【肉好きの人は必読】幻の特級ハム、1本千円超えでも好調な販売、贅沢すぎる材料と製法

【肉好きの人は必読】幻の特級ハム、1本千円超えでも好調な販売、贅沢すぎる材料と製法

 地方の高速道路のサービスエリアや道の駅の売店に立ち寄ると、大型スーパーやコンビニエンスストアなどではお目にかからない地方の特産品を見かけることができる。しかも、そうした商品の数の多さに驚かされることも少なくない。

 もちろん、たとえば家族レベルの規模で生産し、エリアを絞り、販売量は少ないながらも、安売りを回避し、適正な利益を確保できているなら、それは大いに成功したビジネスであるといえるであろう。

 しかし、地方特産品の多くが発売後、あっという間に店頭から消えてしまう、もしくは販売を継続してはいるものの、まったく儲からないという事態に陥っているようである。

 市場を拡大していけば、規模の経済に勝る大手メーカーとの競争という事態に陥り、こうした競争にいかにして打ち勝つか、もしくは競争をいかに避けるかということが重要なポイントになってくるであろう。こうした地方特産品が取り組むべきマーケティングについて、岐阜県郡上市の特産品である明方(みょうがた)ハムを事例に検討していく。情報収集に際し、めぐみの農業協同組合本店営農部加工事業所所長の和田雅津氏より協力を得た。

●テレビ放送で知名度が全国区に

 明方ハムの歴史は、昭和28年にまで遡ることができる。当時の農村部では、野菜を中心とした食事となっており、たんぱく質不足の問題が指摘されていた。こうしたなか、農協は組合員を含めた地元の農村部の消費者に向けて、ハムの製造・販売を開始した。

 しかし、地元でハムは高級品と捉えられ、一方、ほかの地域では知名度の低さから大手メーカーに太刀打ちできず、販売は不振を極めた。その後、昭和40年代後半に入り、消費者のニーズが変わり始める。それまでは価格や量を重視していたが、品質に重きを置きだしたのである。こうした環境において、明方ハムが手づくりであることや、添加物が少ないことに徐々に注目が集まってきた。さらに、昭和55年に『明るい農村』(NHK)で全国放送されると大きな話題となり、「幻のハム」といわれるほどの人気商品となった。平成13年度に販売数は100万本の大台に乗り、以後、順調に売り上げを拡大させている。

●明方ハムの特徴

 ハムには、ロースハムやボンレスハムなど、さまざまな種類があるが、代表的な商品である明方ハムはプレスハムに属する。プレスハムとは、日本独自の製法であり、寄せハムとも呼ばれ、肉塊を少量のつなぎと混ぜ合わせてケーシングに詰めてつくる。昭和40年頃までは、日本ではこのプレスハムが一般的であった。

 プレスハムのなかでも、肉塊の割合が90%以上で、かつ豚肉100%のプレスハムのことを「特級プレスハム」と呼ぶが、明方ハムはこの特級プレスハムに属している。原料には国産の豚もも肉を使用し、手間ひまを惜しまない手づくり製法により、昔ながらの味を守り続けている。具体的には、国産の新鮮な冷蔵豚肉の大きな塊の肉を小さく角切りし、スジ、脂肪、軟骨、血合い、血管等を取り除いている。こうした丁寧な手仕事により、原料の約25%はハムに使わないことになる。

 さらに、過去の経験を生かし、角切りにした豚肉と脂肪を定量で混ぜ合わせ、水を一切使わず塩、砂糖と少量の添加物を肉に練り込み、約2週間熟成させ、その後、充填、殺菌ボイルというプロセスを経て完成させている。もちろん、保存料、着色料、酸化防止剤、増量剤は使用していない。こうした製法は、たとえ大手メーカーであっても規模の経済が働きにくく、明方ハムのメリットとも捉えられるだろう。

 スーパーで販売されている大量生産されたハムは通常、肉と同量の液体が注入されており、こうしたことを行わない明方ハムの原価率はかなり高い。自社のオンラインショップで税込み1190円(400g)で販売されているハムは、大手なら2000円くらいの価格になるだろう。こうした点に関して、利益重視の民間企業ではなく、農協ゆえ、少ない利幅でも事業を継続できている面もあるらしい。

●明方ハムの成功要因

 大手メーカーがひしめくハム業界で、長きにわたり事業を継続できた要因として、単品経営が挙げられる。60年にわたり、明方ハムというひとつの商品を製造・販売してきた。利益拡大を重視する民間企業であれば、商品ラインアップの拡大も徹底して行ったであろうが、安定した経営を重視する農協という組織の特性により、堅実経営が行われてきたのである。

 こうした長期にわたる単品経営のメリットとして、すでに確固とした信用に基づくブランドがあるため、広告や営業に大きな投資を行う必要がない点などが挙げられる。実際、3年前までは営業部隊すら存在しなかった。

 販売エリアは地元である岐阜県をはじめ、東海圏が中心になっている。東海圏外に販売することもあるが、輸送コストが上昇することに加え、東海圏外では商品のブランドが認知されていないという問題がある。また、それぞれの地方には独自のニーズがあり、うまく対応できない部分もあるようだ。たとえば、薄味で知られる関西では塩味が強いと感じる消費者が多い、関東ではカラーフィルムで包装され、中身が目視できないパッケージに不安を感じる消費者が多いなどである。

●より強いブランドの構築へ

 長きにわたり単品経営を行ってきたが、ここ5年、商品ラインアップを拡大させている。デフレの進行や競争環境が激化するなか、低価格競争を回避するには製品の品質は当然のこと、強いブランドが必要となる。単品では売り場においてインパクトがなく、明方ハムのコーナーを設けてもらうためには、ある程度の商品のバリエーションが必要となってくる。こうした商品の拡大に関しては、以前より流通業者から要望されていたこともあり、組織内で激しくもめることなく、意思決定が行われている。

 拡大した商品に注目すると、地元岐阜県産の銘柄豚「美濃ヘルシーポーク」のみを使用した健康志向のハム、ギフト向けの高級品となる味の極みシリーズ、醤油パウダーを練り込んだフランクフルトなどが、人気の商品となっている。

 以前は、社内の多くのスタッフを対象にマーケティングリサーチのようなことを行っていたが、なかなか意見がまとまらず有益ではないケースが目立った。そこで現在は、あまり細かい指示を出さず、職人に「いいものをつくってくれ」と任せる開発方法が主流となっている。現実には、「売ってみないとわからない」というのが正直なところであり、どんどんと試作品をつくり、まずは店頭に並べている。

 もちろん、こうした試作品のような商品を正式な流通ルートに載せることはできず、めぐみの農業協同組合が運営する「とれったひろば」というファーマーズマーケット内に出店している直売所で販売している。将来的には、こうした直営店において、一人ひとりの個客の要望に応えたハムなどを生産したいという意向を持っている。こうした消費者との接点として、直売所の役割は今後ますます大きくなってきそうである。

●「真っ正直なハム」

 強いブランドの構築を目指し、以前は伝統や高級感を前面にPRしていたが、今の消費者には、値段が高い理由を納得してもらう必要がある。そこで、「真っ正直なハム」をキャッチコピーとして積極的に展開している。素材、製法、製品開発など、すべてにおいて真摯に誠実に行うという意味が込められており、結果、「当社の商品は安売りできない」「これだけのことをしているのだから、この価格は正当である」と消費者に理解してもらうことが意図されている。さらに、緑豊かな地元郡上は東海圏では人気の観光地であり、こうした良いイメージのある郡上とタッグを組んだPRにも取り組んでいる。

 今後は、「とれったひろば」における直営店などを活用し、消費者に「つくる」「みせる」「体験させる」といったことを積極的に展開していく予定だ。すでに、不定期ではあるものの、手づくりハム体験などのイベントを行っている。イベントにおいては、ブタはどういうものかということから知ってもらい、消費者の品質へのこだわりをさらに高め、大手ではなかなか真似のできない「真っ正直なハム」である明方ハムの価値を高めている。また、自社商品を中心とするレストランの運営などへの意向もある。これらの取組を通じて、食育をはじめとする消費者教育を行い、消費者に自社の商品が高い理由を理解してもらえればと考えている。

 最後に、海外市場への販売に関しては、実際、現在の生産能力では取り組むことは難しい状況である。しかし、今後の日本市場の縮小を考えると、将来に向けて検討を始めるべきであると捉えている。たとえば、台湾、タイ、シンガポールなどでは、現地の邦人だけを対象にしても、中小メーカーにとってはビジネスが成立する規模になるようである。輸送に関しては、船便では消費期限が短くなってしまう。空輸の場合、1.5〜2倍程度の価格になるようだが、それでもなお現地で受け入れられる可能性は十分にあるとの認識であった。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

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