まりという社会的背景がありました。しかしながら奨学金、授業料免除をはじめ、高等教育に対する種々の公的支援が重視される今日、成人に達した大学生の扶養の問題を私的扶養の枠組みの中だけで考えることには無理があるように思います。

相談の事案は、両親の年収が相当高いため、大学生が奨学金を利用することが難しいというケースでしたが、今後、生活扶助義務者である親の余力の判断も重要性を増すだろうと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
緒方 直人(おがた・なおと)弁護士
2012年3月に、鹿児島大学法科大学院を定年退職後、弁護士登録(鹿児島県弁護士会所属)。これまでの長い家族法の研究・教育の経験を活かして、少しでも地域社会に貢献できればと、家事事件を中心に活動している。


事務所名:緒方直人法律事務所
事務所URL:http://ogata-law.com/


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