マック、謎のベールに包まれた誕生と繁栄の秘密…実質的創業者を破綻させた「強欲経営」

マック、謎のベールに包まれた誕生と繁栄の秘密…実質的創業者を破綻させた「強欲経営」

 映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』(監督:ジョン・リー・ハンコック)が封切られたので見に行った。原題は『The Founder(創業者)』で、マクドナルドを創設したレイ・クロック(1902―84年)が展開した創業物語である。

 映画の宣伝文句に「彼はどのようにして巨大企業を築き上げていったのか? この夏、誰もが知っているマクドナルドの、誰も知らない誕生のウラが暴かれる!」とあったのだが、私は知っていた。というのは、私は87年に出版された『ビッグマック マクドナルドに学ぶ100億ドルビジネスのノウハウ』(M.ボアーズ、S.チェーン/啓学出版)の翻訳を担当したからだ。原書は76年に出版され、著者は2人のジャーナリストである。

 レイ・クロックという経営者は毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい人で、というよりあまりに露骨で強欲な事業拡張ぶりのために、存命中から批判を受けていた。ボアーズとチェーンは批判的な立場でこの巨大ファーストフードチェーンの拡大の軌跡を追い、クロックのいってみれば悪辣振りを詳細に再構成した。その、野党的な視点に私も共鳴したので翻訳を引き受けたという経緯があった。

●強引、強欲な拡大志向、レイ・クロック

 同書が出版された同じ年、題材がかぶってしまった『マクドナルド わが豊饒の人材』(ジョン・F. ラブ著/徳岡孝夫訳/ダイヤモンド社)が出版された。前者がレイ・クロックに対して批判的(はっきり言って非難的)、つまり野党的なのに対し、後者はマクドナルド・ビジネスを賞賛的に紹介する、いわば与党的な書物だった。

『マクドナルド』にはマクドナルドでハンバーガーと交換できるクーポンが付けられたため多く売れ、私の『ビッグマック』を置き去りにした。もっとも、『ビッグマック』も3刷までいくほどには売れた。

 映画『ファウンダー』でレイ・クロックのなりふり構わない拡張の道程を見て、書籍『マクドナルド』のユニークな拡販政策を懐かしく思い出した。

 カリフォルニアで大繁盛をしていたマクドナルド店にやってきたレイ・クロックは、くたびれたミルクシェイク用ミキサーのセールスマンだった。マック・マクドナルドとディック・マクドナルドという2人の兄弟が開発した店舗のオペレーション・システムは、当時としては画期的なスピードを実現していた。普通のレストランでハンバーガーを頼むと30分も待たされていたところを、キッチン作業の「T−フォード化」と、フードメニュ−を3つだけに絞るという施策によって、オーダー後30秒の提供を実現していたのである。

 地域内での成功に満足していて、かつ品質の担保にこだわる兄弟を説得して、クロックは全国展開の権利の獲得に成功する。そして、フランチャイズ・システム(FC)によってアメリカ全土にマクドナルド店舗をオープンしていくのだ。このへんの権利の獲得、初期の拡大に典型的なアントレプレナーシップ(起業家精神)を見ることができる。

●ビジネスモデルの転換、マックは不動産業だ

 映画では個性派俳優のマイケル・キートンがクロック役をやっていた。クロックの強欲な個性を出そうと熱演していたが、観客としてそこまでのめりこめなかったのは、過剰な演技のために“クサく”なってしまったためだろうか。店舗拡大が順調にいき始めると、クロックの会社(この時点ではまだ「マクドナルド」を名乗っていない)は運転資金がショートする。自宅も抵当に入れ、それにより妻との関係が悪化し始めた。

 当時、FC店から支払われるロイヤリティが売上高の1.4%で、クロックはマクドナルド兄弟に0.9%を上納する契約だった。その差額だけでは資金が足りなくなった。家のローンの支払い猶予を依頼するために銀行を訪れたクロックは、そこでとある金融マンと出会い、ビジネスモデルの変更を示唆される。

 その金融マンは「マックの実態は食品ではない、不動産業だ」と言うのだ。この助言により、クロックは土地と店を本部が所有し、FCに貸すというやり方に意識的に転換した。家賃収入や、開業時での不動産契約金などが入るようになったのだ。

 この金融マンはクロックに合流し、その後マクドナルド・コーポレーションの初代社長となったハリー・ソネボーンである。個人宅のローンの支払いができない経営者が、多数の店舗用の土地や家屋のための資金の手当てができたのが不思議で、そこは映画では説明されていない。拙訳書では次のように説明している。

「クロックはあちこちの銀行に断られた挙げ句、ソネボーンがかき集めた1,500万ドルが投資された。ニューイングランドの保険会社数社から、法外な利子で融資を受けたのである」(同書、36ページ)

●マック帝国の独裁者

 独裁者は孤独を意に介さない。ソネボーンはマクドナルド本社においてCFO(最高財務責任者)から初代社長へと昇格するのだが、CEOとして独善的にふるまうクロックに嫌気がさし、1967年に辞任する。その後、マクドナルドの店舗には二度と立ち寄ることはなかった。

 マクドナルド帝国が形成され裕福となったクロックは、糟糠(そうこう)の妻であるジェーン・ドビンズ・グリーンと離婚し、翌1969年に有力FCオーナーの妻であったジョアンと再婚する。いわば略奪婚であり、それもビジネス・パートナーであり重要顧客でもあった相手から奪ってしまった。

 ビジネスの基本モデルを提供したマクドナルド兄弟との契約では、店舗の改装にはすべて兄弟側の許諾が必要とされ、オペレーションの改善などで大いに手を縛られたクロックは不満を募らせていた。一方、契約で許されていないマクドナルド社をクロックが設立してしまうなど、両者の対立が深まっていった。

 結局、クロックは270万ドルを兄弟に支払い、「マクドナルド」の名称やロゴ、オペレーションのノウハウなどすべて買い取る。映画にもあるのだが、それ以外にチェーンの売り上げの0.5%を将来的に支払う、という「紳士協定」を申し入れたわけだが、これは反故にされている。

 それどころか、兄弟のオリジナル店に「マクドナルド」の名称使用を認めず、兄弟がやむなく「ビッグ・マック」という店名に変更すると、その筋向いにマクドナルドの大型店舗を出店して、兄弟の店を倒産に追い込んでしまうのである。

●脇役、フレッド・ターナー

 映画で、クロックの第1号店で働き始めたフレッド・ターナーが紹介されている。しかし、マクドナルドの大発展におけるターナーの大活躍は描かれていない。ターナーこそが同社の有名なQSC(クオリティ、サービス、クリンリネス)を提唱し、社内研修機関であるハンバーガー・ユニバーシティを創設、運営した人物だ。ターナーはクロックに息子のようにかわいがられ、クロックの後にCEOに就任し、同社を118カ国に進出させた。

 マイケル・キートンは熱演しているが、キャラクターが悪役なので、そのアップとたびたびの咆哮で暑苦しい。最後の場面でキートンが「ビジネスに必要なのは執着だ!」と何度も獅子吼(ししく)するのだが、画面が切り替わり生前のクロックが同じフレーズをカメラ目線で決め付けた映像で終わる。私には、レイ・クロックがトランプ大統領と重なって見えた。トランプ氏も実業家だし、「ディール・メーカー」としてのし上がった人物だ。教養がなくてもアメリカ大統領くらいにはなれるという好例だ。

 人を大切にしない主人公の成功譚とその主張がメインの映画なので、後味がいいとはいえない。アメリカ人にとってレイ・クロックは有名人なので、その一代記映画としてアメリカでは興味が持たれたのだろう。興行成績もまずまずだったそうだが、日本ではどうか。

 この映画からビジネスパーソンが得られる知見としては、「事業の成功と高邁な人格は関係ない」ということであり、「事業家として重要な資質は、脊髄反射的な判断力と、行動力」ということだ。それで勝負する経営者もいるということに尽きるだろう。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)

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