紳士服最大手の青山商事は3月11日、2020年3月期通期の連結業績予想の大幅な下方修正を発表した。最終損益は203億円の赤字(前期は57億円の黒字)を見込む。従来予想は20億円の赤字だった。新型コロナウイルスの影響で入学式や卒業式の見送りが相次ぎ、スーツの売り上げ減少が見込まれるほか、傘下の靴修理店の減損損失を計上することが響いた。

 売上高は従来予想から7.0%引き下げ、2190億円(前期比13%減)とした。入学式の中止などでスーツが売れず、今後も厳しい状況が続くことが見込まれている。そうしたことから、スーツなど主力のビジネスウェア事業の下期(19年10月〜20年3月)の既存店売上高は、従来予想よりも落ち込むとみている。前年同期比8%減を予想していたが、25%減に修正。販売不振を受け、店舗に関わる減損損失50億円を計上する。

 傘下の靴修理店「ミスターミニット」も振るわない。運営会社の日本事業に関わるのれんの減損損失40億円を計上。また、昨年末にフランチャイズ(FC)契約が終了し、国内全店を閉めたカジュアル衣料品店「アメリカンイーグル」に関わる事業整理損84億円も計上する。

 今回の下方修正は、新型コロナによる影響が大きいが、仮に新型コロナの影響がなかった としても、青山商事の状況は厳しいものがある。19年10月〜20年2月のビジネスウェア事業の既存店売上高は前年同期比18.7%減と大幅減で、いずれの月も14%以上の大幅な減少率だった。10月にいたっては27.9%減と大きく落ち込んだ。2月は新型コロナが大きく影響したが、それ以前は新型コロナによる大きな影響はなかった。そうしたことから、もともと深刻な状況にあったといえる。もっとも、消費増税や暖冬という特殊的な要因もあるので、それらの影響を差し引く必要はある。

 そこで、新型コロナや消費増税の影響がない上期(19年4〜9月)の状況を見てみると、同期の既存店売上高は前年同期比5.3%減だった。仕事着のカジュアル化などによるスーツの販売不振が響いたという。販売不振は長らく続いており、通期ベースの既存店売上高は19年3月期まで3期連続でマイナスとなっている。やはり、もともと深刻な状況にあったといえるだろう。

オーダースーツ市場への参入や価格体系の見直し

 もちろん、こうした状況に手をこまねいていたわけではない。たとえば、厳しい状況にあるスーツ市場のなかで例外的にオーダースーツ市場が伸びるなか、16年にオーダースーツブランド「ユニバーサルランゲージ・メジャーズ」を始めたほか、昨年10月には、より手ごろな価格のオーダースーツブランド「クオリティオーダー・SHITATE(シタテ)」をスタートしたりしている。

 昨年10月には、価格体系の大幅な見直しも行っている。クーポンの発行を控えたほか、店頭での価格交渉を原則廃止する一方、表示価格を大幅に引き下げた。複雑で不透明だった価格表示が顧客を遠ざけていると考え、価格を明確にすることで安心して買える環境を整え、集客を図っている。

 ただ、こうした対策を講じてはいるものの、今のところ大きな成果は出せていない。オーダースーツ事業は、成長はしているが店舗数はまだ少なく、全体の収益への貢献は限定的だ。価格体系の見直しによる信頼感向上での集客は中長期的に見ていく必要がある施策のため、現段階で評価はできない。

 もっとも、価格体系の見直しに関しては、売り上げ減の要因になっている可能性が低くない。見直しを始めた昨年10月から、前述した通り、既存店売上高が大きく落ち込んでいるためだ。消費増税や暖冬の影響もあるため、価格体系の見直しによる影響がどの程度あるのか今の段階で評価するのは難しいが、表示価格を引き下げたことが顧客に周知しきれず、客単価がただ下がるだけで終わってしまったことが十分考えられる。

外食事業に光明

 いずれにせよ、こうした状況のため、スーツのてこ入れは現状大きな成果を出せているとはいえない。また、今後スーツの需要が大きく上向くとは考えづらい。見通しは不透明だ。そのため、スーツ以外の事業の育成が不可欠といえる。

 青山商事はスーツを核としたビジネスウェア事業のほか、カジュアル衣料事業、印刷・メディア事業、雑貨事業、リペアサービス事業などを展開している。このように多角化を進めているが、十分な収益を上げられているのはカード事業くらいしかない。

 ビジネスウェア事業は連結売上高に占める割合が7割弱と大きいが、19年4〜12月期の営業損益は23億円の赤字(前年同期は27億円の黒字)だった。カジュアル衣料事業は18億円の赤字(同6 億7200万円の赤字)で、アメリカンイーグルが撤退に追い込まれた。ミスターミニットを展開するリペアサービス事業は2億2100万円の赤字(同3億7400万円の赤字)、印刷・メディア事業は 1億6000万円の赤字(同4500万円の黒字)だった。唯一好調といっていいカード事業は17億円の黒字(同16億円の黒字)だった。

 こういった状況のため、不採算事業のてこ入れが不可欠だ。場合によっては、アメリカンイーグルを撤退したように、不採算事業から手を引くことも必要だろう。そして、大きな収益を生み出す事業の育成が不可欠だ。

 期待できそうなのは、外食事業だ。同社は焼肉店などを運営する物語コーポレーションとFC契約を結び、19年末時点で焼肉店「焼肉きんぐ」を35店、しゃぶしゃぶ店「ゆず庵」を12店、展開している。外食事業の業績は好調で、19年4〜9月期の売上高は前年同期から6億円増えて48億円、営業利益は1億円減ったものの2億円だった。

 青山商事はスーツ店「洋服の青山」の店舗敷地内の余剰地を有効活用するため、焼肉きんぐなど異業種の併設を進めている。スーツ店と外食店では来店客のピークとなる時間帯が異なるため、駐車場の稼働率を上げられる。また、相互送客で洋服の青山の集客にもつながる。

 青山商事が業績を回復させるには、スーツのテコ入れはもちろん、スーツ以外の事業の拡充が不可欠だ。今後、どういった手を打ってくるのかに注目したい。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。