中国の時代、幕開けか…中国崩壊説は時代遅れ、ついに30年前の改革開放が結実

中国の時代、幕開けか…中国崩壊説は時代遅れ、ついに30年前の改革開放が結実

 本連載前回記事では、世界で活躍する天才投資家としてジョージ・ソロスに焦点を当てたが、今回はソロス氏とともに「クォンタム・ファンド」を立ち上げ、10年間で4000%を超える驚異的なリターンを実現したジム・ロジャーズ氏を取り上げたい。

 ロジャーズ氏は米ニューヨークのウォール街では伝説的な人物であり、37歳で現役引退した後、冒険家として活躍中だ。バイクによる初の世界6大陸横断、ベンツでの世界116カ国走破は、いずれもギネスブックに認定されているほど。自らの経験を元に、各国の長期的な経済成長の流れを読み、投資に活かす手法を編み出し、「冒険投資家」の道を歩んでいる。実に行動力あふれるヘッジファンドのヒーローといえよう。

 そんな先読みの天才投資家だが、こと日本や中国の未来についてはジョージ・ソロス氏と似た点もあれば、まったく異なる点もあり、実に興味深い限りである。小生の質問に対してロジャーズ氏は次のように答えている。

「日本はまだ豊かです。しかし、将来は中国の時代になるでしょう。これは歴史のサイクルです。中国は長い歴史のなかで、世界に覇をとなえた時もあれば、植民地化された時もあります。成功と失敗の両極端を歩んできた国です。19世紀後半から20世紀は、中国にとって悲惨な時代でした。今、その流れが大きく変わろうとしているのです。これから中国は豊かになるでしょう。間違いありません」

 要は、かつてフランスの皇帝ナポレオンが「中国は眠れる巨人で、目覚めれば世界を震撼させる」と予言したように、1978年に鄧小平が蒔いた改革開放政策の種が実を結ぶ時期が近づいているというわけだ。確かに、たった30年で日本を抜き、アメリカにも肉薄する経済大国に変貌した中国のバイタリティは世界を驚かせている。

 とはいえ、中国のバブル崩壊を危惧する声には根強いものがある。この点を尋ねると、ロジャーズ氏の見方は明快だった。

「中国を覆う貧富の差や地域間の格差の拡大を懸念する声は承知しています。ご指摘の点は確かでしょう。しかし、そんなことは、どこの国でも起こりうること。遅かれ早かれ、中国経済は調整局面に入るはず。しかし、それはさらなる飛躍への踏み台のようなもの。日本でも似たような経験を積み重ねてきたはず。混乱もあるでしょうが、アメリカだって過去200年以上の間に15回を超える不況を経験しています。日本も同様でしょう。中国はハードランディングによって、かえって国際化がスムーズに進むと見ています」

●日本は中国に投資すべき

 では、アメリカの将来はどうだろうか。「アメリカに肩入れするのは愚か」ということになる。なぜか。答えは明確だ。

「日本は世界最大の債権国です。アメリカはその反対で、世界最悪の債務国、いわゆる経済破綻同然の借金まみれ。日本政府がアメリカ国債を律儀に買い入れていますが、完全に間違っています。ドルを買い支えたり、アメリカ国債を買い増したりするくらいなら、中国に投資すべきです。日本は中国経済の発展や調整の過程で大儲けできるチャンスがいくらでもあります。実に恵まれたポジションにいます。中国脅威論や中国崩壊シナリオをもっともらしく唱える人々もいますが、中国に行ってみてください。そんな時代遅れの見方は氷解するでしょう」(ロジャーズ氏)

 アメリカの限界を見据えている点ではソロス氏と相通じるものがある。とはいえ、米中の対立が第3次世界大戦に発展する可能性については、ロジャーズ氏は即座に否定した。

「中国人は賢いですよ。アメリカと事を構えるようなバカなことはしないでしょう。少なくとも今後20年程度はね。これまで一人っ子政策を続けてきたため、戦争ができない国になっているからです。何しろ、どの家も基本的には子どもは一人だけ。大事な一人息子を海外の戦場に送るようなことになれば、それこそ革命が起こります」

「自分が何をしようとしているのか、わからない時には、何もするな」

 これがロジャーズ氏のアドバイスだ。これはソロス氏にも共通すること。ソロス氏も「成功するには気分転換が欠かせない。何もしない時間も貴重だ。忍耐力を養うことになる」と言う。

 それでは英気を養った後、市場を理解するためには何をすればいいのか。自分や家族、そして会社や組織を守るには、どうすればいいのか。ソロス氏とロジャーズ氏が口を揃えるのは、「読むこと」の重要性である。もちろん情報収集と称して単に本やネットを漁るということではない。集中力をもって情報源と向き合うことが大事ということだ。

 勝負をかけようとする、狙った世界で定評のある文献は当然だが、同時にマーケットに影響を与えるような一般読者がよく目を通すメディアのチェックも重要となる。こうした情報収集と分析を重ねていくと、あるトレンドが浮かび上がる。そこを押さえた上で、そうしたトレンドの牽引車となる経営者や研究者を訪ね、自分の五感で、投資に値するかどうかの最終判断を下すというのである。

 現在、ソロス氏もロジャーズ氏も日本や中国の将来に熱い関心を寄せ、情報の収集と分析に日夜、集中的に取り組んでいる。われわれ日本人も安閑としているわけにはいかない。混乱はチャンスである。ましてや戦争や大災害は千載一遇の大勝負の場となるだろう。

 ソロス氏の言うように、動乱期こそ投資の機会は増えるに違いない。確かにその通りであろう。しかし、ソロス氏やロジャーズ氏に限らず、マネーゲームのプレイヤーたちは、メディアを操り、こうした混乱を意図的に仕掛けるプロであることを忘れてはいけない。われわれには常に反対意見や多様な情報に接し、彼らの餌食にならない冷静な判断力を養うことが求められている。それこそが、日本人のサバイバルにつながるはずだ。

●ジェフ・ベゾスの「先見の明」

 さて、3番目に取り上げるのは、ジェフ・ベゾス氏である。言わずと知れたアマゾンの創業社長だ。1964年1月生まれ。父親はサーカスの一輪車乗り。母親はまだ10代で彼を生むと即離婚。再婚相手はキューバから単身15歳でアメリカに逃れてきたマイク・ベゾス氏だった。苦労して石油会社エクソンの技術者となった、その新たな父親の影響もあってか、幼い頃から技術に関心を持ち、コンピュータに魅せられた。

 また、ベゾスは祖父から大きな教えを受けたと述懐する。

「祖父の教えは忘れられない。賢くなるより、人を大切にすることのほうが難しい、と教えられた」

 1994年、それまで勤めていたニューヨークの投資会社を辞め、シアトルの自宅ガレージから事業をスタートし、瞬く間に「アメリカン・ドリーム」を実現したネット販売の雄である。彼のモットーは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」。

 急速に成長しそうなインターネットをビジネスに活かす方法を考え抜き、可能性のありそうな50近くの業種のなかから、まずは書籍販売を選択し、成功のきっかけをつかんだ。今では生活に必要なあらゆる商品を最低価格で最速で消費者に届けるシステムを構築している。最初に書籍販売に着目したのは、この分野の流通業界では最大のシェアを持つ会社でも市場占有率は12%にすぎず、新規参入者にとって大きな阻害要因とならないと判断したからだという。

 しかも、大手の出版社や取次店が密集するニューヨークやボストンなど東海岸ではなく、そうした影響の及ばない西海岸のシアトルを創業の地に選んだのは、確かに「先見の明あり」といえるだろう。

 というのは、シアトルにはマイクロソフトやボーイングの本社もあり、ハイテク関連の技術者が選り取り見取りだったからだ。従来の書店での販売ではいくら品揃えを増やしても、スペースで陳列できる本の数には限界がある。しかし、ネット上であれば在庫もいらず、無限大の品揃えを誇ることができる。その点を生かし、ベゾスは「世界最大の書店」と銘打ったのである。その上、ネットビジネスであれば販売店舗がいらないため、税金も免除されるという特典を享受できた。

●メディア、小売り、そして宇宙へ

 ベゾス氏の成功の軌跡は、常に消費者目線に寄り添った歴史といえる。第一の成功のステップは「本好き」に寄り添い、多様な品揃えから「安く、早く」を実現した。第二の成功は「ニュース好き」を虜にしたこと。アメリカの有力新聞ワシントンポストを買収し、ケーブルテレビのニュースに飽き足らない「ニュースオタク」の取り込みに成功。トランプ大統領に言わせれば、「アマゾン・ワシントンポストは独占企業のアマゾンを有利にするメディアにほかならない」となる。

 歴史ある新聞とはいえ、ネット時代には乗り遅れ、読者が減少し、赤字経営に転落していたワシントンポストをポケットマネー2億5000万ドルで買い取ったのにはワケがある。それは紙媒体ではなく、読者が求める「手軽に早くニュースに接したい」という要求に応えることで、新たなメディアの在り方がありうると確信したからに違いない。実際、ネット版の同紙は数カ月で100万人を超える読者を増やし、買収後2年で黒字化を達成してしまった。ベゾス氏は言う。

「ニュースの中身を研ぎ澄ませ。そうすれば、読者はお金を払う」

 そんなベゾス氏が2017年6月、新たな企業買収で世界を驚かせた。なんと、自然・有機食品の小売り最大手のホールフーズを137億ドル(約1兆5100億円)で買収すると発表したのである。一見、まったく異業種のように思われるが、消費者の求める健康食への関心の高まりに着目した決断であろう。

 しかも、全米に展開する大型スーパーのウォールマートと一線を画し、ホールフーズは高級志向で富裕層を顧客に掴んできたことにアライアンスの妙味を見出したのである。これまでアマゾンは食品配送のサービスも展開しており、この分野でのデータを集積してきている。しかし、自らが食品販売やレストラン事業に進出するには強力なパートナーが必要であった。すでに全米2000カ所に店舗を展開するホールフーズを取得すれば、顧客を囲い込むことができる上に、新たなレストラン事業の拠点を一気に確保できるというわけだ。

 これまでホールフーズは高級志向で一定の富裕層を顧客として成長してきたのだが、健康志向の消費者が急増するにつけ、農家の直売所や有機食材の専門店にシェアを奪われ始めていた。そこでアマゾンとすれば、付加価値の高い健康ビジネスに衣替えを図ることでホールフーズを再生させようと考えたと思われる。

 アマゾンの強みは膨大な顧客データである。消費者が何を、いつ、どの程度の価格であれば買うのか、という予測できることをシステムを構築している。こうしたデータ・マイニングの知見を元に、高級な商品であっても競合企業より有利な条件で販売することができるのは強みであろう。

 こうした強みを獲得できるのも、消費者の動向を常に把握し、その受け皿となる新サービスにつなげる試行錯誤を重ねてきたからだ。その集大成こそが「異業種とのアライアンス戦略」にほかならない。また、そうしたアライアンスのパートナーを誰にするかという決断を下すのはトップであるべゾス氏本人であり、そのスピードは速い。

 人は食べずには生きていけない。そして健康長寿は万人の願いである。そこに自然・有機食材への期待が集まっているわけで、そのトレンドを加速させるべく、出版、メディア、ネット、店舗でのPRにベゾス氏はこれまでの経験を投入しようとしているようだ。食品を扱う従来型のスーパーや専門店はアマゾン旋風に飲み込まれることになるだろう。

 こうした流れは世界最大の消費者を抱える中国でも、すでに起こり始めている。世界のビジネストレンドから周回遅れの日本でも早晩、新たな旋風が巻き起こるに違いない。アライアンスのパートナーになりうる革新企業であることが、新たな国際競争時代におけるサバイバル条件となる。そして、ベゾス氏の快進撃は止まるところを知らないようだ。

 彼が新たに立ち上げたのは、子供の頃からの夢を実現するベンチャーである。それは「宇宙旅行」。それまで一回の使い切りだった宇宙船を再利用できるようにした。「ブルー・オリジン」という名の会社は「誰でも手軽に宇宙旅行を楽しめる」というのがモットーだ。この分野ではヴァージングループのリチャード・ブランソン会長とアライアンスを組んでいる。

 2017年、瞬間的にビル・ゲイツ氏を抜いて世界一の資産家の地位を占めたベゾス氏。それだけ大金持ちでありながら、移動の飛行機は常にエコノミークラスにこだわる。「無駄口をたたくな。時間を大切に。後悔するなら失敗を選べ」が口癖だ。「ベンチャー界のゴッドファーザー」から目が離せない。日本発のベンチャー起業家の出現を期待したい。
(文=浜田和幸/国際政治経済学者)


関連記事

Business Journalの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

経済 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

経済 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索