日本電産、昨年に社長退任の永守氏の復帰説くすぶる…次々と去った後継者候補たち

日本電産、昨年に社長退任の永守氏の復帰説くすぶる…次々と去った後継者候補たち

 日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の特別背任容疑を受け、経営者の“賞味期限”があらためて問われている。華々しい実績を上げた花形経営者が、退き際を間違えて晩節を汚すどころか若き日の高名をまったく無にしてしまうことが往々にある。本田技研工業(ホンダ)の創業者、本田宗一郎氏の鮮やかな引退が“神話”として語り継がれているのは、それほど出処進退の決断が難しいということだ。

 オーナー経営者といえども、経営を誰かに継がせる時期が必ず来る。そのタイミングこそが、経営者としての賞味期限といえる。

 日本電産は2018年6月20日に開いた株主総会で、永守重信会長兼社長が会長兼最高経営責任者(CEO)に就き、吉本浩之副社長が社長兼最高執行責任者(COO)に昇格した。

 永守氏は強烈なカリスマ性で日本電産をグローバル企業に育てた創業者だ。終身社長とみられていたため、サプライズな社長交代となった。永守氏は会長として買収戦略など経営の中枢を担いながら、大学の経営などにシフトし、一部の業務を吉本社長に託す考えを示した。

 吉本氏はプロパー社員ではない。1991年に大阪大学人間科学部を卒業、日商岩井(現双日)に入社。2002年にはカーネギーメロン大学で経営学修士(MBA)を取得した。カルソニックカンセイを経て、12年に日産自動車へ入社。タイ日産自動車の社長を務めた。

 15年3月に日本電産へ移ると、その2カ月後には日本電産トーソクの社長に起用され、翌16年には日本電産の副社長執行役員に昇格、そして18年に社長になった。異例ともいえるスピード出世ぶりである。

「経営力を見るには、ダメな会社を再生させてみたらわかる」

 永守氏が社長交代の会見で、こう語った。吉本氏は、初めは日本電産トーソクの社長として同社を、その後は本社の車載事業本部を成長軌道に乗せた。

 自分より20歳以上も若い吉本氏について、「その当時の私の経営のやり方より、彼のほうが優れているんじゃないか」と評価した。

 永守氏の経営を象徴するキーワードは、「マイクロマネジメント」。部下に対して細かく管理・指示することで、現場の生産性を最大限に引き出すというものだ。この手法によって、日本電産は買収を重ねながらグローバル企業に成長した。吉本氏は、日本電産トーソクと車載事業の経営の第一線でマイクロマネジメントを実践したことが、永守氏のお眼鏡に適ったということなのだろう。

 当面は、集団指導体制に移行する。永守氏は、「(役割分担は)まずは7割と3割でいくが、数年かけて逆転させていく」と、段階的に権限を委譲する考えだ。

●新社長の目標は21年3月期の売上高2兆円

 日本電産の合議制の実験が始まった。最高執行責任者(COO)の吉本社長をはじめ、最高技術責任者(CTO)の片山幹雄副会長(元シャープ社長)など、「C(チーフ)」の肩書きを持つ5人の役員が集う「COO会議」を毎週開き、議論の上で最高経営責任者(CEO)の永守会長の決裁を得る合議方式の集団指導体制である。

 永守氏がM&A(合併・買収)など中長期の成長戦略を担当する一方で、各事業部や世界のグローバル各社の採算改善などは吉本氏が担当する。

 自動車、ロボット、省エネ家電、ドローンなど4つの技術トレンドを核に、売上高を2021年3月期に2兆円、31年3月期に10兆円に拡大する目標を掲げる。

 吉本氏の社長初年度にあたる2019年3月期の連結決算(国際会計基準)の売上高は前期比7.5%増の1兆6000億円、営業利益は同16.9%増の1950億円、当期利益は同12.4%増の1470億円の見通し。重点分野に据える車載用は電動パワーステアリング向けやブレーキ向けモーターが好調だ。

●中国での生産体制見直しへ

 21年3月期の売上高2兆円が直近のターゲットとなる。車載用は電気自動車(EV)などの駆動に使うトラクションモーターについて、18年10月23日の決算発表での永守氏は「以前の10倍や15倍といった桁違いの引き合いがある」と発言した。

 中国でEVに使うモーターの新工場を建設中。第1弾として中国の広州汽車集団系のEVメーカーに採用され、今後、現地の大手自動車メーカーに供給する計画だった。

 ところが、米中貿易戦争が一段とエスカレートし、戦略の変更を余儀なくされた。経済メディアのインタビューに応じた吉本社長が明らかにしたところによると、EVの駆動用に使うモーターの工場を、20年をメドに世界3極体制にするという。建設中の中国工場のほか、ポーランドとメキシコでも生産を開始する。設備投資額は総額1500億円程度を毎年継続し、駆動用モーターの売上高を23年3月期に1000億円、26年同期に2000億円に拡大し、主力事業に育てる。

 米中貿易戦争による関税の増加に対処するため、中国から米国に出荷していた家電や車の部品の一部をメキシコ工場からの出荷に切り替えたほか、発電機などに使う大型モーターについては欧州工場から米国に出荷する体制を整えたという。対応は早かったが、トランプ米大統領の米国第一主義に振り回された格好だ。

 21年3月期の決算が、吉本合議体制の重要な勤務評定となる。永守氏は、これまでにも幾度となく後継者と目される人物をスカウトしてきたが、「ダメな会社を再生させる経営力」をアピールできずに日本電産を去っていった。

 次は、永守氏との役割分担を、3割から7割に引き上げること。吉本氏がこれをクリアすれば、名実ともに日本電産のトップになる。これが順当な見方かもしれない。

 少し気が早いかもしれないが、21年3月期の決算次第だ。吉本氏が「社長兼CEO」になれるのか、それとも永守氏が社長兼CEOに復帰するかの究極の選択となるかもしれない。「永守氏の社長復帰の可能性は3割ではなく、7割に近いかもしれない」(日本電産の役員OB)との見方もある。

 というのも、日本電産を取り巻く政治・経済環境は時々刻々と厳しさを増しているからだ。それは、1月4日の大発会で昨年来安値を更新、1万1565円をつけたように、株価の下落がそれを先取りしている。ちなみに、高値は昨年1月25日の1万8525円。
(文=編集部)


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