三菱UFJ、7千億円の巨額買収、生き残りかけた大勝負…金融の主役陥落、銀行の危機感

三菱UFJ、7千億円の巨額買収、生き残りかけた大勝負…金融の主役陥落、銀行の危機感

 3月1日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下の三菱UFJ銀行は、ドイツDZバンクの子会社であるDVBバンクから航空機ファイナンス関連事業を取得(買収)すると発表した。買収規模は56億ユーロ(7000億円超)とかなり大きい。DVBバンクは、航空会社などに対して航空機購入の融資を手掛けている。MUFGはDVBバンクから貸出債権に加え、航空機ファイナンスの専門家も受け入れる。

 今回の買収は、ある意味では成長のための“時間を買う”ことだろう。その背景には、MUFGが将来への危機感を強めていることがある。MUFGは、生き残りをかけて、大規模な買収に踏み切った。

 わが国では、少子化と高齢化に加え人口減少が進んでいる。基本的に、国内でのビジネスチャンスが低迷するなかで経済は縮小均衡に向かう可能性が高い。そうなると、銀行が収益を獲得することは難しくなる。銀行は生き残るために国内事業の効率化を進めつつ、相対的に期待収益率の高い事業や国・地域に進出することが、経営の持続性向上に必須だ。

 加えて、IT先端企業などがフィンテック(IT先端技術と金融理論を融合したビジネス)に取り組むなど、銀行の事業環境は激変している。MUFGがこれまでに蓄積してきたノウハウに新しい要素を加え、どのように変化に対応するかは、他の金融機関や企業にも大きな影響を与えるはずだ。

●国内銀行業が抱く“危機感”
 
 現在、多くの銀行が将来への危機感を募らせている。

 背景には、2つの要因がある。まず、わが国の経済が、縮小均衡に向かう恐れが高いことだ。わが国では少子化、高齢化、人口の減少が3点セットで進んでいる。特に、現役世代は将来への不安を痛感している。個人の消費は増えづらい。国内の資金需要が高まる展開は考えづらい。銀行の収益状況は、かなり厳しいといえる。

 わが国では、間接金融優位の時代が長く続いた。銀行は預金を集め、それを貸し出しなどに回すことで利ざやを確保してきた。これが、銀行ビジネスの“肝”だった。高度成長期など経済が右肩上がりの状況にある場合、この発想は有効だった。それに加えて銀行は国債のディーリングや政策保有株(株式の持ち合い)を通して、収益を獲得してきた。

 しかし、国内の資金需要が高まらない(お金を借りたい人が増えない)と、この発想は行き詰まる。特に、2013年4月に日本銀行が異次元の金融緩和策を発動したマグニチュードは大きかった。これは、もともと低かった金利を、さらに押し下げた。さらに悪いことに、日銀の金融政策は短期と長期の金利差を縮小させた。これは銀行にとって致命的だ。本来、期間に応じて貸し出しのリスクは高くなる。貸し出す期間が長くなればなるほど、経営環境やその企業の信用力の不確実性が高まるからだ。日銀の金融政策は、銀行の金融仲介機能を低下させたといえる。

 もう一つの要因が、銀行が新規参入の脅威に直面していることだ。スマートフォンを用いた代金の支払い手段であるモバイル決済など、フィンテックのマグニチュードはすさまじい。中国のIT大手アリババの金融ビジネスを見ていると、もはや銀行は金融ビジネスの主役ではなくなっているとさえいえる。

 収益の減少と異業種からの金融ビジネス参入によって、社会全体で金融仲介と資金決済を支えてきた銀行の存在意義そのものが揺らいでいる。その結果、多くの銀行が今後の経営に危機感を抱いている。

●海外での収益獲得を目指すMUFG
 
 わが国の銀行がこの変化に対応するには、事業運営の効率性を高めることと、収益を増やすことが必要だ。MUFGは支店の統廃合や三井住友銀行とのATM相互開放などを通して事業運営にかかる経費を抑えようとしている。

 収益を増やすためには、期待収益率の高い分野に進出しなければならない。MUFGは経済成長期待の高いタイやインドネシアにおいて現地の銀行を買収し、商業銀行ビジネスを中心に競争力をつけてきた。それに加え、MUFGは海外のプロジェクトファイナンスなどの分野も重視している。そのために、同グループは収益力の強化に必要な事業を他の金融機関などから取得する“カーブアウト型”の買収にも取り組んできた。

 今回の買収の背景には、DVBバンクの海運事業の悪化を受け、親会社であるDZバンクが関連資産の売却を進めてきたことがある。MUFGにとって、航空機ファイナンス事業は魅力的な分野といえる。なぜなら、その期待収益率が高いからだ。

 空運産業は、マクロ経済の動向や天候・感染症(SARSなど)の影響を受けやすい。そのため、リスクは相応に高い。一方、世界的に航空機の需要は増加するとの期待が高まっている。新興国における所得の増加などによって、世界的に航空旅客は増加傾向にある。そのニーズを反映してLCC(格安航空会社)の存在感が高まっている。加えて、省エネ型機種の導入が進むなど、航空機業界は大きく変化している。

 この状況はMUFGにとってチャンスだ。DVBバンクの航空機ファイナンス事業は、ナローボディー(通路が1本)の旅客機を筆頭に、リージョナルジェットなど多様な機種を扱っている。加えて、同行は南米や中東・アフリカなど幅広い地域をカバーしている。DVBバンクの航空機ファイナンス事業は収益源が分散され、MUFGが海外での収益力を強化するために重要な案件といえる。

●他の銀行経営に無視できない影響を与えるMUFG

 世界各国でIT先端企業などがフィンテック事業に取り組んでいる。この状況が続くと、銀行から他の企業に顧客が流れ、銀行が必要とされなくなる日が来てもおかしくはない。MUFGはその展開にかなりの危機感を抱いている。MUFGが分散型のネットワークテクノロジーを活用したデジタル通貨の実用化を目指しているのは、そうした変化に適応するためだ。

 MUFGにはさらなる取り組みを期待したい。ポイントは、銀行が蓄積してきた信用審査・創造のデータやノウハウを生かし、金融のプラットフォーマーを目指すことだ。

 銀行は、個人や企業の信用審査に必要な知見を蓄積してきた。それを最大限に活用することが目指されるべきだ。特に、フェイス・トゥ・フェイスで銀行が企業などと接し得られてきた感覚などは、簡単にデータ化できるものではない。それは銀行にしかない“宝”だ。

 MUFGが信用審査などの経験をネットワークテクノロジーと融合させ、従来にはない、より高度かつ効率的な信用創造のテクノロジーを生み出すことができれば、ユーザーの満足度は高められるだろう。国内の銀行経営にはそうした発想があってよい。

 MUFGが新しい取り組みを進めることは、銀行経営の“常識”を変化させるだろう。大手行と異なり、地方銀行が自力で新しい取り組みを進めることは容易ではない。地方銀行にとって、他の銀行と経営を統合してシナジーの発揮を目指しつつ、海外事業などに関しては大手行とアライアンスを結ぶのが現実的だろう。

 国内最大手行を傘下に持つMUFGの新しい取り組みには、国内銀行業界の変化を促す触媒の役割があるといえる。MUFGがフィンテックや海外事業の面で優位性を示すことができれば、銀行業界におけるアライアンスの重要度が高まるのみならず、経営統合の加速化など業界再編も進むだろう。一見するとそうした変化に不安を感じる人は多い。しかし、変化が成長を促す。低金利・低成長に加え、世界経済の先行き不透明感も高まりつつあるなか、MUFGが積極的に新しい取り組みを進めることを期待したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)


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