子供向けのオフロード入門モデルとして、世界で40年以上も親しまれてきたヤマハのPW50。人気バイクショップの「9-GATE」が、現行の純正スタイルを生かしつつ、初代モデルを再現するプロジェクトに着手しました。

初代のスピリッツを現代まで受け継ぐキッズ用ファンバイク「PW50」

 1980年の夏、アメリカで開催されたヤマハのディーラーショーで発表された子供ども向けのオフロード入門モデルPW50。1981年モデルがアメリカと中心とする海外市場で販売開始。子供でも扱いやすい操作性、軽量でコンパクトな車体、メンテナンス性の高さが支持され、世界中で売れ続けているロングセラーモデルです。2021年モデルでちょうど40年になります。

 そこで、PW50の初期型モデルを現行の2021年モデルで再現するプロジェクトを敢行! 東京都東久留米市にあるバイクショップ「9-GATE(ナインゲート)」が手がけることになりました。

 同店はヤマハのロードスポーツモデルSRをメインに手がける人気店で、マニアには知られた存在です。SRは今年で生産終了を迎えましたが、1978年の発売から42年間も愛され続けてきたロングセラー。代表の細井啓介さんは、SRとPW50に共通項を見出していました。

「発売から大幅な仕様変更がなく、そのスタイルを維持しながら長年愛され続けてきました。でも、ロングセラーモデルだったSRと違って、PW50って意外と知られていない隠れた存在なんです。そこで、40年の記念に初期型をオマージュしようと思ったんです」

初代をオマージュしたカスタムは、「PW50」の2021年モデルをベースにスタート

 世界のモータースポーツシーンで活躍するプロライダーでも、幼い頃にPW50に親しんでいたという選手が多いのです。その功績は大きく、もっと知られていい存在と言えるでしょう。そこで、初代をオマージュしたカスタムをプロデュースすることになったのです。ベースとなるのは2021年モデルです。

「PW50は初期型から大きな仕様変更がされていないので、現行の純正スタイルを崩さないようにしながら、当時の持つテイストを表現できるように考えました」

 ヤマハがPW50を開発したキッカケは、より多くの子供たちにバイクに親しんでもらうこと。そのために価格帯を抑えるために大幅な仕様変更を行わないようにしているのだそう。そのため初期型モデルからほぼ車体構成、そしてそのスピリットは変わっていないのです。

操作性のよさと安全性、コストパフォーマンスのよさが人気のヒミツ

 1981年に発売された初期型PW50カラーリングは、当時のYZシリーズと同様に採用されていたUSインターカラー。イエローに「ストロボライン」と呼ばれるブラックのラインが施されていました。

メンテナンス性に優れたシャフトドライブを採用しています

 当時から現在まで続く特長は、スロットルの操作だけで走ることができるオートマチックエンジン。自転車と同じ操作性を持つ左右レバー式のハンドブレーキ。子供で扱える軽量でコンパクトな車体、そして、メンテナンス性に優れたシャフトドライブです。

 対象は小学校低学年以下の子供たちで、自転車に乗れれば簡単に親しめるように配慮されています。エンジンはアクセル開度をネジで制限するストッパーと、エキパイにプレートを設けパワーを抑える2系統の出力制限を備えています。

 あえて、速く走るためのパワーアップをせず、初めてバイクに乗る子供たちにも優しいゆっくり走り出せるパワー特性と、キチンと走行できる力強さを両立させているのです。

1984年にYZの仕様変更に合わせ、タンクサイドにシュラウドカバーが追加されています

 一方で、初期型モデルから進化している部分もあります。1984年にはYZの仕様変更に合わせ、タンクサイドにシュラウドカバーが追加。タンクやシート、サイドカバーまわりのデザインが一新されました。その後はYZに合わせたカラーやグラフィックスの変更がメイン。

 その後は2016年にインナーチューブを直径22.2mmから26mmに大径化し、左右オイルダンパー、アルミ製アウターチューブ採用したフロントサスペンションに変更。また、シリンダー・ロッド径をアップしたリアサスペンションを採用するなど、足まわりが強化されていました。

1981年に発売された初代「PW50」

 これらの仕様変更を踏まえ、細井さんが2021年モデルをベースにして初代モデルを再現するのにあたって、こだわったのがなるべく現行の純正スタイルを崩さないことでした。

「気をつけたのは純正のスタイルをなるべく残しつつ、当時の雰囲気を表現することでした。もしも『ヤマハがPW50の40周年アニバーサリーモデルを出す』としたら、こんなバイクになるんじゃないかな…という感じです(笑)」

 そこで、見た目に影響するシュラウドカバーをそのままに、カスタムペイントを中心に、初期型モデルを再現することにしたのです。

カスタムペイントで初代カラー&グラフィックを再現!

 1981年に発売された初期型PW50はヤマハでも残っていないそう。現存する車両を探すのは困難です。そこで、当時の広告や写真などの資料を参考にしつつも、現行モデルにマッチするように試行錯誤。モーターサイクルをメインにカスタムペイントを手がけている「カオスデザインファクトリー」とタッグを組んで、現行モデルのフォルムに合わせて新たにデザインしました。

 まずは外装。樹脂製のシュラウドカバー付きタンク、一体形成されたフロントフェンダーゼッケンプレート、リアフェンダーとクリーナーボックスとゼッケンプレートに、USインターカラーであるイエローとブラックのグラフィックを落とし込んでいきます。

USインターカラーのベースカラーとなる黄色を吹き付けてから塗分けのマスキングをします

「タンクは一度純正のPP(ポリプロピレン)へ、ベースカラーの黄色を吹き付けてから塗分けのマスキングをしました。ロードモデルなどと違い、表面の仕上げが樹脂の型から抜いたままのため、塗分けたい部分に樹脂のつなぎ目が出てしまうんです。こうなるとマスキングして塗分けが不可能なため、表面の段差を削り落として再塗装しなければなりません」

 タンクのバリをそぎ落とし、滑らかに表面処理加工してから再塗装。下地になるサフェーサーを吹いてから一度、シュラウドカバーをセットしてチェックします。

「タンクの素材になっているPPは、特性上、塗装との相性はあまりよくありません。でも、デカールだと質感がイメージと異なるので使用せず、グラフィックも塗装で仕上げることにしました」

タンクのバリをそぎ落とし、滑らかに表面処理加工してから再塗装を行います

 PPと呼ばれるポリプロピレン樹脂は、ポピュラーなプラスチック素材。軽くて柔軟性があり、加工しやすい上、引張強度、衝撃強度、圧縮強度に優れ、耐摩耗性も高いという特徴があります。しかし、一方で接着性や塗装性が悪い面もあります。塗装は乾燥すると硬くたるため、柔軟なPPの表面から塗膜が剥がれやすくなります。そのため、下地塗装をするなどの加工が必要になるのです。

「初期型にはないシュラウドカバーがあるので、タンクの塗装と一体感を持たせなければなりません。実際にセットして、ストロボラインを細かく修正していきます」

樹脂製タンクの「YAMAHA」のロゴやシュラウドカバーとのつなぎ目には苦労した

 樹脂製タンクの「YAMAHA」のロゴ、シュラウドカバーとのつなぎ目に塗装がのらず苦戦。何回も試作を繰り返したこともあるそう。

「イエローにホワイトの抜き文字で入るロゴの『A』の部分は少し妥協しました。よく見るとイエローで抜いていないんです。また、シュラウドカバーとのつなぎ目の色が入らない部分は、カッティングシートを活用して、クリア塗装で目立たなくするなどの工夫をしています」

フロントフェンダーとリアフェンダーのゼッケンプレートに、「1」のロゴを再現

 それから、フロントフェンダーとリアフェンダーのゼッケンプレートに、「1」のロゴを再現。実際のサイズというより、トータルで見た時の文字のスケール感を変えないように描かれています。手間と工夫、絶妙なサジ加減でタンクとフェンダーのカラーを再現しました、

「カラーが違うところは他にもあります。現行モデルはブレーキパネルと前後のホイールが共にブルーですが、初代はシルバーです。ここも足まわりの印象が変わってしまうので塗装しています」

 印象的なタンクと前後フェンダーのみならず、ホイールやシートなどの細部のペイントも再現し、完成度を高めています。現行のシートはツートンカラーを採用、座面がブラック、両サイドがブルーになっています。

シートには、『YAMAHA』の白いロゴ部分をマスキングフィルムで貼って塗料した

「シートについては表皮張替えも検討しましたが、ロゴのプリントまでを考えるとコストアップしてしまうため、実は塗装で処理しています。『YAMAHA』の白いロゴ部分をマスキングフィルムで貼って、塗料でキレイに仕上げました」

 専用の塗料を使ってブラックに白いロゴ入りシートを制作。アイディアと手間、時間をかけて、品質を守りながらコストを削減しました。こうして試行錯誤を繰り返し、世界に1台だけの初代レプリカカラーを高品質で再現することに成功! いよいよ、パーツを組み付ければ完成です。