新型コロナ禍はいまだ収束せず、第2波の襲来も懸念される。国民の生活は様変わりして、経済の回復も見通しは立っていない。タクシードライバーは景気の移り変わりをもっとも実感する職業と言われているが、現役ドライバーである私から見た大都会・東京を報告してみよう。

大手町や渋谷のオフィスビルは解約続出か

 まず、東京駅近辺のオフィス街。サラリーマンの数は6月より増えたものの、依然活発な動きは見られない。大手企業を中心にテレワークが進んでいるためだろうか。

 とあるお客さんの話では「大手町や渋谷のオフィスビルは解約が続出しているらしいですよ。特に渋谷は、オフィスが足りないと新たなビルの建設ラッシュだったのに、コロナでテレワークを一気に推し進めたものだから、オフィスは今までの半分から3分の1ぐらいでいいって会社も多いらしいです。それにしても、あんなに新規オープンさせて中がスカスカになったら、それだけで経済への影響は大きいですよね」

 確かに、莫大な建築費を使って建てられたビル群が無用の長物になってしまっては、不動産会社やオーナーなど、経営が火の車になってもおかしくはない。

 また、例年6月下旬は株主総会の時期であり、それに伴ってビジネスマンのタクシー移動も活発になるが、そんなお客さんの数は少ないままだ。私自身、大手町のオフィスビル周辺で仕事をすることが多かったのだが、4、5月はほとんどお客さんを乗せられず、6月のオフィスビル前での客待ちも、待ち時間が明らかに長い。

 タクシーの乗客のなかには些細なことでクレームをつける人も多いが、ビジネスマンはモラルのしっかりしている人が多く、クレーマーに当たる確率が低い。よって我々ドライバーとしても非常に仕事がしやすく、特に大手町は人気の営業場所だった。しかし、お客さんが少ないと、ほかの営業場所に向かうことになってしまう。

 ビジネスマンが少ないなら、我々が次に狙うのは「富裕層のタクシー利用」だ。六本木、麻布、白金、青山あたりを走っていると、土日はもちろん平日でもタクシー利用者が多く見受けられる。タクシー乗り場に並ばず、大通りを走っているだけで手が挙がることも多いのだ。また、銀座や日本橋のデパートも営業を再開しており、その近辺から乗車する富裕層の利用は元に戻った感じがする。

 新型コロナの影響は飲食・イベント産業を破壊したが、これらの業界で働く人々は低賃金だ。残酷にも、新型コロナはそういった低賃金層に致命的なダメージを与えたが、株価の動きやタクシーの乗客数などから、前述の地域に住んでいる富裕層や上場企業役員への影響は、現時点では少ないのではと感じる。通勤にタクシーを推奨している会社もあるらしく、私自身、朝夕に5000円以上のお客さんを乗せる回数が増えたと感じている。

 また、最近はスマホアプリからタクシーを呼んでくれる人も多く、利用者の多いポイントを把握すれば、アプリ経由で呼ばれることもよくある。このように富裕層の動きはコロナ前とあまり変わらず、売り上げ減少を食い止めてくれていると言える。

 しかし、富裕層はタクシーに乗り慣れている上、会社の経費ではない自腹乗車のためか、運転手に対する「あたり」は強い。道を少しでも間違えようものならクレームになることも多く、我々にとっては特に神経を使うお客さんだ。なので、願わくは大手町界隈のサラリーマンの需要が復活してほしいと思うところだ。

接待自粛で銀座のタクシー需要も激減

 日本一の繁華街と言われる銀座を中心に営業する、売り上げトップクラスの凄腕ドライバーに話を聞いた。

「当然ながら、日中は外国人がいないのでお客さんは減りました。デパートなんかは営業再開しても、利益が出るのかなって感じです。道路の渋滞は減って走りやすくなりましたけど、タクシーのお客さんも減ったのでうれしくないですね。夜も同じで、店は再開してもお客さんは以前のようにはいません。接待を自粛している会社が多いようです。接待客はタクシーチケットで長距離を利用することが多いのですが、ここ最近は減りましたね」

 銀座は長距離狙いのタクシーが集結し、大行列をつくる街だ。5月は多くのタクシー会社が休業し、台数も半分ほどだったが、6月になってから休業明けのタクシーが増加し、銀座の空車渋滞は激しくなるばかりだ。

 しかし、こんな話もしてくれた。

「私自身は、けっこう長距離のお客さんを乗せています。たぶん、こんな時期にわざわざ銀座まで来る人はよほど好きな人なので、遠くから来ているんでしょうね。私は『秘密のテクニック』で、そんなお客さんをつかまえています。6月末までは株主総会後の飲み会需要も少しばかりあったようで、少しお客さんが増えたかなと感じましたが、今は再び減っています。一時的なものでしたね」

 ほぼ毎出番、高速道路利用の長距離仕事を引いている彼の日報を見せてもらった。6/19は忙しい金曜日で1万円超えの仕事を3回、6/29は東京西部への1万5000円。7月1日、先月末とはうって変わって街の動きが鈍く、お客さんが極端に減ってはいたが、銀座から千葉県行きの1万5000円超えの仕事を2回、そのほかの日も5000円以上のお客さんを多数乗せている。

 私もドライバーとして少しでも稼ぎたいので、そのテクニックが何か知りたかったが、当然ながら秘密を教えてくれるはずもなく、コロナ禍でも高い売り上げをキープする彼をうらやましく思うのであった。

 そんなテクニックを持たない私は、仕方なく、少しでも人が多そうな新宿、渋谷、六本木で営業することが多いのだが、ここでもサラリーマン客が激減しており、長距離客など効率のいい仕事ができずに苦しんでいる。

車内で嘔吐、運転手に暴言…増えたトラブル客

 その代わり増えているのが、トラブルになりやすいお客さんだ。実数こそ増えてはいないが、モラルの高いサラリーマンが減ったので当たる確率が上がったのだと思われる。同僚のベテランドライバーは、最近2カ月で2回も嘔吐で車内を汚されたと嘆いていた。

「10年やってるけど、2カ月で2回なんて初めてだよ。前は1年に1回あるかどうかだったからね。運も悪いんだろうけど、明らかに悪酔いしてるお客さんが増えたよ。1回目は歌舞伎町から錦糸町まで、若い礼儀正しい女の子で安心していたんだけど、到着直前に後ろでゴボゴボって音がするもんだから『まさか!』という感じだったよ。見た目と雰囲気で完全に油断してたね。

 2回目は夕方かな。有楽町で手が挙がってドアを開けたら、泥酔者を押し込まれたんだよ。自分で立って歩けない人や住所が言えない人は断れる法律もあるんだけど、行き先が東京のはずれの羽村市で、家に人がいて介抱してもらえるというし、一気に稼げるもんだから、吐かれるのを覚悟で行っちゃったよ。普通に営業しても、とても稼げる状況じゃなかったからね。案の定吐かれたけど、2万近い売り上げになったし、その後もなんとか掃除して営業できたので、結果的によかったよ。それにしても、あんな夕方に泥酔してるなんて、以前では考えられなかったなぁ」

 泥酔者を乗せて車内で吐かれても、法人タクシー運転手は会社の方針で清掃代を請求しにくい。よって、掃除は自分でやるか、5000円ほど払って専門の洗車屋さんに頼むことになる。また、吐かれたらそこで営業終了になることも多く、そうなると1日の売り上げを大幅に失ってしまうので、嘔吐客はもっとも避けたいお客さんである。

 そのほか、私がコロナ後に出会ったお客さんで印象的だったのは、予約で呼ばれて料亭で乗せた女性だ。接待を受けた中年女性が同伴の男性と共に乗り込んできたのだが、その女性の態度がとにかくひどい。安全確認して進行しようとすると「早く行けよ!」、経路を確認すると「てめぇ、ナメてんのか?」と暴言を連発し、行き先の指示もままならない。到着した高級マンション前で降車後はほかの住民に暴言を吐きまくる始末で、これは警察沙汰かも、と思うほどタチが悪かった。

 同伴の男性は、女性と同乗中は非常に丁寧かつなだめるような対応だったが、女性が降車後「頭おかしいんじゃないの、あのクソ女」と独り言を言っていたのが印象的だった。あの態度では、そう言いたくもなるだろう。

 これらも、おそらくはコロナ自粛のストレスによる深酒が原因だ。その証に、繁華街で泥酔して座り込んでいる人を見かけることが多くなった。ほかにも、運賃を値切ろうとしてきたり、目的地へのルート指示を間違えたのにもかかわらず逆ギレしたりするなど、コロナ前に比べて、明らかにお客さんの民度が下がってしまったと感じる。

 民度が高い好マナーの乗客は、社会情勢の変化に対して自分を見失わないはず。そうしたお客さんが減ったことで、相対的に「トラブルになりやすい客」を乗せる確率が上がったのだと私は見ている。

ウーバーイーツの危険運転が放置されている理由

 もうひとつ嫌なのが、朝晩の渋滞が激しくなってきたことだ。感染対策で満員電車を避けるために車やバイク通勤が増えたことが原因だろう。以前は渋滞している=人の動きが多い=タクシーのお客さんも多い、という図式が成り立っていたが、今は渋滞だけ激しく、お客さんは少ない状況だ。

 また、通勤バイクや自転車が増えたのに加え、ウーバーイーツの危険運転も深刻だ。巣ごもり需要で利用が増えた上に、コロナ失業や休業で副収入を求めるウーバーイーツ登録者も激増し、交通法規無視の乱暴な運転をよく見かけるようになった。いつ事故が起こってもおかしくない状況であり、実際に接触事故が多発している。ようやく警察も重い腰を上げて指導、取り締まりを行うようになった。

 しかし、ウーバーイーツはあまりにも数が多い上に、自転車を取り締まっても警察の反則金収入にならないこともあり、指導、取り締まりは追いついていない。そんな無謀運転の自転車と事故を起こした場合、弱者保護の原則から過失割合はタクシー側が高くなる。

 あるドライバーはこんな話をしてくれた。

「雨が急に降ってきた深夜11時頃、住宅街で客を降ろし走りだした直後、一時停止を無視した自転車が私の車の左側面に飛び込んできました。若い女性はすぐに立ち上がり、ほとんどケガもなかったのでホッとしました。私は40キロの道路を45キロほどで走っており、女性も車の左側面にぶつかっていました。避けようにも避けられない事故で、反則金を取られることもなく点数も減りませんでしたが、保険会社の査定は6対4で、運転手の過失割合が高くなるんです」

 この件は不幸中の幸いだったが、ケガの度合いや過失割合によっては、罰金に加え免停で仕事を失うリスクもある。よって、我々タクシードライバーは彼らと事故を起こさないよう、今まで以上に厳重な注意が求められるが、急に飛び出してきてヒヤッとさせられることもままあり、かなり危険な環境で仕事せざるを得なくなっている。

 新型コロナウイルスによって、タクシードライバーはかつてない苦境に立たされている。売り上げが大幅に減少しただけではなく、仕事のしづらい環境に変化してしまったのは非常に残念だ。早く収束して、平穏な東京に戻ってくれることを願わざるを得ない。

(文=前川佳樹/ライター兼タクシードライバー)