全自動コーヒー抽出器「FURUMAI」が密かにブーム…有名バリスタたちのノウハウ凝縮

全自動コーヒー抽出器「FURUMAI」が密かにブーム…有名バリスタたちのノウハウ凝縮

--「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。--

 9月26日から28日までの3日間、東京ビッグサイトで「SCAJ2018」という展示会が開催された。SCAJとは、日本スペシャルティコーヒー(Specialty Coffee Association of Japan)の略で、“アジア最大のスペシャルティコーヒーイベント”を掲げ、コーヒー業界の各社が会場内に専用ブースを出すほか、各種のコーヒーの大会も実施された。

●コーヒー職人を勝たせる「バリスタトレーナー」

 もっとも関心を集めたのが「JBC(ジャパンバリスタチャンピオンシップ)の準決勝・決勝」(26〜27日)で、コーヒー職人であるバリスタの国内選手権だ。制限時間15分でそれぞれに工夫した「エスプレッソ」「ミルクビバレッジ」「シグネチャービバレッジ」の3種類のコーヒーを淹れる。味はもちろん、一連の言動を清潔感・創造性・技術などから審査される。

 実は、決勝に残った6人のファイナリストのうち、優勝した山本知子氏(「ウニール」ヘッドバリスタ)をはじめとする4人は、「バリスタトレーナー」と呼ばれる同じコーチの指導を受けた。それがアクトコーヒープランニング代表取締役・阪本義治氏だ。

 44歳の同氏は、これまで世界王者をはじめ日本有数のバリスタを育成して大会に送り出した。現在も20代から40代までのバリスタが多数指導を仰ぐ。その功績が認められ、外食産業記者会が選ぶ「外食アワード2017」を中間流通・外食支援者部門で受賞した。

 現在「バリスタトレーナー」としては、阪本氏が第一人者だ。だが、もともとは格闘家をめざした青年だった。今回は同氏の活動とともに、コーヒー業界の動きも紹介したい。

●「競技会」には気づきも多い

 バリスタは、若者に人気の職業のひとつ。志望動機はさまざまだが、「多様な種類があるコーヒーや、デリケートな淹れ方に興味を持った」「自己表現ができる」と話す人が多い。

 だが、大会で優勝をめざすバリスタは厳しい世界だ。上位入賞すれば、社内外のセミナーに呼ばれることも増え、なかには独立する人もいるが、阪本氏は「すべてのバリスタが競技会に出るべきとは思わない。向き不向きもあれば、タイミングもある」と話し、こう続ける。

「ただし、競技会出場はPDCAサイクルも実感でき、本人には最高の成長の機会になります」

 競技会を取材すると、多くの気づきがある。出場するバリスタは、審査員に四方から厳しくチェックされるので、プレゼンテーションの参考になる。筆者は仕事柄、多くのプレゼンを見てきたが、ここまで衆人環視の中で言動の成果を求められる例は少ないだろう。

 各バリスタの大会にかける思いも熱い。今年の大会は、知人のメディア関係者数人と観戦したが、「優勝を逃したバリスタの悔しそうな表情を見て、ここまで本気で仕事に打ち込むのはすごいと驚き、うらやましさも感じました」(20代の女性会社員)という声も聞いた。

●「大会出場はチャンス」と考える人が成長する

 十数年にわたりバリスタをコーチしてきた阪本氏は、「競技会で勝つために大切なことは、ハッキリしている」と語り、基本中の基本として次の2点を上げる。

(1)「本気でやりたい」というバリスタがいる
(2)経営者や幹部が、大会への取り組みを真剣にバックアップする

「その店にバリスタがいても、本人が乗り気でなければ意味がない。厳しい言い方ですが、会社が教育の機会を与えようとしても、乗り気でない人には機会を与える価値はありません。人材育成とは『時間』や『お金』を先行投資するもので、成果が未知数の人材に期待するものです。本人が『自己成長のチャンス』と考えるかどうかです」(阪本氏)

●勝つためには「会社の支援」が不可欠

 2つめは、経営者や幹部が「大会への取り組みを真剣に支援しているか」だという。

「日本人初の世界王者となった井崎英典バリスタをはじめ、長野県の丸山珈琲が何年も優勝し続けた理由は、丸山健太郎社長がもっとも情熱的に競技会の上位入賞を推し進めたからです。近年、上位入賞を続ける茨城県のサザコーヒーも同様で、鈴木太郎副社長や小泉準一取締役の熱意や支援は、チームの成長に非常に大きな貢献をしています」(同)

 逆に、活動に否定的な経営者や幹部もいる。「店の売り上げに直結しない」「上位に入ったら、練習時間や環境を整える」と言い放つ上司もいる。「地道に繰り返す練習は、楽ではありません。そもそも上位入賞をめざして練習するのに、『上位に入ったら練習時間を与える』とは本末転倒です」と阪本氏は嘆く。そうした環境のバリスタは、業務以外の私生活の大半を練習に割き、コーヒー豆を自腹で購入するなど厳しい戦いを強いられる。

 多くのバリスタを指導する阪本氏は、相手の性格や状況に応じて、コーチング、ティーチング、メンタリング、コンディショニングを行う。だが、最後は本人の「自問自答」だと話す。コーヒーの競技会だけでなく、さまざまなビジネスシーンに共通する話に思える。


●プロ格闘家をめざし、コーヒー業界に方向転換

 北海道札幌市出身の阪本氏は、「サンボ」などに魅せられプロ格闘家をめざして上京した。だが、格闘家としての限界を悟る。その後は、同時並行で勤めていた大手飲食チェーンの業務に没頭。店舗経営部で各店の営業支援を担当する。早くに出世し、30歳で約200店舗、100人以上の部下を持つ。この経験で「店」や「人」を支援するという、自らの資質に気づいた。

 転機は2005年だった。次に進む道を模索して、転職支援会社に紹介を受けたエムフーズ(パチンコのマルハンの100%子会社で現マルハンダイニング)に入社。同社の新規事業で、米国のスペシャルティーコーヒー「ZOKA」(ゾッカ/シアトル系のコーヒーロースター)を日本で展開するプロジェクトに店舗運営の総責任者として参加する。

 喫茶業界の潮流が、昭和型の「喫茶店」から平成型の「カフェ」に移行し、新しいコーヒーの世界も芽生え、バリスタという職種が注目を浴びた「時代性」も同氏に味方した。

 業界の旧習に染まっていない阪本氏は、すぐに結果を残した。早くも2年後には、指導したバリスタが準優勝。2007年に丸山珈琲に移り、同社の統括マネジャーとして店舗経営からバリスタ育成まで担当。14年には、井崎氏をJBC2連覇、WBC(世界大会)でも優勝に導いた。

 15年に独立した後も活動を続け、これまで30人以上のバリスタを各種競技会のセミファイナリスト以上に導く。その業績が前述の「外食アワード」受賞にもつながった。周囲に聞くと、阪本氏のコーヒーへの探求心、情熱、選手の特性を分析する能力が評価されているようだ。

●コーヒー抽出器「FURUMAI」も開発

 今年のSCAJブース(商品展示会)では、阪本氏が開発に携わった全自動のコーヒー抽出器「FURUMAI」(ふるまい)も話題を集めた。これまでにない次の特徴が興味を引いたのだ。

(1)部品の大半が国産。国内の職人が製造した正真正銘の「日本製」
(2)さまざまな設定ができ、ボタンを押せば抽出できる「全自動マシン」
(3)世界王者など、有名バリスタが開発アドバイスに参加

(1)は、コーヒー抽出器には外国製も多く、設定の微調整や部品の交換などの対応は難しい。輸入代理店が扱う場合は、「店の要望を本国メーカーに伝える役割」になる。「この商品は高品質の日本製で、ミルの刃ですら国産。修正対応も柔軟にできます」(同)という。

(2)は、各店が「好みの抽出」設定も可能だ。「粉のメッシュ、温度などの基本はもちろん、設定範囲は広いです。たとえば、圧力をかけて1分から1分半で短時間抽出すること、逆に3〜4分でゆっくり抽出もできます。ドリップやフレンチプレスも再現できるのです」(同)

(3)は、ステファノス・ドマスティオス氏(14年WBrC=ワールドブリュワーズカップ王者のギリシャ人)やバーグ・ウー氏(16年WBC王者の台湾人)、岩瀬由和氏(14年、15年のJBC王者、16年WBC準優勝の日本人)のバリスタ王者が、開発アドバイザーを務めた。

●「コーヒー第4の波」を担う可能性

 この商品は、「フォースウェーブコーヒー」(第4の波)に化ける可能性を秘めている。

「フォースウェーブ(第4の波)」とは、高品質なコーヒーの新たな潮流で、「どの農園でどんな栽培をされた豆か」「誰が淹れたコーヒーか」「人気バリスタの味を数値データで再現」などの“さざ波”がある。これらが合わさって、ビッグウェーブが来ると予測する声もある。

 有名バリスタが開発に参加した、国産の全自動マシンは、上記の2点や3点すべてを実現できる可能性を秘める。価格は未定で、今後は細かい点を改良して市場に出すという。

「最高のバリスタと最高のコーヒー抽出器は、ライバル関係にはなりません。ともにコーヒー業界を盛り上げ、味を求める消費者に素晴らしいコーヒーを届ける存在です」(阪本氏)

 筆者は多くの業界を取材してきたが、若者が楽しげに働く業界は少ない。コーヒーブームが一過性に終わらず長続きするためには、阪本氏以下の世代の「本気度」が欠かせない。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。


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